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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百四十三話・センセーの存在を確認


「アタト様、もうそのくらいで」


夫人の声に僕はサンテの傍を離れる。


「申し訳ありません。 少し言い過ぎました」


ポリポリと頬を掻く。


「うふふ、アタト様は同じ年頃の方にも容赦ありませんね」


へっ、それは褒められて、ないな。


僕はどうやら気に入らない相手に対しては容赦ないと思われているようだ。


まあ、この館でもキランに対してやらかしてるしな。


仕方ない。




「そうですね。 サンテリーさん、ごめんなさい。 よく知らないくせに酷いことを言ってしまって」


僕はサンテにきちんと謝罪する。


「い、いいえ。 おれも、ごめんなさい。 おれたちのこと考えて言ってくれたのに」


6歳にしては大人びていると思ったら、双子は僕と同じ8歳だった。


体格が小さいのは栄養が足りないせいか。


 貧民街育ちにしてはしっかりしていると思ったら。


「センセーがたまに勉強みてくれてる」


学校とか教育機関ではなく、個人的に指導を受けていたようだ。


そうなると、僕はそのセンセーが気になる。


会ってみたい。


「一度、ご挨拶に行かなければなりませんね」


一方的に引き離すことになるからな。


王都を離れるなら尚更だ。



 

 この子たちを連れて?。


いや、悪い仲間たちが待っているかも知れない。


「文字は書ける?」


サンテに訊ねると頷いた。


「ではセンセー宛に手紙を書いてもらおうかな」


「分かった」


それを持って行くことにしよう。


「そういえば、ティモシーさん。 この子たちの仲間はどうしました?」


ひったくり常習の仲間たちがいたはず。


「強制は出来ないが、教会にくれば生活と教育の保証は出来ると話して来たよ。 どちらの生活を選ぶかは彼ら次第だな」


「犯罪者としてではなく?」


ティモシーさんは腕を組む。




「サンテリーくんの場合は証拠があるから捕まったが、他の子供たちには無いからね」


誰かの証言だけでは罪にはならない。


物的な証拠があり、状況、動機、そういったものが揃って初めて罪に問われる。


ただし、逃げる恐れがあれば一旦捕縛して牢にぶち込んでおくそうだ。


貧民街の大人たちはそんなふうに何度か捕まっては釈放されたり、罰を受けていたりしている。


この子たちもこのままなら、いずれそうなるのだろう。


 そんな者たちが増えないように教会がある。


しかし、教会が引き受けるのはせいぜい15歳未満、未成年の子供だけ。


「王都の教会の施設は満杯なのでは?」


これだけ大きな街だと身寄りのない子供も多かろう。


「まあ、預かる子供も多いが、住み込みで仕事が見つかったり、養子に貰われたりする子供も多いからね」


ティモシーさんの言葉にピクリと双子の体が動く。




 そうか。 双子は何かから逃げていたのかもな。


少なくともセンセーはそれを知っている。


髪を染め、教会にはやらず、密かに生活させていたのには何か複雑な事情がありそうだな。


 そろそろ時間も遅いので、キランに頼んで双子を部屋に連れて行ってもらう。


「おやすみなさい」


「おやすみなさい、良い夢を」


夫人は子供たちを見送ると、本館へ戻って行った。


僕たちも部屋に戻ろうか。




「それで、キミは何者だ」


部屋に戻ると見知らぬ女性がいた。


夜の庭に面した窓が開いている。


あそこから入ったのか。 鍵は掛かっていたはずだが。


膝までの黒いローブ、フードを深く被っている。


よく分からないが、薄い体型と服から覗く白い手を見て女性だと感じた。


「名乗る気がないなら叩き出すが?」


そう言ってやると、少し動揺したのが分かる。


「……顔を見に来ただけ」


柔らかい声は、やはり女性っぽい。


しかし、胸元がかなり寂しいな。


「見るな」


今さらローブの胸元を掻き合わせても無駄だよ。




 モリヒトが部屋に結界を張る。


防御でも防音でもない、完全な遮断。


それだけ危ない存在だということだ。


『お茶でもいかがですか?』


警戒を見せずにモリヒトはお茶の用意を始める。


「いいえ。 すぐに帰るからいらない」


僕は椅子に座り、モリヒトが淹れたお茶を啜る。




 おそらく、そういうことなんだろう。


「見に来たのは、僕を?。 それとも、サンテリーくんとハーナちゃんかな?」


またダンマリだ。


「キミがあの双子のセンセーなの?」


「違うっ!」


おや、反応した。


「センセーではない?。 じゃあ、弟子?、助手あたり?」


「違う違う、私は」


相手は座っていた窓枠から降りて室内に入って来た。


これで結界内に閉じ込めが完了する。


さあ、ゆっくりと話を聞こうじゃないか。




「僕はアタトだ。 キミの名前を教えてほしい」


「……教える気はない。 でもそちらの名前は聞き覚えがある」


「それは光栄だな」


どこで聞いたのか、じっくりと伺いたい。


僕はニコリと微笑む。


「だけど、あの双子は返さないよ?」


黒いフードの下の顔が驚いたのが分かる。


「どうして?。 あなたたちには関係ない子供でしょ?。 わざわざ引き取る意味が分からないわ」


ヨシヨシ、だいぶこちらの話に乗って来たな。


「あの子たちは悪い環境から逃げたがっている。 それに、色々と利用価値がありそうだ」


ブワッと相手の怒気が膨れ上がる。


「アンタたち貴族のほうがよっぽど醜いじゃない!」


「何故?。 貴族に飼われていたのかな、あの子たちは。 それとも、貴族に酷い目に遭わされたのはキミか?」


双子はまだ幼い。


何かあったとしても覚えていないか、理由など分かっていないかもな。


黒いフードの女性は、また黙り込んでしまった。




 さて、分かったことを確認しよう。


「お前は双子の関係者だな」


それは確定。


「魔法で鍵を開けたのなら、かなり高位の魔術師か、高度な魔道具を持っている」


この館の門は魔法柵が使われていた。


警備兵に見つからずに侵入するとはたいしたものだ。


「そして、あの双子はその高位魔術師が気にかけるほどの価値がある、ということか」


フードの下の口元が悔しそうに歪む。


バシッと音がして、テーブルの上に封筒が一つ叩きつけられる。


「そっちの名前が『アタト』なら、これはお前宛てだ!」


同時に結界が破られた気配がした。


「逃げたか」


モリヒトの結界を破るとは凄いな。



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