第二百十七話・別棟の客が増えた
広場の馬車の待合所に皆で向かうことにした。
職人兄妹とはここで別れる。
「何かあれば連絡してください」
辺境伯の王都邸の場所を伝えておいた。
「承知いたしました」
何故か、深く頭を下げられる。
申し訳ない。
迷惑を掛けたのはこっちのような気がするんだが。
館に戻る馬車の中で訊ねる。
「洋服や小物は商人組合ですか?」
「そうだな。 辺境の町じゃ組合はまとめて一つしかないが、ここじゃ細かく分かれている」
制作に特別新しい技術が必要でないものは、商人街にある商売の基本的な申請を扱う組合へ行くことになる、とロタ氏は教えてくれた。
馬車にはドワーフたちが同乗している。
うん。 スーがどうしても僕と一緒に行くって聞かなくてね。
結局、ケイトリン嬢たちには館の馬車で帰ってもらい、僕とドワーフたち、そして警備隊の若者で別の馬車を拾って移動することになった。
「すみません、すみません」
ガビーは謝ってばかりだ。
「気にするな。 辺境伯の王都邸では別棟をお借りしている。 部屋には余裕があるからね」
アリーヤさんが去ったので、一応な。
「ただ、食事や家事はお願いすることになるかも知れないけど」
人数が増えればそれだけモリヒトの負担が増える。
客ではなく、手伝いなら増えても文句は言われないと思う。
「はい!、私は大丈夫です。 いつも通りですね」
と、ガビーは笑った。
確かに、辺境地の僕の住処と一緒かもな。
ロタ氏は一応ドワーフ娘たちの落ち着き先を確認後、王都のドワーフ街に戻るそうだ。
館に到着すると、先に着いていたティモシーさんが入り口で待っていた。
「辺境伯ご夫妻には説明しておいた。 人数は増えるが、なるべく手を煩わせないようにすると伝えてある」
「ありがとうございます」
辺境伯は快く承諾してくれたそうだ。
本館は夕食の時間だったので、一旦、別棟の部屋で着替えてから挨拶に向かう。
僕とドワーフ娘二人だけである。
モリヒトと護衛メイドには夕食の用意を頼み、キランにはベッドの追加をお願いした。
ティモシーさんとヨシローたちは、ロタ氏と王都の商売事情を確認するようだ。
「失礼します」
食後のお茶の時間にお邪魔する。
「ああ、気を使わなくて良いぞ。 ドワーフの娘さんたちには妻がお世話になったそうだね」
椅子を勧められて座った。
「お久しぶりですね」
「はい。 またお世話になります」
辺境伯夫人がドワーフ娘たちと挨拶を交わす。
すぐに女同士で話に花が咲く。
僕は向かい合わせに座る辺境伯に、改めて別棟に出入りする者が増えたことを謝罪した。
これから先、またロタ氏や職人たちが来る可能性がある。
「いや、それは構わぬ。 それで、市場で何かござ、あったのか?」
僕はお茶を啜り、気持ちを落ち着かせる。
どこから話そうかな。
「市場で面白い店を見つけたんです」
子供らしく、おもちゃが目に付いたと話す。
「それで工房を教えていただいて工房街にお邪魔したのです。 そこで職人たちと話をしていたら辺境のドワーフたちと再会しました」
僕はニコリと微笑む。
「それだけとは思えないのだが」
おや、辺境伯はなかなか勘が鋭い。
「実は、ここにいるドワーフのスーという女性職人が新しい装飾品を考案しようとしています」
それで工房を借りて作業しようとしていたのだと説明する。
時間がなくなったため一緒に館に来て、これからまた作業のための話し合いをする予定だ。
「素材は辺境地でしか手に入らないものです」
そのため、辺境伯領の特産品になるかも知れないという話をした。
「それは楽しみだな。 私が支援しよう、心置きなくやりなさい。 必要なものがあるのなら言ってくれ」
ガビーとスーが目を瞬く。
カップを置いて立ち上がると揃って頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
僕も立ち上がる。
「では僕たちはこれで。 夜分失礼いたしました。 おやすみなさい」
正式な礼を取る僕に合わせ、ドワーフ娘たちも礼を取った。
お、すごいな。 いつの間に人族の礼を覚えたんだ?。
別棟に戻ると食事の用意が出来ている。
食べながら今後の相談。
ロタ氏は明日また来ると言って帰ったそうだ。
広場で拾った馬車を待たせてあったらしい。
「二階の女性用寝室にケイトリン嬢と護衛メイドさん、一階の使用人用部屋が空いてるそうだから、ガビーとスーはそちらで」
「え、同室でも大丈夫ですよ?」
ケイトリン嬢はそう言うが、4人分のベッドはさすがにあの部屋には無理だろう。
狭い、というわけではない。
部屋の装飾や家具の配置上、見栄えが悪くなるのである。
いくらなんでも僕たちが好き勝手やったら拙い。
「私たちなら使用人部屋で大丈夫です。 ね、スー」
「そうね。 ま、仕方ないわ、急に押し掛けたのはこちらだし。 それにドワーフ街の宿屋よりマシだわ」
どうやら、スーは宿に戻りたくないようだ。
ドワーフ娘たちは、王都に来てからずっとドワーフ街の安宿にいたらしい。
「男臭くて嫌なのよ」
ドワーフの職人や行商人は男性ばかりだ。
当然、宿泊しているのは男性ドワーフばかりで、しかも女性らしい容姿のスーはかなり珍しがられたようだ。
まあ、ガビーは見た目が男だからな。
「どこへ行っても声は掛けられるし、田舎者扱いされるし。 ドワーフ族は基本的に田舎者ばかりのはずなのに!」
元来、ドワーフ族は地下や鉱山に住み、食料など必要なものを人里に来て買い付けたり、作った道具を売ったりして生活していた。
王都にいるドワーフは、行商に来て、そのまま住み着いた者が多いのである。
結局は田舎者の集まりなのだ。
そんなことはどうでもいい。
問題はここで何をするのかである。
「それは、これから考えるわ」
まさか、何も考えてなかったとは。
スーはただ宿を出たかったのかも知れないな。
「で、でも、アタトなら何か思い付くでしょ!」
いやいや、僕に頼られても困るんだが。
「とにかく、今日はもう休もう」
「はい、おやすみなさい」
ガビーはそう言って、スーを引き摺るようにして食堂を出て行く。
今日は楽しかったけど、疲れたな。




