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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百八十八話・挑発のような訓練


 翌朝はモリヒトとキラン、ケイトリン嬢の護衛メイドの三人が調理し、セッティングした別棟の食堂で朝食を摂る。


庭が見渡せる静かな食堂は少し手狭だが、この人数にはちょうど良い。


「本日は午後から商人が来ますので、昼食後に本館においでくださいとのことです」


キランが今日の予定を告げる。


「じゃ、それまでは自由だね」


「はい。 アタト様は何か御用がございますか?」


僕はチラリとモリヒトを見る。


「いや、ちょっと旅の間に体が鈍ったかなと思って。 ヨシローさん、運動しませんか?」


ブハッ、とヨシローが食後のお茶を吹き出す。


「な、なにを言い出すんだっ、アタトくん」


「ケイトリン様も強い男性がお好きでしょう?」


僕はニコリと微笑む。


「え、ええ、まあ」


ぎこちなく笑うケイトリン嬢はヨシローには期待していないっぽいな。




 辺境伯の王都邸には領兵の一部が駐留しており、武官の館らしく、訓練所も併設されている。


「隅をお借りしてもよろしいでしょうか?」


家令さんに確認を取ってもらう。


「奥様からお許しが出ました。 差し支えなければ見学させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい。 構いません」


家令さんに頼まれたら嫌とは言えないよなあ。


 運動し易い服に着替えて訓練所に向かう。


「俺、あんまりやったことないんだけど」


ブツブツ言いながらもヨシローは素直について来る。


「大丈夫ですよ、ヨシローさん。 いつもはガビーを相手にしてる軽めの体力作りですから」


体を解すのが目的なのだ。




 今回、20日ほど掛かると言われた旅程だったが、結局、少し早く到着した。


特にアリーヤさんが加わってからは宿に泊まらず野営にして速度を上げている。


つまり、かなり無理をして馬車で駆け抜けたのだ。


「ずっと馬車の中でしたからヨシローさんも体が硬くなってるでしょ」


「うーん、それはそうだけど」


それまでは、泊まった宿でティモシーさんたちと多少は体を解す運動はやっていた。


この世界の人たちは元々とても頑丈だし、体を動かすことを厭わない。


魔獣のいる危険と隣り合わせの世界だからだ。




 兵士たちが剣術の訓練をしている広場の隅。


僕はゆっくりと柔軟を始める。


ラジオ体操でもやりたいくらいだが、ヨシローがいるので軽く体を伸ばす程度だ。


近くに木のベンチをみつけ、飛び乗り、飛び降りるを繰り返す。


「お、身が軽いんだね。 魔法を使ってるの?」


ヨシローさんには何か身体強化の魔法を使って動いているように見えるらしい。


「いえ。 体を動かすだけですから魔法は使ってませんよ」


敵や魔獣がいるわけじゃないしな。


「ヨッ、ハッ、フッ」


だんだん飛び上がる速度を早め、回転して身を捩って飛び降りる。


蹴る動作を入れたり、空中で防御姿勢を取ったりして体の具合を確認。


ヨシローは柔軟を終えると、ボケッと僕や兵士たちの訓練を見ていた。




 僕の視界の端に家令さんとキランが入る。


ふふん、待ってたよ。


訓練用の木剣を2本、キランが持って来てくれた。


「ヨシローさん。 少し剣を振ってみますか?」


ヨシローのは普通の兵士用だが、僕のはたぶん子供用だ。 少し短く、持ち手も細い。


「もしヨシローさんが僕と手合わせをしてくれるなら、午後から来る商人から何か買ってお礼に贈りますよ」


「え?」


「そうですねー。 確か、一、二回なら魔法を撃てる魔道具の武器とかあった気がします」


少々、お高いが。


「ほんとに!?」


食い気味に訊いてくる。




 ヨシローは魔法が使いたくて仕方がないんだよな。


魔法が無い世界から来た者同士として気持ちは分かる。


現地の人間ではないヨシローは、体内に魔力を循環させる機能がないため魔法を自力で使えない。


でも、せっかく『異世界』に来たんだから使ってみたいよな、魔法。


僕も最初はよく分からなかったけど、使えるようになるとメチャクチャ便利だし、攻撃力としてもかなり有効だ。


「よしっ、がんばる」


やる気になったヨシローが木剣をブンッと振る。


確か、辺境地ではティモシーさんに剣術を習っていると聞いた。


構えはサマになってるな。


「では行きます」


ヨシローの構えは、どことなく剣道を連想させた。


僕は踏み込んで木剣を軽く振り、ヨシローの剣に当てていく。


カンッカンッカンッ


避けて打つ、避けて打つ、その繰り返し。


「ヨッ、あぶねー」


僕の剣は軽いので当たっても痛くはないのだが、ヨシローは大袈裟な声を出す。




 建物や訓練所から視線を感じ始めた。


「坊主、がんばれー」


「にいちゃん、押されてるぞ」


兵士たちが野次る。


「ふうっ、きゅうけーい」


子供っぽく疲れたように見せて、ヨシローの剣を受け止める。


「お。 あれ?、剣が動かない。 ああ、休憩か」


ヨシローは真面目過ぎるから周りから声を掛けても止まらないことがある、とティモシーさんが言ってたけど本当だな。


木剣を掴まないと止まらないとは。


「お疲れ様です」


キランが飲み物と汗を拭う布を持って来た。


「ありがとう、キラン」


ヨシローはベンチに座って休憩する。




 僕はまだ座らない。


「ねえ、キラン。 手合わせしない?。 家令さんから許可はもらうからさ」


「は」


一瞬目を丸くしたキランはギクシャクした動きで建物の窓を見る。


おそらく、そこに上司である家令さんがいるのだろう。


「は、いえ。 もし訓練のお相手として望まれたら受けるようにと指示されております」


キランは少し困惑気味だが、家令さんは予想済みだったらしいな。


「ふふふ、良かった。 じゃ、準備してね」


正直、ヨシローでは本気を出すどころか訓練にもならない。


本当に体を解しただけだ。




 キランが準備しているのを横目にヨシローが話し掛けてきた。


「アタトくん。 モリヒトさんは?」


「あー、モリヒトは、えーっと」


どう説明すれば良いかな。


「ちょっと出掛けてます」


王宮のほうに偵察に行った。


姿は消して行ったので、どこかで他の精霊に出くわさなければ楽な仕事らしい。


教会のほうはティモシーさんが様子を見てくれるはずなので報告待ちである。


僕はなるべく派手に動いて目眩しだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] モリヒトのプロフィールに覗き趣味が加わるのか(スットボケ
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