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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百八十五話・しばらくの別れと呼び名


 早朝から気合いの入った声が響く。


「おはよう」


「おはようございます!」


「馬の具合はどうだ?」


「はい、大丈夫です!」


「荷崩れはないか、確認しろ」


「はい!、直ちに」


 朝食を忙しい使用人たちから先に取らせ、次は護衛たち。 最後に僕やドワーフたちと辺境伯夫人ら女性たちがゆっくりと食べる。


「順番なんて気にしませんわ。 その方が皆の都合が良いなら、やってみて構いません」


辺境伯夫人は今回の旅で色々と吹っ切れたみたいだな。


もちろん、使用人たちの準備の様子を見ながら、自分たちが邪魔にならないよう気を配っていた。




 本日から王都に入るため、護衛や使用人たちはそれぞれの制服に身を包む。


辺境伯夫人やケイトリン嬢も貴族らしい衣装に着替え、スーに髪型や化粧をお願いしていた。


「スーにやってもらうと、なんだかとっても華やぐのよ」


「新しい自分になったみたいです」


なんか高貴な女性たちに気に入られたみたいだ。


スーもブツブツ言いながらも顔が緩んでいる。


嬉しいなら素直に喜べばいいのに。




 出発の準備が終わると女性たちから順に馬車に乗り込む。


僕が小屋を土に戻すのと同時に、モリヒトが結界を解除する。


「では、出発!」


辺境伯家の領兵長が声を上げる。


ここからは領都を出た最初の頃の隊列に戻り、3台で王都に向かう。


しばらくして、王都に入るための最初の門が見えて来た。




 王都はぐるりと石塀に囲まれている。


出入りする門は東西に二つずつ。


日頃から頻繁に出入りする一般用門と、大勢で出入りするための商隊や貴族用の門がある。


どちらも特に厳しい検問がある訳ではなく、不審者やお尋ね者など犯罪者が入り込むのを防ぐためのようだ。


おかしな動きをすれば別室で魔道具による審査があるらしい。


 貴族用の門は広く、確認を行う兵士や管理する役人の人数も多い。


「問題ございません。 どうぞ、お通りくださいませ」


管理官らしき役人が辺境伯夫人に礼を取り、僕たちは無事に王都に入った。


見慣れない石造りやレンガ造りの高い建物が並ぶ通り、舗装が行き届いた石畳み。


辺境伯の領都や歌姫の街もそれなりに大きく立派な街だったが、王都はそれよりも広くて人通りが激しい。


「街中を歩く時は馬車に轢かれない様にご注意くださいね」


ボーッと窓から外を見ていたらジェダさんにそう言われた。


「はい、気を付けます」


子供らしく素直に返事をする。


ドワーフ娘二人は予想通りキョロキョロしている。


ウンウン、それが普通だよな。




 辺境地出身者も、さぞビビっているだろうと思ったら、


「辺境伯家の使用人は定期的に王都邸と行き来してます」


と、キランがドヤ顔で僕を見た。


教会警備隊も、最初は必ず王都の本部で研修があるそうで、初めてではないし、ケイトリン嬢は領主後継として王都の学校に通っていたそうだ。


「アタト様はあまり驚かれませんね」


んー、元の世界の大都会を知ってるせいか、そこまでの驚きはない。


だけど、ヨシローが傍にいるので、わざと意地を張っているようにみせる。


「騒いだら田舎者みたいで恥ずかしいじゃないですかー」


「あはは、そうだねー」


大人たちは微笑ましく僕を見ている。


うんまあ、それでいいよ、もう。




 途中、辺境伯家御用達の飲食店で昼食を摂る。


他に客はいないし、歌姫の件についても口が固い。


「はあ食った食った。 んじゃ、おれたちはここで」


ここからドワーフ組は別行動だ。


荷馬車はドワーフ三人に貸し出すため、使用人たちは王都の街中を走る乗り合い馬車に移行する。


「定期的に連絡を入れますね」


ガビーは名残惜しそうにウゴウゴを撫でる。


「ああ、頼む」




「本当はアタト様とずっと一緒にいたいです」


昨夜、屋根の上でガビーにそう言われた。


僕が何かやらかすのでは、と心配で仕方ないらしい。


「ガビー、大丈夫だよ。 何があっても僕は必ず海沿いの塔に帰るから」


未来なんて誰にも分からない。


だけど、もし不測の事態に陥っても、戻る場所さえ分かっていれば良いんだ。


ガビーもドワーフ族の地下街を辿れば、いつかは辺境地に帰れるだろう。


元の世界に戻れない身としては、何年掛かろうと戻れる場所があるのは幸せなことだと思う。




 店から外に出ると、僕はウゴウゴを他人に見られないように引っ込める。


「じやあな、アタト様。 あんまり無理するなよ」


「はい。 ロタさんも気を付けて」


荷台に乗り込むドワーフ娘たちに、真っ黒な毛玉の飾りを見せる。


「ほら、御守りもあるし、大丈夫だよ」


「そうですね!」


心配顔のガビーが空元気で微笑む。


ロタ氏が操る馬車がゆっくりと動き出した。


「失くさないでよ!」


遠ざかる荷台から、スーが叫ぶ。


「分かってるよー」


僕は苦笑しながら手を振った。


とりあえず、王都には約20日間の滞在予定である。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「ヨシローさん、ドワーフの皆さんが行ってしまいました」


「そうだね、ケイちゃん。 行っちゃたね」


「ヨ、ヨシローさん。 やっぱりケイちゃんは恥ずかしいです」


「え、ダメ?。 うーん。 じゃあ、ケリーちゃん?。 これはらしくないなあ。


ケイトリンさんは学生の頃は友達からなんて呼ばれてたの?」


「そういえば、特に愛称は無かったです。 でも」


「ん?。 言いにくい?。 当時付き合ってた男性からなら女神様とか呼ばれて」


「ません!。 もうっ、ヨシローさんは意地悪ですっ」


「ごめんごめん。 ケイトリンさんはどうしても可愛い妹というか、もう家族みたいなもんだよなぁ」


「そ、そうなんですね。 だとしたら、母からは、あ、あの、子供の頃は『リーン』と呼ばれていました』


「『リーン』か、可愛いな。 よし、それで良いかな?。 ねえ、リーン』


「あっ、はい!。 でも、恥ずかしいので、二人の時だけにしてください」


「あはは、分かった分かった」


「もうっ。 ヨシローさんは調子良過ぎて、たまに心配になります」


「うっ、それは本当の妹にもよく言われた。 気を付けます」


「よろしい。 ほら、行きますよ」


「ほーい」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



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