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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百九十六話・王都の教会に突撃


 2台の馬車で店を出た。


僕とモリヒトは王子の馬車にお邪魔している。


打ち合わせしたいことがあったので。


「我に何をさせたいのだ?」


「特に何も。 ただ立ち会って頂きたいだけです」


僕はニコリと微笑む。


 モリヒトの報告によると、教会本部には魔力のある者はいるが、神職に相応しくない者が多いという。


ティモシーさんも否定出来ないほどに。


そうなると僕も色々と考える訳さ。




 神殿は神が降りる場所とされているが、その神殿が礼拝室として教会の中にある。


この世界は信心深い人が多く、神に祈るために多くの人々が教会に出入りしていた。


そして王都は、当たり前だが辺境地より人が多い。


その人々が僅かでも金銭を寄付として捧げれば、最終的には少なくない金額になるのだ。


「それを誰が管理しているのでしょうね」


「神官だろう?」


「そうでしょうか」


僕の返事に王子は首を傾げる。


「神職はかなり厳しい修行をされ、清廉を信条とし、それ故に人々の尊敬を集めると聞きました」


「うむ、その通りだ」


王子も側近の男性も頷く。


「では、金銭の管理を正しく行う知識のある神職者は何人いるでしょうか?」


教会に出入りする人が多いということは、それだけ持ち込まれる問題も多く、神官様は忙しい。


田舎の辺境地の神官様でさえ、毎日忙しく動き回っていた。


そのため教会内の雑務は修行中の見習いや司書さん、手伝いに来ていた近所のおばさんたちが善意でしていたのである。




「人々は神官様を派遣して頂くために寄付をします。


忙しい神官様を自分の家に優先的に来て頂くためには他の人より多く寄付するしかないそうですね。


じゃあ、後回しにされた者はどうなるのでしょう」


「あー、うーむ。 しかし、何か揉め事があれば警備隊が動くだろ」


いくら専属の警備隊がいたとしても金銭の出納まで管理出来るだろうか。


「何が言いたいんだ」


王子はイラッとした顔になる。


こういう所が王族らしいというか、貴族なら顔には出さないと思う。




「このままでは王都は、いえ、この国は滅びますよ」


冗談なんかじゃなく。


「なっ」


「なんだとっ!」


何故、王子も側近も驚くんだ?。


異世界から来た僕でも分かることだ。


腐った神職、それを許す王侯貴族、何もしない民。


神が実在する世界で神を舐めんな。


精霊であるモリヒトだけの力でも、間違いなく、この国は滅ぶのだ。




「それは教会が自分たちで何とかするべきでしょう。 それは国とは関係ない!」


側近の男性が僕を睨む。


「教会だけの問題では無い、ということか」


王子は腕組みをして唸った。


「大量の資金を集めた者が欲するものとは何だ?」


やはり王子は頭が良い。


「まあ、まだ先のことです」


僕は気の抜けた声で緊張を解す。


そろそろ到着するとモリヒトが教えてくれたからだ。


「今日は協力してください。 そういう輩が居ると分かった上で煽って頂きたいのです」


大きな建物の前で馬車は停まる。


建物の豪華さ、人々の多さ。


今は均衡が取れているとしても、これが王族を上回ればどうなるか、分かりそうなものである。




 到着を知らせるため、ティモシーさんが先に建物内に入って行く。


しばらくして満面の笑みを浮かべた豪華な司祭服の男性が入り口に現れた。


そして、第三王子を見て固まる。


「こ、これは殿下、よくいらっしゃいました」


礼を取りながらティモシーさんを睨んでいるが、出て来てしまったのだから後の祭りだ。


出入りする人々が立ち止まり、司祭と王子を見比べている。


 五十代くらいの司祭はやけに身なりが整っていた。


こだわりが強いのか、神経質そうな痩せた体付き。


まるで何も仕事をしていないような、きっちり固めた髪に新品みたいな司祭服だ。


片や第三王子は二十代。


王族らしく見栄えは良い上に、飾らない人柄で平民にも人気があるそうだ。


「ほお、神職の中でも高位である司祭殿の出迎えとは歓迎してくれて嬉しいぞ。


現国王の第三王子である、このエンデリゲンが『異世界人』の判定に立ち会うために来たのだからな」


よく通る声に通行人たちが騒めく。




 ヨシローが司祭の前に歩み出る。


「お呼びと伺い、辺境伯領より参りました。


私が『異世界人』のサナリ・ヨシローです」


おおーっと声が上がる。


司祭が顔を顰めたのは一瞬だけだった。


さすがだな。


 僕は静かにアリーヤさんの隣に移動する。


司祭を見た途端、知り合いなのか、彼女がひどく動揺したのが分かった。


「まだ気付かれてはいないと思います」


司祭からの視線を遮る。


スーの変装指導は優秀だ。 たぶん、知り合いでも分からないと思う。


「アリーヤさん。 本部に信頼出来る知り合いはいませんか?。 その人に協力をお願いしたいのですが」


「あ、はいっ!。 では、音楽会でいつも伴奏をお願いしている神官様がいらっしゃいます」


音楽での相棒みたいなものか。


僕は頷き、ヨシローとケイトリン嬢が司祭を足止めしている間にアリーヤさんと共に奥へと急いだ。


モリヒトはサングラスっぽいメガネを掛け、気配を薄くしているので、周りは誰も気に留めていない。


今のうちだ。




 モリヒトが教えてくれた神官の休憩所に向かう。


そこにいるらしい。


「ん?、誰だ、お前たちは」


体型は小太りの中年だが、色白でパッチリとした大きな目の男性がいた。


「こんにちは、いつもお世話になっております」


アリーヤさんがその男性に近付き、そっと耳元で、


「変装してますが、アリーヤです」


と、囁いた。


「へっ!、あ、あ」


アリーヤさんがニコリと笑うと、男性はゴクリと唾を飲み込んだ。




 何か魔法を使っていたようで、じっとアリーヤさんを見ていた男性が頷く。


「ああ、本当に『歌姫』様だ。 何か事情があるんですね?」


ヒソヒソと話す二人の声はエルフである僕とモリヒトにしか聞こえない。


「失礼します、神官様。 僕は辺境地から『異世界人』と共に王都へ来たばかりで。


よろしければ案内してもらえませんか?」


他の神職者にも聞こえるように話し、部屋から連れ出す。


「は、はえっ」


男性は驚きながらもついて来た。



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