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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百九十七話・騒動の魔道具と協力者


 廊下では目立つので庭に出る。


参拝に訪れた人々が憩う場所になっていて、木陰やベンチがあった。


その一つ、人目につかない場所にあるテーブル席に座る。


「僕はアタトと申します。 これは僕の眷属精霊ですので危険はありません」


これから協力してもらうのだからぶっちゃけておく。


「は、はい?。 眷属精霊って、まさか!」


男性は自分の手で自分の口を覆って抑える。


信じられないという顔をするが、さすがにヤバい話だと分かったみたいだ。


理解が早い。




 モリヒトが周りに盗聴避けの結界を張り、カップのセットを取り出してコーヒーを淹れてくれる。


「これから『異世界人』の意思の確認が行われます」


「はい。 近いうちに行われるとは聞いていましたが、早いですね」


ヤマと名乗った神官の男性に僕は無害そうに微笑む。


「思ったより早く到着しまして」


教会側の準備が整う前に仕掛けるためにな。


「僕は神の意志を確認するために呼ばれました。 まあ、それは眷属である精霊の役目で、僕は指示するだけですが」


ヤマ神官はじっと僕を見ている。


この人の才能は『鑑定』みたいなものかな?。 僕を視ようとしているのが分かった。


好きに視てもらって構わない。


「本当にエルフ様のようで。 それで私に何をさせたいんでしょう」


並んで座るアリーヤさんも緊張して僕の言葉を待っている。


まあ、仕方ないな。




 僕は苦いコーヒーを飲み干し、二人を見る。


「アリーヤさん、魔道具をお持ちですね?」


彼女の体がビクッと震えた。


「渡してもらえませんか。 悪いようにはしません」


僕は彼女に手を差し出す。


「な、なぜ、それをご存じなのですか」


アリーヤさんはビクビクしている。


「前の持ち主が信用出来る者で最後に会ったのは、おそらく貴女でしょ」


「……はい」


「そうだったのか。 見つからないわけだ。 教会の中では無かったんだな」


ヤマ神官も納得して頷く。


 アリーヤさんは観念したように大きく息を吐き、大事そうに抱えていた鞄から何かを取り出した。


コトッとテーブルに置いたのは小さな布袋である。


なんの装飾もない、質素な作りだ。


モリヒトが頷くのを確認した上で、それを開く。


五百円玉より少し大きいコインが入っていた。




 アリーヤさんが使い方を教えてくれる。


『異世界の記憶を持つ者』と思われる人物に握らせると、反応して意思を読み取る魔道具らしい。


うおっ、あぶねー!。


触らなくて良かった。


「魔物でも獣でも、異世界から来たモノに反応するそうです」


「アリーヤさんは神職ではないので、持っていると疑われなかったのですね。 しかし、逆にこの魔道具が偽物だと言われてしまう」


そこで必要になるのが神職の協力者だ。


「ヤマ神官に、これを持っていて頂きたいのです」


「はあ、私ですか」


アリーヤさんが心配そうな顔をする。


「もちろん、後で返してくださいね。 これはアリーヤさんにとって亡き恩師の形見ですから」


僕がそう言ったら、アリーヤさんはホッとした顔になった。




「承知した。 私もこれをずっと管理し続けるのはごめんだ」


ヤマ神官はあまり神職らしくない男性だが、アリーヤさんが信頼している理由が何となく分かった。


魔道具の所持者だと分かればこれから大変だというのに、懐が深いというか、動じない。


 音楽の仲間というのは、かなりの信頼関係が必要だ。


阿吽あうんの呼吸というか、言葉にしなくても通じるものがあるのだろう。


『歌姫』アリーヤさんの伴奏を務める者ならば、教会の中でもそれなりの地位にいると思われる。


モリヒトから異論が出ないという事は魔力もかなり高いのだろう。


精霊は魔力が高く、より清らかな魂を好むのだ。




『アタト様、そろそろです』


「分かった」


僕が立ち上がると、二人もそれに倣う。


ヤマ神官は袋を手に取り、大切に懐に入れる。


「我は神の慈悲に乞い願う。 力を納め我を解放せよ」


僕が擬態魔法を解くとヤマ神官は興味深そうに見ていた。


観察は後にしてくれないかな。


 モリヒトが高級感のあるフード付きローブを取り出して僕に着せ、自分も同じ風体に変化する。


「行きましょう」


僕は二人を連れ、モリヒトの後ろをついて行く。


 


 奥へ進むと教会警備隊が数名立っている場所に突き当たる。


「申し訳ございませんが、この先は立ち入り禁止になっています」


ヤマ神官が顔を顰める。


「神官の私でもダメだというのか?」


「申し訳ありませんが」


ヤマ神官が僕を見たので、頷き返す。


「司祭様がこの方々をお待ちのはずだ。 騎士ティモシーに確認して来なさい」


僕とモリヒトはフードを下ろす。


「エルフ様!?。 お、お待ちください!」


警備隊員の一人が慌てて走って行った。


 しばらくして戻って来た警備隊員に案内されて、さらに奥へと向かう。


アリーヤさんは変装したまま、エルフの世話係ということにして同行してもらっている。




 しかし、この教会本部というのは広いな。


やたらと人が多くて雑多な思考が飛び交っていた。


エルフの耳は優秀過ぎて、不要な声まで入って来る。


はあ、王都は疲れるな。


 豪華な扉が開かれた。


「アタトくん!。 良かった、無事で」


ヨシローとケイトリン嬢がホッとした顔をしている横で、ティモシーさんが驚いた顔をしている。


僕は先に簡単に礼を取って挨拶した。


「辺境地の、そのまた外にある森から来ました。


私はエルフのアタト。 これは辺境伯が付けてくれた世話係の女性です」


サラッと紹介し、ティモシーさんに目配せを送る。


「そして、私の眷属精霊のモリヒトです。 属性は『大地の精霊』」


部屋の中にいた数名の高位神職者から声が上がる。


僕たちはローブを脱ぐ。


一目で上等だと分かる衣装である。


モリヒトは黒メガネを掛け、控えめに僕の後ろに立っていた。




「ど、どどうぞ、お座り、ください」


「ありがとうございます」


僕は指定された豪華な一人用の椅子に座り、その後ろにモリヒトとアリーヤさんが並ぶ。


「ヤマ神官には色々とご案内頂きまして。 大変気に入ったので同席して頂こうと思いますが、よろしいですよね?」


否とは言わせないよ?。



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