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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百二十七話・王子の妹の話


 とりあえず、クロレンシア嬢の話を聞くことになった。


王子の祖父じい様は、たまたま僕の様子を見に来ただけだったらしいが、騎士たちの不穏な動きを感じたようだ。


僕は祖父様にクロレンシア嬢を見つけた経緯を話した。


「クロレンシア、どうしてあそこにいたのだ?」


「……」


エンデリゲン王子が相手だと何故か何も話さないので、祖父様が代わりに訊ねる。


「お嬢さんは、第七王女付きの近衛騎士なのか?」


「はい」


「何故、庭で寝ておったのだ?」


「それはー」


言葉を濁す令嬢に僕は少しイラッとする。


早く市場に行きたいんだが。




 僕は祖父様に許可をもらい、話を進める。

 

「先ほど、あの庭で金髪の少女に会いましたよ。 僕、コホン、私と同じくらいの。 もしかして、彼女が第七王女様ですか?」


王子が頷く。


「おそらく、末の妹だ」


現在の国王の子供は王子が4人、王女が7人。 合計11人である。


ほぼ既婚、もしくは婚約が決まっているらしい。


決まっていないのは、エンデリゲンと第七王女の二人。


何故か。


「あの末っ子も母親は元平民で、優秀ゆえに高位貴族の養女になった女性だ」


つまり、血統でいうと王子と同じ半分平民だという。


そのため、縁談となると他の王族の子供が先に決まるということになる。


「どうせなら高貴な血が欲しいらしい」


王子は自嘲気味に答える。


この国はそこまでの血統主義なのか。




「血筋が良くても使えなきゃしょうがないのに」


僕がボソッと呟くと「フォッフォッフォッ」と祖父様が笑う。


「馬鹿でも王族や高位貴族と繋がりが出来れば問題ないのであろうよ。


あまり優秀ではない方が有難い者もおる」


仕事など文官や武官に任せて、本人は優雅に社交だけしている者がほとんどだという。


余計なことをしないようにガチガチな監視付きなんだとか。


 それでも親は自分の子供の婚姻相手の家を蔑ろに出来ない。


やりたい放題の貴族の出来上がりだ。




 祖父様はため息を吐く。


「勿論、優秀な者もおる。 エンデリゲンも末の孫娘も親は優秀であるからな」


幼い頃から周りの目が厳しい。


母親も、担当する侍女、教師、護衛もだ。


「王女殿下は大変お心の優しい方なので、素直に従っていらっしゃいます」


そうなると、いくら優秀な子供でもいつかは反発するか、引き篭もるんじゃないかな。


側妃だけは、王子に対してあまり厳しかったとは思えないが。


 古来より王族の男児と女児では求められる能力が若干異なる。


男児はヤンチャでもいいが、女児はそうもいかない。


ストレスの発散はどこへ向かっていたのか。




「クロレンシア様は、王女殿下の側近になられる予定でしょうか?」


「……」


またダンマリか。


それとも迷っているのか。


「御隠居様。 近衞騎士の仕事は護衛だけですか?。


主人を命懸けで守るなら武器の腕前があれば良い。 礼儀作法や他国の知識も、近衞騎士には必要がないと思いますか?」


クロレンシア嬢が顔を上げる。


そんなわけないだろう!、と心の中で毒付いているのが想像出来た。


「それなりの教育は施されておるよ」


僕は頷く。


すっかり馴染みの顔になった王子の側近で護衛を兼る中年の近衞騎士を見る。


「では、騎士様。 あなたは王子が幼い頃、何回、彼を叱りましたか?」


部屋にいたそれぞれの貴人の護衛騎士が目を見開き、目を逸らす。




 僕は「モリヒト」と眷属精霊を呼ぶ。


『はい、アタト様。 何か御用でしょうか』


僕の後ろにいた黒メガネのモリヒトが一歩前に出る。


「モリヒトは僕を何度、叱ったかな?」


『さようでございますね。 あまり無いと思いますが』


少し考える素振りをする。


『百回以上はお叱りしていると思います』


だよねー。




 モリヒトが顕現し、僕と言葉を交わすようになってから、まだ一年くらいだ。


「私の件は極端な例なのでお気になさらず」


何せ、叱ってくれる相手がモリヒトしかいなかったので、親代わりで教師で師匠なのだから仕方がない。


「クロレンシア様。 貴女は王女殿下を叱れるのかなあ、と」


甘々な公爵家に育った末娘。


恋心に真っ直ぐな乙女。


周りが甘いのは王女の環境と似ていなくはないかな。


「ふむ。 護衛として守るだけでなく、きちんと叱ることも必要だと言いたいわけだな」


「ええ、まあ」


そろそろ足音が近付いて来たようだ。


目の端に侍女が扉を開くのが映る。


「クロレンシア様に近衞騎士は無理です」


部屋に入って来た人物が足を止める。


「引退されて、おとなしくどこかに嫁がれたらいかがですか」


「はあ?」


一番大きな声を出したのはエンデリゲン王子だった。




 椅子から立ち上がる王子、涙目になって俯く令嬢。


「そうだな。 私もそう思う」


そこに重い声が響く。


「お父様」


クロレンシア嬢の父親の公爵がズカズカと入って来たのである。


騎士たちは一斉に礼を取り、御隠居は楽しそうに目を細める。


「ようこそ、いらっしゃいました。 公爵閣下」


側妃は穏やかに微笑み、椅子を勧めた。


「いや、すぐに失礼する。 クロレンシア、来なさい」


「あ、あのお父様、これは」


公爵の指示で部下らしい男性が2名、部屋に入って来た。


「騎士団には私から辞意の連絡をしておく。 お前は家に戻りなさい」


「お父様!」


男性の一人が令嬢に付き添い、退室を促し、もう一人が令嬢の荷物を侍女から受け取った。


「エンデリゲン殿下、娘が失礼した。 側妃様にも後日、正式に謝罪させて頂く」


軽く礼を取り、公爵親娘は部屋から出て行った。


まあ、こうなるよな。




「じゃ、僕も失礼しますね」


バサリとローブを羽織るとモリヒトと共に部屋を出る。


「ご案内いたします」


王子の側近騎士が一緒に来てくれた。


「助かります。 王宮内は迷路みたいですから」


「あはは」と笑顔を交わすが、実際は僕たちがちゃんと城から出るのを確認するためだよな。


 いくつもの階段を降り、長い廊下を歩く。


「アタト様は」


側近騎士に急に話し掛けられる。


「クロレンシア嬢がお嫌いですか?」


は?、嫌いだから意地悪いことを言ったと思ってるのか。


「逆ですよ。 サッサと殿下と引っ付いてほしいですね」


楽しみです。



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