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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百三十八話・御守りの新作を作る


 ヨシローとケイトリン嬢が護衛メイドと共に本館へ移動して行った。


「じゃ、私たちは訓練所で人形ひとがたを作りますので」


職人の兄妹とロタ氏は辺境伯からの仕事を引き受けているので、そちらへ行く。


 残ったのは、僕とモリヒトとドワーフ娘。


作業台代わりに食堂のテーブルを使わせてもらう。


終わった後、傷の補修や掃除をキチンとするという条件で辺境伯家の家令さんには許可は取ってある。




 さて、まずはどんなものを作るか。


「お前はほんっとーに世の中の常識てーものを知らねーな!」


先ほどからスーが張り切って描いてきた図案を却下している。


「なによ!、アンタには言われたくないわっ。 アンタだって、ずいぶんと常識から掛け離れてるじゃないの!」


「僕はいいんだよ」


エルフで中身は『異世界』の老人だから。


「今、作ってるのは人族の子供用なんだぞ。 分かってんのか」


「分かってるわよ!。 でも子供用なんだから可愛いくしなきゃ!」


待て待て、そもそもそこが違うだろ。


スーは、自分が幼少期に可愛い物に恵まれなかったせいか、いやに可愛いらしさにこだわる。


だが、リボンやチャラい飾りは必要ないんだよ。




「いいか、スー。 子供にまず必要なのは安全だろう」


少なくとも、この世界では。


赤子の死亡率は貴族も平民も変わらず、元の世界より遥かに高い。


魔素が空気中に存在するため、魔力を封じるのが遅れたり、きちんと封印出来ていなかったりすると暴走し、命に関わる。


教会の神官は毎日が忙しく、尊敬を集めている理由がそこにある。


もう一つは魔獣による怪我や病気だ。


「魔獣被害の少ない王都じゃ分かりにくいが、辺境地で散々見てきたはずだ」


ガビーの弟子を自称するトスは、旅の途中で魔獣に襲われて両親を亡くしている。


最近では辺境地でも被害は少なくなっているが、それでも危険は日常であり、トスのような子供は多い。


「ここじゃ、赤子の命の危険はどこにあるのか。 そこを知るところから始めなきゃならん」


ガビーとロタ氏が頷いているが、ここには今、エルフとドワーフしかいない。




 僕は部屋の隅に佇むキランを手招きする。


「命の危険、ですか?」


キランは元々、事情があって教会に預けられていた子供の一人である。


王都は街の中心部から離れれば離れるほど、貧しい人々が住む場所が点在する。


「そうですね。 教会に保護されるまで一番辛かったのは空腹でしょうか」


あー、そーだよなー。


 王都にキランのような子供が多いのは、死亡、または何らかの理由で働けなくなった親が教会に預けるからだ。


つまり、保護者でさえ食べていけない都会の闇がそこにある。


「それは僕たちがどうこう出来る問題じゃないな」


分かってた。


祈ってやれるとしたら健康くらいか。




「では、何で作るので?」


ガビーが不安そうに僕を見る。


「モリヒト」


『はい』


大量の蛇革を出す。


ドワーフの職人になめしてもらったものだ。


柄が分からないように白く染めてある。


「これを使う」


実はあの後、また何体か蛇魔獣を狩っていたので、余りまくっていた。




「キラン。 親が教会で祝福されたものを子供に渡すとしたら、何が良い?」


「そうですね。 服に縫い付けるものとか、首飾りとかでしょうか」


「身に付けるもの、か」


ふと、手首に巻く飾りが浮かぶ。


ミサンガ、だっけ。


 僕は蛇革を腕時計の革ベルトくらいに切り出す。


それを縦折にしてみる。


そして手首に巻く。


「赤子には邪魔かな」


「いえ、子供の目印になって良いかと」


キランが何故か食い付いてきた。


訊くと、教会でたくさんの子供たちを世話していると、たまに迷子や行方不明になる子供が出る。


「探す時の目印になるのではないでしょうか」


ああ、魔獣被害などの遺体で、顔形が分からなくなっても判別する証になるか。




 試作品を作ろう。


「ガビー。 大きさはあまり変えずに、長さを変えて三種類作ってくれ。 スー。 悪いが、この革にそれぞれ違う簡単な模様を入れてみてほしい」


「はい!」


「分かったわ」


二人が作業に入る。


『しかし、アタト様。 蛇革は魔獣の素材です。 確か破れにくく、傷が付いても自然に治る特性があったはずですが』


僕は頷く。


毛玉と同じように、魔素を吸収して魔力を作らせないものが必要になる。


「モリヒト、紙を出してくれ」


『はい。 どれにいたしますか?』


上質なものから、ハリセンに使った不用品の紙まで、色々出てくる。


まずは試作なので安い紙でいい。




 普段使いのペンを取り出す。


紙を小さな四角に切り離して、文字を書く。


それを小さく折って、さっきの手首用バンドの折り目に挟み込んだ。


「どうだ?。 魔力漏れはあるか」


毛玉は極小魔石を使ったが、今回は数が必要になる。


費用が掛からず、大量に。


それでいて魔力を調整出来るもの、といえば。


僕は自分の文字しか思い浮かばなかった。


『微量ですが。 しかし、きちんと書く文字を調整すれば無くなります』


フゥッと息を吐く。


何とかなりそうで良かった。




 そうして、その日は試作品作りで一日が終わる。


安くて簡単に誰にでも作れそうな感じで。


しかし、素材は魔獣で魔力消し用文字入りの紙が入っているモノ。


もしこれで教会から注文が入れば、まあ軽く百個は作れる分の素材はある。


「明日、試作品を持って教会に行ってみるよ」


別棟の食堂で夕食を取りながら話す。


 ティモシーさんは戻って来ていないし、辺境伯にも公爵家や貴族管理部からの連絡は、まだないそうだ。


「俺たちもまだ試作段階でして」


数個の人形を設置したが、辺境伯領兵の力がどれくらいなのか、使ってみないと分からない。


すぐに壊れるようだと作り直さないといけないしな。


「ヨシローさんたちも順調ですか?」


確か、今は貴族相手の礼状の書き方を勉強中だとか。


「ヨシローさんは文字を覚えるところからなので」


ケイトリン嬢が疲れた顔をする。


あー、ヨシローは言葉は通じるから大丈夫だと、文字の勉強を怠っていたな。


「アタトくんは字が上手かったよね。 代筆してくれない?」


「お断りします」


ケイトリン嬢が睨んでるぞ。



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