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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百二十一話・試作品の出来と販路


「上司に何か言われましたか?。 それとも同僚に?」


「えっ」


クロレンシア嬢は驚き、それきり黙ってしまった。


 高位貴族の令嬢である彼女に対して何か言えるとしたら、上司か王族。


もしかしたら、同僚の陰口を聞いたのかも知れない。


さて、どうしたものかな。


「ごめんなさい、そろそろ失礼しますわ」


本日は王宮内の夜警だそうで、仕事なら仕方ないな。


 僕は別棟の玄関まで見送りに出る。


「クロレンシア様、お土産にこれをどうぞ」


薬草茶の袋を渡す。


「体が温まりますよ」


春とはいえ、朝晩は冷える。


いくら騎士とはいえ、女性に冷えは禁物だ。


「ありがとうございます、アタト様」


綺麗な礼を取る令嬢を見送った。




 スーやヨシローと毛玉の試作品を見ていると、辺境伯家の本館の門まで見送ったケイトリン嬢が戻って来て、僕の前に座る。


「クロレンシア様、大丈夫でしょうか。 少し疲れているみたいでした」


近衞騎士に夜警とは、おそらくは女性王族の部屋の見張りだ。


軍人とはいえ、公爵令嬢に対して普通にあることだろうか。


何か他に彼女が疲れた顔を見せる事情でもあるのかな。


「きっと大丈夫ですよ」


僕は根拠なく笑って答える。


まあ、甘々の父親が付いてるから、あちらが何とかするさ。


ハッキリいえば、公爵令嬢に対して僕たちが出来ることなんてない。


助けを求められない限りはね。


 その後はロタ氏がやって来て、夕食まで試作品に取り組んだ。




 翌日も毛玉で試作品作りである。


ヨシローとケイトリン嬢は護衛にティモシーさんを連れて、辺境伯夫人と買い物に出かけた。


今日、別棟にいるのは僕とモリヒト、そしてドワーフたちである。


ロタ氏は新しい試作品が気になるらしく、朝から来ていた。


 色々作ってみたが、結局、残った試作品は3種類。


接着剤を毛玉全体に塗布し、それに魔石の粉をまぶして細い紐の先に付けた物。


ある程度の大きさのある極小魔石数個に糸を通したものを3本、毛玉と一緒にピンの先に吊るしてかんざしのようにした物。


極小魔石を小さな袋に詰め、『御守り』用の飾り紐が付いた毛玉の中に縫い込んだ物。


魔道具ではないが材料が材料だから、どれも価格はそこそこする。


「辺境地なら安いがここでは王都までの輸送費もかかる。 貴族や裕福な商家なら安く、平民には少し高いと感じる値段になるな」


まあ、買う買わないは個人の自由だし。


「何言ってるの。 売れないと困るんだけど、あたしが!」


スーに文句を言われる。


僕は関係ないのに、理不尽だ。




「ロタさん、これで売り出してみたいわ」


スーは本気らしい。


いや、売るために作ってたのは分かってるんだが、どうしてもおもちゃ感が拭えなくてな。


魔力を必要としない、ということは幼児向けということだし。


「どこで売るか、だな。 ドワーフ街は需要が無さそうだが、相手は人族か?」


「スーは一般の平民に売りたいと考えてるのよね?」


ガビーとロタ氏が同時に話し掛けると、スーは顔を顰めた。


「そんなの、分かんない」


そーかー。




 僕は、まずは需要があるのかどうかの市場調査をしたい。


「ロタさん。 市場にドワーフの店はありますか?」


店の隅っこでいいから場所を借り、台を置いて売り出すのだ。


「うーむ、ないことはないが。 売り物を並べた時の相性が良くないな」


ドワーフの店といえば刃物や武器防具だから、子供のおもちゃや飾りは場違いに見える。


訪れる買い物客の層も違うだろう。


「そうなると、やはり、あの兄妹の経営している工房に頼んでみましょうか」


「そうだな。 おれたちが帰った後も販売を頼むならキチンとした契約が必要になるからな」


ああ、辺境地で漁師の爺さんに頼んでいる代理販売みたいなものか。


あの時も組合に申請が必要だった。


「とりあえず、一日だけでも店に置いてもらうことは可能でしょうか」


販売ではなく、見本として置いてもらって、注文をもらってから作ることにしたい。


「三個のガラスの箱に一つ一つ入れて展示します。 お客さんには希望の商品を予約してもらって引き換え券を渡し、後日代金と交換という形にしたらどうかな、と」


これなら市場調査と販売が一度に出来る。




 ロタ氏は目を丸くした。


「そんな売り方は聞いたことがないぞ」


そうなの?。


辺境地でやった入札とあまり変わらないと思うけど。


「注文を取ってから作るというのは、かなり名の売れた職人でもなきゃ出来ん。 そもそも初めて見る品を使ってもいないのに金は出さんだろ」


「そうですか、分かりました」


じゃあ、どうすれば良いのか。


「でも三種類全て作ると、どれかが材料不足になりそうです」


毛玉の色も色々あるし、どれを作るか迷う。


「あ、あの」


ガビーが小さく声を掛けて来た。


「数量限定にするのはどうですか?」


ロタ氏とスーが首を傾げる。




「そうか。 最初から3個ずつとか決めて売り出して、売り切れた時点で他に欲しい人がいれば、その分は予約注文にすれば」


ガビーは微笑む。


「はい!。 それくらいならすぐに作れますし、材料を予め確認しておけば、どれなら作れるのか分かります。 それに合わせて注文を受ければ良いと思います」


「ふむ。 ではおれは工房の兄妹に相談してこよう」


僕はロタ氏に借り賃などの交渉を任せる。


「スー。 残りの材料を出してくれ。 ガビーは、どの品物ならいくつ作れるか、計算を頼む」


「はい!」


ガビーが元気に答えた。




 僕は極小魔石を取り出して加工する。


「あ、そうだ。 スー、これ、材料の値段な。 それとガビーの作業代だ」


実は昨日から作っておいた。


「え、なにそれ」


紐や糸などはスーでも手持ちはあるが、魔石はさすがに僕から買うしかない。


「何って。 魔獣の素材の値段だが?。 今回は極小魔石分な。 それと、ガビーに作業をさせるんだから、賃金が発生するよ」


ガビーは僕が雇っている鍛治師だから当然だ。


ちゃんとお友達価格で安くしてある。


「う、分かったわよ」


「売り値はこっちに払う分も考えて付けろよ」


「えええぇ、それもあたしが考えるの?」


僕とロタ氏は黙って頷く。


がんばれ、スー。



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