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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百二十九話・市場の精算が終了


 僕たちは露店を片付け、食料品店の店先のテーブルでかなり遅めの昼食を取った。


ガビーがあちこちの屋台から料理を運んで来る。


「これ、美味しい。 あ、これも。 アタト様、どうぞ」


職人の妹さんが色々と勧めてくれて、僕は少量ずつ味見している。


しかし、スーは小さな体に似合わぬ健啖家だ。


さすがドワーフというところか。


「うぐ、うぐうぐ」


食べながら喋るんじゃない。




 市場の人影が段々とまばらになってきた。


『お待たせいたしました』


モリヒトたちは陽が沈む前には戻って来る。


「お帰り」


僕は、満足気に笑ってる兄職人とロタ氏に安堵した。


「ほれ」


ロタ氏は空になった箱を見せる。


配達は特に問題もなく、無事に終わったようだ。


「モリヒトさんのお蔭です!」


兄職人はモリヒトを盛大に褒めた。


いや、そんなに褒めても何も出ないからな。


 モリヒトが微妙に内部が見えない結界を張り、ロタ氏が精算を始める。


ロタ氏からスーに代金が渡り、そこから僕のところに素材の仕入れ代とガビーの作業代が支払われる。


大金が動いているが、周りは全く気付いていない。




「これから工房街で食事にしませんか」


場所代と販売の手伝いをした謝礼をロタ氏から受け取った職人兄妹が提案した。


打ち上げがしたいらしい。


「僕とモリヒトは辺境伯邸に戻るよ」


昨夜は王宮に泊まりだったから、とは言えないので、疲れたからと言い訳をする。


「ドワーフ街には近いんだろ。 ガビーたちはゆっくり祝っておいで」


僕はガビーに給金分を渡しておく。


お土産などの買い物に使えるだろう。




「スーはドワーフ街の宿が嫌なら、普通の人族の宿に泊まればいい。 ただし、一人では難しいだろうからガビーと行きな」


見た目が子供だからな。


保護者がいないと危ないヤツに目を付けられる。


「うん、分かったわ」


懐に余裕が出来たスーは嬉しそうに微笑む。


僕が立ち上がると、ガビーが近寄って来た。


「あ、あの、アタト様。 また連絡してくださいね」


これでスーの件が終わったので、またドワーフ街と辺境伯邸と別れての王都滞在となる。


「ああ。 そっちも何かあったら連絡してくれ」


職人の兄妹にも深く頭を下げられ、僕はモリヒトと辺境伯邸へと戻った。




 館に戻った僕は、市場でずっと試食していたので夕食は辞退し、早めに寝ることにする。


ヨシローたちは、今日は新婚家庭に必要なものや、結婚式までの支度の流れなどを辺境伯夫人に教わっていたそうだ。


一番大変そうなのは招待客だが、その辺は辺境伯が選択してくれる。


「でも、招待状や挨拶状は自分で書かなきゃいけないんだ」


ケイトリン嬢と二人で頭を抱えている。


知らん、がんばれ。


 ティモシーさんは今日は一日、市場の警備に回ってくれていたので、明日にでもどんな状態だったかが聞きたい。


「とにかく、明日にしよう」


僕はとっとと部屋へ戻って寝た。




 いつも通り、早朝に目が覚める。


『おはようございます』


「おはよう、モリヒト。 体を動かしてくる」


なんだかモヤモヤが晴れないので、汗をかいてスッキリしたい。


『承知いたしました』


久しぶりに2本で一組の愛剣を手に庭に降りる。


小振りの短剣だが、真っ直ぐではなく少し反った刃。


ドワーフの親方作の逸品である。


たまには使ってやらないとな。




 準備運動の後、素振りの型を繰り返す。


手ごたえがないのは仕方がない。


そういえば、あの兄妹の工房で武器の的用の人形ひとがたを作っていた。


一つ買ってくるか。


「お、早いな」


ティモシーさんがやって来た。


 しばらく並んで基礎の素振りをした後、


「手合わせしないか」


と、誘われた。


ティモシーさんも対人の訓練が出来ずに困っていたのだろう。


「構いませんよ」


確かティモシーさんは身体強化系の魔法が使えたはず。


「すみません、コレでもいいですか?」


僕は愛用の双剣を見せる。


「あはは、怖いな。 まあ、やってみよう」


ティモシーさんは訓練用の刃引きの鉄剣を構え、身体強化を発動した。




 しばらく打ち合うが、お互いに本気ではなく、相手の力を測っていた感じだ。


「ふう、ここまでにしよう」


ティモシーさんが剣を下ろす。


久しぶりに良い汗をかいた。


「ありがとうございました」


僕は軽く感謝の礼を取る。


「こちらこそ。 しかし、小柄な相手だと的が絞りにくいな。 良い訓練になったよ」


日頃は体格の良い大人や大型の魔獣を相手にしていて、僕くらいの背丈には慣れていなかったみたいだ。


お役に立てたなら良かった。




 朝食の席で、僕とティモシーさんが楽しそうに訓練の話をしていたら、ヨシローも口を挟んできた。


「そういえば、キランが訓練を始めたみたいだよ」


チラリと視線を室内に巡らせたが、今は姿を見せていない。


「へえ。 領兵さんたちに混ざって?」


辺境伯邸には王都邸の警備兵はいるが、現在は辺境伯夫妻が滞在していて、辺境地の本邸から領兵が来ているし、館の敷地内には兵舎と訓練所も併設されている。


キランは仕事の合間にそこへ出向いているそうだ。


「良いことですね。 ヨシローさんもたまに参加されては?」


「へっ。 あははは、俺は遠慮するよ」


ヨシロー、ラジオ体操くらいはしたほうがいいぞ。




 そうだ。


「ティモシーさん、クロレンシア嬢が近衞騎士を辞めたら辺境伯の領兵に雇えませんか?」


「え、なんだって?」


一瞬、ポカンとする。


「同じ騎士でも、公爵令嬢だと教会警備隊は無理でしょうから、高位貴族家の辺境伯の専属騎士なら雇えると思うんですけど」


目を見開いたままのティモシーさんが、僕にグイッと顔を近寄せる。


「クロレンシア嬢が、なんだって?」


目がコワイ。




「ハハハ、一般的な話ですよ。 王宮の近衞騎士を辞めた者なら、貴族家で雇えるかな、と」


拙い話題だったかな。


「クロレンシア嬢は令嬢らしからぬ努力を重ねて、ようやく騎士になったんだ。


それを辞めるなんて、そんなはずは」


うん、ごめんなさい。


「辞めろ」って言ったのは僕です。


公爵もその気でした、なんて言えないよなあ。


「出掛けてくる」


ティモシーさんが立ち上がった。


え、どうするつもり?。



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