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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百四十話・少年の才能と保護


 僕は一歩近付く。


話し掛けようとしたところで、人混みで騒いでいる子供たちに気付く。


あれは少年の仲間たちということか。


「ティモシーさん。 その少年と話をさせてもらえませんか?」


他の大人たちはサッサと牢にぶち込んでくれていい。


ヤマ神官にもついて来てもらい、教会内の部屋へ向かった。


「ガビー、悪いけど」


野次馬の中に少年の家族がいたら連れて来るように頼んだ。


「はい、お任せください」


ガビーはすぐに建物を出て行った。




 何もない小部屋に縛られたままの少年が連れて来られる。


僕とモリヒト、ティモシーさんとヤマ神官。


他は部屋から出て行ってもらう。


「な、なんだよっ、お前ら」


少し威勢が悪くなったな。


「ヤマ神官、彼を魔力開放してみませんか?」


「ふむ。 アタト様の頼みならば」


頷いたヤマ神官が部屋を出て行ったのは、何か必要な道具を取りに行ったのだろう。


「おい、そこのガキ。 お前、オレを助けろよ!」


僕は相手をする気はない。


好きなだけ勝手に喚いていろ。


 扉が叩かれてガビーが女の子を連れて入って来た。


「サンテ!」


女の子が少年に抱き付いた。


「妹のハナまで連れて来て、お前ら、何しようってんだ!」


何って、決まってるだろ。


保護するんだよ。




 ヤマ神官が戻って来た。


「すぐに始めてよろしいですかな?」


「その前に」


僕は、儀式を始めようとするヤマ神官に待ったをかける。


「この部屋で起きたことは内密にお願いします」


「ああ」「はい」「分かりました」


床に座り込んでいる縛られた少年と、その妹に顔を向ける。


「キミたちもだ。 誰にも言ってはいけない。 心配するな、痛い思いなどはしないから」


「ほんとだな?、ハナもだぞ!」


「ああ。 約束を守ってくれればな」


と、僕は頷く。


「わ、分かった」


少年は頷き、妹にも言い聞かせている。


良い兄貴だな。




 僕は子供二人に清潔の魔法を発動した。


驚いて目をパチクリする子供たち。


その子供たちの前をヤマ神官に譲る。


「案ずるな、このコインを握るだけでよい」


ヤマ神官が差し出す手のひらのコインに恐る恐る少年が手を伸ばす。


コインに触れると同時にヤマ神官が、その少年の手ごと握り、何かを呟いた。


ピカリとコインが光る。


「ヒッ!」


少年が驚き、目を閉じていたヤマ神官が目を開く。


「いい子だ」


そう言って少年の頭を撫でる。




 ヤマ神官は立ち上がり、僕に頷いた。


「光属性で間違いないですか?」


「詳しいことはまだハッキリとしないが、それに近いだろうな」


僕はヤマ神官の言葉に首を傾げた。


「どういう意味です?」


「確かに神職向きの属性でしょうな。 魔力の気配がとても清浄です。 しかし、光属性特有の回復や治癒の気配が見えません」


僕はモリヒトを見た。


「どう思う?、モリヒト」


モリヒトは静かに首を横に振る。


『分かりませんが、複数の才能を持っているとか、そんなところでしょう』


「複数の才能だと!。 そんなバカな」


大声を出したのはティモシーさんだった。


「確かに珍しいことではあるが、才能が全く無い者たちがいるのだから、二つ持っている者がいても不思議ではないよ」


ヤマ神官は冷静だ。




 さて、どうするか。


僕は少年の前にしゃがみ込む。


「キミは才能持ちであることが分かった」


「だったら、どうだってんだよ!」


才能持ちの恩恵を知らないとは。


おそらく、年齢的にはトスとそんなに変わらない。


かなりギリギリの生活をして来たんだろう。


悪い奴らに唆され、いいようにこき使われて。


「キミが選べる道が増えたということさ。


一つは、このまま牢に入り裁定を受ける」


子供だし、ひったくり程度ならすぐに解放されるだろう。


しかし、再び同じ生活に戻るしかない。


「次に、この教会の施設に入ることが出来る。 妹さんも一緒だ」


親か、代わりの保護者はいるか、と訊くと首を横に振る。


「仲間がいるから」


「では、そいつらも一緒に施設に入れるように口を利いてやる」


少年は黙り込んだ。


一生懸命に考えているんだろう。


どうすれば良いかを。




「もう一つは。


僕と一緒に辺境地に行くか?。 仕事ならいくらでもある。 住む場所は教会の施設になるが、人が少ないから静かでいいぞ」


悪い奴らと縁を切ることが必要だと思う。


王都にいる限り、そういう奴らとの腐れ縁は切れないからな。


片道20日も掛かる所までわざわざ追って来るなんて、本当の親でもなければあり得ない。


希少な才能を持ち、珍しい魔力の揺らぎ。


ああ、勿体無い。


周りの大人たちが息を呑んで見守っている。


「慌てなくてもいいさ。 一晩くらい、あの捕まったお仲間と一緒に牢で考えればー」


「行く、行くよ。 妹と一緒に辺境地に!」


ふん、決まりだ。


「ガビー、奥様がまだいるか見て来い」


「はい!」


バタバタとガビーが部屋を出て行った。




「本気ですか、アタト様」


ヤマ神官が眉を寄せて不快そうな顔をした。


神職は慢性的な人手不足だ。


ヤマ神官は教会で預かって神職の修行をさせたいのだろう。


以前から、教会では魔力開放の儀式の時に神職関係の才能持ちの子供は、すぐに取り込みの誘いをかける。


特に貧しい者は、身分に関係なく高給な神職に飛び付くらしい。


それはいいんだが、この少年の場合はヤバいと僕は思う。


「魔力が漏れ、才能が判別出来ない子供は危険ですよ」


教会内の施設では他の子供に影響が出るかも知れない。


「しかし!」


ヤマ神官はしつこく教会に預けろと主張する。




「まあまあ、待ちなさい」


ガビーが辺境伯夫人と、警備隊隊長を連れて戻って来た。


ガビーから話は聞いたらしい。


「その子供はアタト様に預けましょう」


話が分かる老騎士様だ。


「私はその子たちを館に連れて行けばよろしいかしら?」


「お願いします」と、僕は夫人に頭を下げた。


夫人と子供たちが部屋から出て行くと、老騎士はヤマ神官を宥める。


「アタト様なら悪いようにはされないじゃろ」


「だがしかし……」


僕はそんなに信用がないのか。


「辺境地に戻られたら、定期的にあの子供の観察記録を送ってくだされ」


これは、僕との繋がりの強化が目的か。



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