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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百五話・思惑の外のモノ


 辺境伯の王都邸に戻ったのはいいが、問題が発生した。


「何故、殿下とクロレンシア嬢がいるのですか?」


僕たちの馬車に王子の馬車がついて来ていた。


辺境伯は仕方なく館の門内に入れたが。


「いいだろ、別に」


良くない。


王子、あんたは公爵家の夕食会はどうした。


おまけに、


「えへっ、ついてきちゃった」


って、なんで公爵令嬢まで連れて来たんだ。


「あ、家のほうは大丈夫てすわ。 ちゃんと家令に父に伝えるように言いましたの。 お友達の所に行って来ますって」


クロレンシア嬢、それは言っただけで、許可はされていないと思うんだが。


「はー……」


やっぱり王都の連中は良く分からん。




「とにかく中へ、どうぞ」


辺境伯家では客として二人を受け入れることになった。


それぞれの護衛には辺境伯邸で持て成すと言伝を頼んで、送り返す。


「辺境伯には申し訳ありませんが、このお二方は別棟で接待させてください」


僕の責任である。


「う、分かった。 何か必要ならキランに伝えるように」


「はい、ありがとうございます」


そうして僕は王子と公爵令嬢を連れて別棟に移動する。


「まあ!、クロレンシア様」


ケイトリン嬢が駆け付けた。


「ケイトリンさん」


若い女性たちがキャッキャッしてるのは目の保養になるな。


「なんで殿下が?」


ヨシローとティモシーさんも出て来たので一緒に二階の居間でお茶にする。


「ここで夕食会にいたしましょう。 急なので大したものは出せませんが」


「ああ、我はそれで構わぬ」


王子から許可が出たので、僕とモリヒト、護衛メイド、アリーヤさんにも手伝ってもらって食事の用意を始める。




 簡単に大皿に盛り付け、各自で好きに取り分ける形にした。


辺境地からの旅用に持ち込んで、余った食材がまだたくさんあるんだ。


キランには、パンと飲み易い酒を本館から持って来てもらう。


「これはうす味だが美味しいな」


王子が料理を褒める。


「アリーヤさんは大変お上手なので、教えて頂いています」


ケイトリン嬢のメイドが嬉しそうに答えた。


これは日本人好みの味付けに近いと思う。


「もしかしたら、コレ、お好きですか?」


僕はアリーヤさんに干し魚を見せる。


「辺境の町で売ってる物ですが、良かったらお土産にどうぞ」


「ありがとうございます」


食料品店の娘らしく、吟味し始める。


「実家で訊いてみたいのですが、いいでしょうか?」


「構いません。 そういえば、僕も知りたいことがあるので帰りに寄っても大丈夫ですか?」


米!、今度こそ確認しないと。


「はい。 もちろんです」


ふっふっふ。 楽しみだ。




 食事を終え、居間に移って食後のお茶にする。


アリーヤさんは教会の件が終わったので、自宅のある街に戻ることが決まった。


「子供たちが待っていますので」


そーだねー。


「アタト様には本当にお世話になりました」


「いえ、こちらこそ。 ご協力頂き、ありがとうございます」


護衛は一部の教会警備隊と辺境伯領兵が請け負ってくれた。


「よろしければ、これを」


僕はスーからもらった黒い毛玉が二つ付いた御守りを渡す。


「まあ!、手触りがツヤツヤのフワフワ」


気に入ってもらえたようで良かった。


「確か、気配遮断の特性持ちの魔獣の毛皮なので、身に付けていると多少はお役に立つかも知れません」


「えっ!?」


全員が僕を見る。


「魔道具なんですか?。 そんな高価なものを頂くわけには」


いやー、大したモノじゃないんだけど。




「では、一つお願いしてもよろしいでしょうか」


ちょっとだけ誰かさんの心象を良くしておきたい。


「実はある高貴な方が、一度で良いから貴女の歌を母親に聴かせたいと何年も前からお願いしているそうなのですが」


アリーヤさんの街の教会と領主一族、街の住民に阻まれ、叶わぬ夢となっている。


「あら、そんな方がいらっしゃるとは知りませんでした」


「ええ。 色々と事情がありまして、王都から出られない方なのです」


エンデリゲン王子の様子がおかしい。


まあ、自分のことだと気付いたのだろう。


ティモシーさんもチラチラと横目で見ている。


「私がそちらに伺うとか、王都の教会でなら披露出来ると思いますが」


王子が首を横に振る。


「それは立場上、難しいようです。 アリーヤさんがその方の家に入るのもお勧め出来ません」


僕は王子の代わりに事情を伝える。




 王宮に一歩でも足を運べば出られなくなる可能性がある。


国王はやはり最高権力者だから。


そうなると、『歌姫』を巡って王宮と教会の対立が激しくなるだろう。


そんな危険を冒す気はない。


「それでは、お帰りになる前に一度だけ、この別棟で歌っては頂けませんか?」


辺境伯なら二つ返事で了承してくれるだろう。


すぐにキランが本館へ走る姿が見えた。


「おい、それはー」


王子が口を出そうとするのを止める。


「僕は全ての準備を整えることは出来ません。 それは高貴な方がすべきことだと思いますので」


側妃である母親を連れ出すのは王子の仕事だ。


僕は日時と場所を決め、キッカケを与えるだけ。


目の前の絶好の機会を掴むのも、逃がすのも、その方次第だ。




「アリーヤ様、お願い出来ますか?」


王子が決意の目をしている。


アリーヤさんがハッと気付いた。


これは王子と、その母である側妃の話だと。


「はい」


アリーヤさんは頷く。


子供が母を想う心に身分など関係ない。


「ありがとう」


王子は立ち上がる。


「すまない。 至急の用事が出来た」


「はい。 本日は大変お世話になり、ありがとうございました」


僕も立ち上がり礼を取る。


「では私も。 ケイトリン様、お会い出来て嬉しかったわ。 また近いうちにぜひ」


「はい。 楽しみにしております」


挨拶を交わし、本館の玄関口まで見送る。


クロレンシア嬢は王子の馬車に同乗し、二人は護衛たちと共に帰って行った。




 ふう、今日も濃い一日だった。


「あ、ティモシーさん。 ヤマ神官にも連絡してもらえますか?」


「了解した」


すぐに手紙を書くと約束してくれた。


ヤマ神官なら喜んで来てくれるだろうな。


僕も楽しみである。


当日はモリヒトに強固な防音結界を張ってもらうことにした。



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