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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百一話・教会のこれからと魔道具


 司祭のポケットから出て来たのは、手帳のような形の石板である。


魔力を感じるから、おそらく魔道具だろう。


モリヒトが顔を顰めた。


ウゴウゴは、あっという間に石板の魔力を吸い尽くし、動力源の魔力を喪失した魔道具は停止する。


急いで吸収したのは不味いからか。




 ガチャッと扉が開く。


実直そうな老齢の警備隊騎士が入って来た。


「何があった?」


ティモシーさんが司祭を指差す。


「彼をお願いします」


たぶん、打ち合わせ済みだったんだろう。


老騎士は頷いて廊下に居た部下たちを呼び込んだ。


「司祭様を拘束し、地下牢にご案内しろ」


主な施設の地下には必ず魔力を通さない牢があるらしい。


捕えた犯罪者が魔法や魔道具を使って逃げられることを防ぐためだ。


「騎士ティモシー、ご苦労であった。 皆様もご協力、感謝する」


正式な礼を取った老騎士は本部警備隊隊長。


高位神職の場合、確実な証拠がなければ捕えられない。


おそらく、アリーヤさんの旦那さんに依頼したのはこの人だと思う。




 老隊長は「また後で」と言って部屋を出て行った。


「ふう」


気の抜けた声がして、ヤマ神官がドカリと椅子に腰を下ろす。


若い神官はまだガタガタと震えていた。


「彼を部屋に連れて行って休ませてあげてください」


ティモシーさんが必ず誰かを傍に置くように頼んでいる。


「了解です」


警備隊員が若い神官と共に退室すると、僕たちだけが残る。




 モリヒトがお茶を淹れてくれた。


心身を癒すための薬草茶だった。


「ありがとう。 助かったよ」


ヨシローも座り直してお茶を啜る。


「本当にありがとうございました」


涙を浮かべたケイトリン嬢が感謝の礼を取った。


「これはお返ししますよ」


ヤマ神官がアリーヤさんにコインを返す。


小さな布袋を受け取り、アリーヤさんが微笑んだ。




「なかなか面白かったな」


エンデリゲン王子が、お茶のカップを片手に感想を口にした。


「あの司祭は貴族の子息だろう」


教会は神職に関する才能があれば、誰でも修行するための教育機関に入ることが出来る。


しかし、神職の修行はかなり厳しいため、覚悟がある者しか生き残れないと聞く。


それでも、実家に恵まれた一部の者は免除されることもあるらしい。


そして、そういう者ほど権力に固執し、高い地位にある。


「王宮の貴族管理部のほうは任せろ」


そう言ってお茶を飲む王子の横で側近が苦笑いしている。


まあ、この人の仕事になるよな。


ご苦労様です。




「お礼は必ずさせて頂きますので」


僕がそう言うと王子の目が輝いた。


「本当か?。 先日の毛皮の外套より良いモノを期待するぞ」


「価値観は人それぞれですから、お気に召すかどうかは分かりませんが」


ニヤリとした笑みを残して王子は去って行った。


「ふう、終わったな」


ティモシーさんの心からの安堵の声が聞こえた気がした。




 ヤマ神官もこれから忙しくなりそうなので、僕たちは早々に辺境伯邸に戻ることにする。


僕とモリヒトはフードを深く被り、教会の入り口で馬車を待つ。


ヤマ神官が見送りに出て来た。


「ヤマ様、ありがとうございました」


「いえ、お礼を申し上げるのはこちらです」


アリーヤさんは思うことはあるようだが、今は変装しているので大っぴらに話せない。


「いつかまた演奏会や公演があれば呼んでくだされ。 必ず駆け付けます」


調子の良いことを言うヤマ神官だが、まんざら嘘でもないのだろう。


ああいうタイプは楽器を演奏出来るなら、どこにでも飛んで行きそうだ。




 ティモシーさんが本部警備隊隊長に挨拶していた。


「しばらくは辺境伯邸に滞在しておりますので、何かあれば連絡をください」


「うむ。 後はワシの最後の仕事じゃ。 しっかりとケリを付けさせてもらうさ」


老騎士は引退する予定のようだ。


「……そうですか。 長らくお疲れ様でした」


頭を下げたティモシーさんの声が詰まる。


「あの方は騎士養成学校で教師をされていたのです。 ティモシーが卒業した後に警備隊に入隊されまして」


僕の傍にいたアリーヤさんがそっと教えてくれた。


ティモシーさんの先生というわけだ。


すごくお世話になったのだと、アリーヤさんも涙ぐんでいた。




「そういえば、あの司祭様はお知り合いでしたか?」


アリーヤさんが司祭を見た時の動揺が普通ではなかった。


「え、ええ。 亡くなった神官様の遠縁で、私が音楽を始めた頃、支援してくださった方なのです」


と、悲しそうな顔をする。


司祭が前任の魔道具保管者の親戚だったのなら、どこかで見た記憶があったのかもな。


だから偽物を作れた。




 ヨシローとケイトリン嬢もヤマ神官に感謝の礼を取る。


「大変、お世話になりました」


「それではまた」


ヨシローに関する報告書はヤマ神官が作成し、王子の側近を通して管理部に提出することになる。


結果は後日、辺境伯邸にもたらされるだろう。




 僕は辺境伯家の馬車に乗り込んですぐ人間に偽装し、フード付きローブを脱いだ。


やっぱりこっちのほうが楽だわ。


 辺境伯邸に到着すると、玄関先で辺境伯が待っていた。


「アタト様、お久しぶりでございます」


辺境伯家当主にヘコヘコされるのは心臓に悪いので止めてほしい。


どうやら夫人の用事というのは夫である辺境伯の出迎えだったらしい。


「こちらのほうがお世話になっております」


引き攣った笑顔を返しながら、僕たちは別棟に向かう。


別棟の玄関で、


「詳しい話は夕食時にでも」


と、辺境伯とは別れ、各自の部屋に入る。


緊張が解けた途端にメチャクチャ眠くなってきた。


僕は夕食まで昼寝を決め込んだ。




 ユラユラと体を揺さぶられる。


『本館から夕食のご招待が来ております。 そろそろ、準備をお願いします』


ハーッと息を吐く。


本当は遠慮したいが今後のことも相談しなくちゃならん。


「分かった」


起き上がると浴室で軽く体を洗い、着替える。


「アタトくん、行くよー」


ヨシローが扉を叩く。


一つの山を越えたせいか、声が明るい。


「今、行きます」


うん。 がんばった甲斐があったと思う。


ティモシーさんと護衛メイドは別棟のほうで食事を摂るというのでキランに任せた。



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