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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百三十九話・信仰の対象と試作品


 翌日、朝食後に出掛けようとしていたら、辺境伯夫人に声を掛けられた。


「教会に行かれるとか。 ご一緒させて頂けませんか?」


「はい、奥様。 喜んでお供させて頂きます」


教会内では別行動で良いというので、とりあえず一緒に行くことになった。


夫人の馬車には侍女と護衛兵。 僕は別の馬車で、モリヒトとガビーがいる。


スーはまだ何やら考え中らしく、館に残った。


余計なことをしなけりゃいいけど。




 教会の中は相変わらず大勢の人々で賑わっていた。


「お忙しいとは思いますが、ヤマ神官にアタトが来たと伝えてください」


受付で頼むとしばらく待たされる。


「アタト様。 よろしければ、その間、ご一緒にいかがですか?」


「あ、いえ、僕は」


断ろうとしたが、何故か強引に参拝者の列に並ばされた。


まあ、仕方ない。 たまには付き合いますか。




 ガビーは困惑している。


「ドワーフ族は何を信仰してるの?」


僕は小声で訊ねる。


「鍛治の神ですね。 あとは火属性の精霊様もお祀りしますよ」


工房には必ず祭壇があり、酒を捧げるそうだ。


「エルフ族はしないのですか?」


「さあ。 どうなんだろうな」


村では確かに森の神を祀っていたと思うが、よく覚えていない。


祭壇のようなものは村長が管理していたし、年に一度くらいしか見せてもらえなかった。


「エルフは精霊が傍にいるのが普通だからな」


各自が自分の精霊を大切にすれば良いということらしい。


 僕はチラリとモリヒトを見る。


モリヒトは精霊王の側近だという。


さて、その精霊王様は誰に従っているのやら。




 僕とガビーは、ご立派な神像と、祈りを捧げる人々をぼんやりと眺めていた。


そこへ神官見習いの若者が駆け寄って来る。


「アタト様、ヤマ神官がお会いになるそうです」


ヤマ神官に叱られたのかな。


汗を拭い、息を切らせている。


「すみません、奥様。 僕たちはここで失礼させて頂きます」


「はい。 アタト様、こちらに気兼ねは無用ですわ」


僕たち3人は辺境伯夫人に対して礼を取り、神官見習いと一緒に奥へと移動した。




 先日もお邪魔したヤマ神官の執務室。


勧められた椅子に座ると、モリヒトとガビーは後ろに立つ。


軽く時候の挨拶をしている間にお茶を淹れた見習いが下がると、モリヒトが室内に防音結界を張る。


ガビーに合図をして試作品をテーブルに並べた。


「なるほど、さすがアタト様ですな」


ニヤリと口元を歪める顔はとても神職には見えないぞ、ヤマ神官。


「触ってもよろしいかな?」


「もちろん、どうぞ」


ヤマ神官は手に取り、じっくりと眺めている。




 ゆっくりと手触りを確かめているようだ。


「柔らかい革ですな」


何の皮か訊いてくる。


ガビーに頷いてみせると説明を始めた。


「はい。 蛇魔獣の皮をなめして染めたものになります。 水や傷にも強く、自己補修の特性があります」


自己補修は、ある程度の小さな傷にしか効果がないので、思いっ切り短時間で舐めして、染色も最速でやるそうだ。


そこはドワーフの技術力の高さである。


「それは素晴らしい」


ヤマ神官も素直に褒めた。




「中に入っているのは紙ですかな?」


「はい。 安価な紙を利用しています」


と、見本用の紙を取り出す。


 魔獣の皮が取り込む魔素は、僕が書いた文字に集まり発動するための魔力になろうとする。


しかし、魔石が存在しないため溜まらない。


微量の魔素のまま霧散するのだ。


「ほう。 美しい文字だ。 しかも乗っている魔力もキチンと調整されている」


「はいっ!」


なんで、ガビーが誇らしげな顔をするんだろう。


僕の名前は出さないように言ってあるけども。




「それで、紙に書いてある文字は同じですか?」


「えーっと」


ヤマ神官の質問にガビーが僕を伺う。


「見本と同じ『健康』を現す文字だと聞いています」


それがきっと一番の願いだから。


「魔力開放後は魔石を入れてやれば、そのまま『健康』を願う魔道具として作用しますが、そこは内密に」


「なるほどなるほど。 開放する神官が、これを使い続けるかどうかを訊ねればよい訳ですな」


必要なければ回収し、引き続き使うならば小さな魔石を入れるよう進言すればいい。


ヤマ神官は何度も頷く。




 僕は別案として、小さな袋にして服に縫い付けるものや、小さな四角で薄い板状にした革を首飾りに付けたもの等の図案も提出した。


袋や板にも蛇革を使い、紙を挟み込める。


「蛇革は大量にありますし、この程度の大きさならば加工し易く、安価です。 紙は、実質ほぼ無料ですが、書く者には謝礼が必要かと存じます」


何でも無料ただには出来ない。


僕は卸価格を書いた見積書をそっと差し出す。


「ふむふむ。 ありがとうございます。 さっそく検討させて頂きますよ」


持って来た試作品は、毛玉被害者がいた場合に渡してもらうように頼んだ。


「それはありがたい」


ヤマ神官の疲れた顔が少しだけ本当の笑顔になった。




 そろそろ引き上げようと立ち上がる。


モリヒトが結界を解くと、廊下が少し騒がしい。


「なんでしょうな」


ヤマ神官と一緒に声のする方に向かう。


馬車が停まる場所に縄で縛られた男女が数名、教会警備隊員に囲まれていた。


 僕は見知った顔に話し掛ける。


「ティモシーさん、お疲れ様です」


「ああ、アタトくん。 被害届けがあった分だけは何とか捕まえたよ」


僕は頷く。


 毛玉の『御守り』の在処ありかは、モリヒトのランプを使えば導いてくれる。


辿り着いた先にいる者がどういった経緯で入手したかを訊ねれば良い。


そもそも、売り渡した場合は被害ではないので、被害届けは出せない。


本当に奪われて悔しい思いをした者だけが届けを受理されている。


「本当にその者から貰い受けたのだな?」


「へ、へえ」


「その者からは被害届けが出ておる」


「チ、チクショー」となるわけだ。





「いってぇ!、離せー、このヤロウ」


威勢の良い声に顔を向けると、一人の少年が縛られ、引き摺られて来た。


「ひったくりを生業にしている子供ですね」


まだ魔力開放もされていない。


6歳くらいだろうか。


「モリヒト、分かるか?」


『ええ』


僕たちは、その少年から異様な魔力の揺らぎを感じた。



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