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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百十九話・異世界人の魔道具の考案


 僕は砕いた魔石の粉の上に、接着剤を塗った毛玉を転がす。


全体に魔石の粉がキラキラと輝く。


「お?」「まあ」「ふむふむ」


反応は様々だが、問題は魔力だ。


「ガビー、魔獣の特性は抑え込めてるか?」


「は、はいっ」


大丈夫らしい。


魔石の粉で抑え込めなければ毛玉自体を小さくするという手もあるな。


「んー」


キラキラした毛玉を手に持ち、スーは眉を寄せた。


「でもこれ、粉がすぐ落ちちゃうわよ?」


乾燥する地域なので接着剤の具合によっては粉が落ち易い。


「小さい網に極小魔石を着けて毛玉を包む、とか?」


ヨシローもアイデアを出す。


そしてまた皆で唸り出すのだ。




 僕は今まで出た提案を図にしてみた。


その図案を元に試作を頼む。


主にガビーの仕事になるんだが、文句一つ言わずにやってくれる。


 図案の紙にそれぞれ試作品を乗せて並べていたら、ケイトリン嬢とクロレンシア嬢がやって来た。


「まあ、可愛い」


挨拶もそこそこにクロレンシア嬢が見入っている。


ケイトリン嬢がこれまでの経緯を説明した。


「そうだったの。 飾り一つでも作り出すのは大変なのね」


今日は、お嬢様らしい服装のクロレンシア嬢。


「だけど、魔道具なら簡単に作れるのでしょう?」


と、僕を見る。




 これはアレか。


「貴族管理部でのこと、公爵様に聞きましたか」


クロレンシア嬢はニコリと微笑む。


否定も肯定もしないところが実に貴族令嬢らしいな。


「ええ、まあ、簡単ですよ」


そう言って、僕はモリヒトに頼み、毛玉に収まる大きさの魔石を出してもらう。


モリヒトに頼み、魔石に『防御』魔法を付与させる。


そして『御守り』の銀色の毛玉の代金をスーに支払い、魔石を埋め込む。


「これで魔道具の完成です」


それをヨシローに渡した。


「どうぞ」


「え、いいの?」


僕は頷く。


「その代わり、ライスの取り引きは僕に任せてくださいね」


と、小声で交渉。


「あ、ああ、それはうん」


ヨシ、これで辺境地の領主家の御用商人になれたな。


賄賂かって?。 そうだよ。




「効果を確認させてくれ」


ティモシーさんが毛玉の魔道具を見て頼んできた。


「もちろんです。 どうぞ」


『御守り』を持ったヨシローを部屋の隅に連れて行く。


そして、ティモシーさんは不意打ちのように突然、腹を殴った。


「グッ」


ヨシローは呻くが、しばらくして、


「……痛くない」


と、呟いた。


当たり前だ。 モリヒトの『防御魔法』が付与された魔獣の毛皮だからな。


「『御守り』なので魔石の魔力に合わせた効果範囲があります。 少なくとも、これを持っている者に効果があるという魔道具になりますね」


それも国宝級のな。




 ヨシローは魔素を取り込めない『異世界人』だ。


だからこそ、魔道具での防御は必要だと思っている。


「実はそれも完璧ではありません」


魔石の大きさ、込められる魔力の強さで魔道具は変わる。


「『防御』といっても種類がありまして」


物理防御、魔法攻撃防御、身体異常防御、防御結界などなど。


「今回は単に『防御』としているため、最低限の防御のみです」


軽い衝撃なら物理でも魔法でも防いでくれるだろう。


「もし、本気のティモシーさんが剣でヨシローを斬ろうとすれば、おそらく怪我はしますよ」


命の危険はないかも知れないが大怪我は必須。


それに、魔力の無いヨシローでは長く持たない。


魔獣の素材が取り込む魔素は少ないので、一度使うと魔力を補充する必要があるのだ。


「定期的に魔力を補充してくださいね」


「はい、承知いたしました」


ヨシローの世話係であるキランが頷いた。


『防御』は身に着けているだけで発動している。


そうでなければ不意打ちに反応出来ない。




 なんか疲れた。


僕はソファに座り、甘いコーヒーを頼む。

 

『そろそろ昼食の準備にかかりたいのですが、よろしいでしょうか』


モリヒトはそう言うと、カップを僕の前に置いた。


もうそんな時間か。 忙しいと時間を忘れるな。


僕は頷いて許可する。


午後からロタ氏が来ることになっていた。


 クロレンシア嬢もこちらで食べるというので、モリヒトはキランと食材の打ち合わせを始める。


「アタト様、ちょっと二人だけでお話し出来ませんか?」


モリヒトがいないのを見計らい、クロレンシア嬢が僕にこっそり声を掛けてきた。


「構いませんよ」


二人で席を離れ、テラスに向かう。




 美しい庭を見渡せるテラスにはテーブルセットが一組ある。


向かい合わせに座った。


クロレンシア嬢の侍女らしき女性がお茶のカップを置く。


「ありがとうございます」


僕がニコリと微笑むと、妙齢の侍女は顔を赤らめながら下がっていった。


初めて見る顔だ。


何かの魔力を感じたので、ちょっと警戒しておく。




 クロレンシア嬢は上目遣いで僕を見る。


子供にそんな顔をしても効き目はありませんよ、お嬢様。


「あの、貴族管理部で何かあったのでしょうか」


さっきの魔道具の件を聞いているなら知っているはずたが。


「何かとは?」


その他に何かあっただろうか。


大老翁おおおじ様が、私のことを何か仰っていたと」


あの場には父親である公爵の他に、後継者であるクロレンシア嬢の兄もいた。


そこから漏れたのだろう。


「ああ。 エンデリゲン殿下の件でしょうか」


公爵家は王家と縁戚関係にある。


大老翁おおおじとは元国王の、あの爺さんのことだな。




「そうですね。 毛皮の外套が取り上げられないと聞いて安心いたしました。 それであの『御守り』の銀色と白をご老人に差し上げましたが」


引退した王族って、なんて呼べば良いのか分からん。


「はい。 それはありがとうございました。 それで、その時にアタト様が殿下と私が並ぶのを期待されていた、と」


「ええ、確かに。 銀と白の外套を一対として贈りましたので、良くお似合いになる二人がそれを着て並ぶ姿を見たいと申し上げました」


クロレンシア嬢は耳まで赤くなり、目を逸らす。


「そんな。 私なんて殿下の隣に立てるような者ではないですしー」


まだそんなことでウジウジしてるのか。


世間では逆に、美しい公爵令嬢に、あの『奇行王子』は勿体無いと思われてるだろうに。


ハアーと、僕はため息を吐く。



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