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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百十話・王都の休日を楽しむ


 僕は王都に滞在するのが少し楽しくなって来た。


正直、王都に来た主な理由はほぼ片付いたと思う。


気になることは後回しよりサッサと片付けるに限る。


もう帰っても良いかなーって感じはするが、しばらくはのんびりしたいな。


帰りもまた20日ほどかかるわけだし。


 辺境地を出発して約1ヶ月が経ち、この街に来てから7日ほどだろうか。


時々思い出す。


最初、海沿いの塔で僕は、異世界の記憶を思い出してから何日経ったかを数えていた。


まるで遭難者みたいだなって思いながら、石板に傷を付けていた日々。


その後、町に行くようになり、ワルワさんたちにこの国のことを色々教えてもらった。


ヨシローによると、


「たぶん『異世界人』が持ち込んだ概念だと思うよ」


と、いうことで見慣れたカレンダーも手に入れた。


良かった。 前の世界とあまり変わらない。


お蔭で、先日、この世界での僕の誕生日は1月1日だということが分かって嬉しかった。


正確には産まれた日ではなく、エルフの長老に拾ってもらった日だけどな。


でも次の誕生日も長老はきっと会いに来てくれる。


もっと早くてもいいけど、会える日が楽しみで仕方ない。


カレンダーを見るたびに思う。




 とにかく、今の季節は春から初夏に向かっている。


辺境伯家別棟での朝食。


アリーヤさんに指導を受けたケイトリン嬢のメイドのお蔭で、味付けがグッと好みになった。


ヨシローも嬉しそう。


「アリーヤ様に分けて頂いたカツブシの粉という調味料のお蔭です」


厳密にいうとカツオという魚はこの世界にはいない。


おそらく似たような味の魚を出汁に使い、そのスープを魔法で粉末にしたのではないか、と思う。


「ウンウン、おいひいー」


ヨシローが涙を流して喜んでいる。




 この世界の出汁は獣や鳥を使うことが多く、魚は珍しいし粉末は高い。


そのため、あまり普及していないようだ。


「モリヒト、これは作れる?」


『いえ。 原料も作り方も分からないものは作成出来ません』


そか、残念。


とりあえず売ってる店を紹介してもらい、買い込むことにした。




 アリーヤさんとティモシーさんの実家である食料品店の出店が王都の市場にあるらしいので、皆で出掛けることになった。


キランも同行を希望したが却下。


「剣術で僕に勝てないヤツは無理」


そう言って睨んだら目を逸らす。


だから、そういうところだよ。


根性論とまではいかないが、体を張れない護衛は必要ない。




 今回は市場へ向かうため、全員平民の格好である。


僕も人族の容姿になり、モリヒトは姿を消してついて来る。


基本的にモリヒトは人混みが苦手なのだ。


囲まれると力の加減が出来ないかららしい。


「ウゴウゴも大人しくしていろよ」


『ハーイ』


服の内側に大きめのポケットを付けてもらって、ウゴウゴはご機嫌だ。


先日、教会で無茶させたからお詫びも兼ねている。


『褒美にアタト様の魔力をもらったのでは?』


モリヒトが無表情で文句を言う。


うん。 あげたけど、僕の魔力じゃ美味しいとは言い難いからさ。


いいよね、喜んでるし。




 まずは、馬車で貴族街から商人街へ。


商人街の中央広場で降りて、御者と迎えに来る時間を打ち合わせる。


「一旦、館に戻りますが、あの鐘が3回鳴ります頃にはここにおります」


広場の高い塔を見上げると、尖塔の先に鐘がある。


定期的に魔法で鐘を鳴らして時刻を知らせているそうだ。


3回は夕方の合図らしい。


「はい、分かりました」


この駐停車場には、他にも貴族用の馬車がチラホラいる。


平民用の服を着た僕たちはサッサと移動した。




 ティモシーさんが案内役。


ヨシローとケイトリン嬢を中心に護衛メイドと辺境地から一緒に来た教会警備隊の若者がいる。


僕は基本的に見えない護衛がいるから自由だ。


「いや、ダメだ。 アタトくんがいないと私たちが心配で落ち着かない」


えー、大丈夫だよ、ティモシーさん。


ちゃんと実家の店には行きたいし。


「ウンウン。 何をやらかすか分からないからな」


ヨシロー。 その言葉はそのままお返しする。


「お、おれ、アタト様がいたら心強いんでー」


警備隊の若者はすでに人混みに圧倒されていた。


やれやれ。




 大人しくティモシーさんの後ろを歩く。


ヨシローにはケイトリン嬢とバッチリ腕を組ませた。


「絶対に、はぐれないように!」


と、きつく言い渡した。


ヨシローは勝手に動きそうだからな、念の為。


ケイトリン嬢がコクコクと頷いていたから大丈夫だろう。


警備隊の青年と護衛メイドはヨシローたちの後方を確認しながらついて来る。


買い物があれば助言もしてくれるだろう。




 王都の買い物といっても、前回は貴族街に近い高級魔道具店だけだ。


「アタトくんは食料品以外にも見たいものがある?」


キョロキョロする僕にティモシーさんが訊いた。


「せっかく市場に来たのですから、食べ物の屋台や掘り出し物の露店も見たいですね」


「そうだね。 でもまずはうちの実家の店に行こうか。 人気店だから売り切れることもあるんだよ」


えっ!、それは拙い。


僕たちは足を早めた。



「いらっしゃいませー」


朝の市場に元気な声が響く。


「おや、坊ちゃん、 いつ王都に?」


壮年の店員が声を掛けてきた。


「数日前だよ。 休暇じゃなくて仕事だから手伝わないよ」


働かされそうだから、先に言い訳してるっぽい。


「あっははは、そりゃあ残念だ」


店は忙しそうだが、店員は明るい。


目的のものを購入し、並んでいる食材や調味料を手に取ってみる。


様々な匂いや色を直接感じるのは市場ならではの楽しみだ。


「これは甘くて美味しいよ」


ティモシーさんのお勧めの果物を買い、人目につかないようにモリヒトの結界に取り込んでおく。




 小麦や豆が大袋で並んでいた。


僕はチラチラチラとヨシローを伺う。


早く「米はないか」と訊いてくれないかな。


「んー、もっと透き通るような白っぽい粒で粉にしないで食う穀物はない?」


ヨシローの質問に店員は首を傾げている。


「あ!、あれかも」


反応したのはティモシーさんだった。


「ほら『異世界人』好みのヤツがあるじゃないか」


お、これは期待出来るかな。



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― 新着の感想 ―
[一言] そして出て来るインディカ米(スットボケ いやちゃんと品種改良しないと 今の日本人好みにはならんのよ
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