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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百八十一話・異世界の歌と同行人


 他人から聞いた別世界の歌を、あんなに完璧に歌えるものだろうか。


僕は馬車に揺られながら考える。 


「あの歌は神官様から教わったんですよね」


「え、ええ」


アリーヤさんと向かい合わせに座り、オーブリー隊長は御者をしているし、他はモリヒトのみ。

 

僕は声を潜める。


「失礼ですが。 その神官様は『異世界人』だったのですか?」


もしくは『異世界の記憶を持つ者』か。


「えっ、ま、まさか、そんなことはー」


思いっ切り動揺してるな。


「あはは、そーですよねー」


と、笑ってみせる。




 領主館と宿は、あまり離れてはいない。


宿で待ち構える女性たちの姿が見える。


あれはヤバい集団か?。


そこに人気のある歌姫と一緒にいる姿を見せるわけにはいかないな。


「あ、着きましたね。 では、お先に失礼します」


僕は宿の前で停まる寸前に扉を開けて飛び降りる。


「おわっ、危ない!」


御者席から声がする。


無事に着地。 モリヒトに鍛えられてるから、これくらいは軽い軽い。


「ありがとうございましたー。 お休みなさい!」


隊長に手を振って大声でお礼を言い、僕は宿の中に駆け込んだ。


モリヒトは馬車から降りる直前に光の玉になり、姿を消して僕について来る。


馬車は一瞬停まったが、そのまま走り去って行った。




 僕は、そのまま2階の部屋まで上がる。


「ふう」


上着を脱ぎ捨てベッドに身を投げ出すように倒れ込んだ。


僕の服を片付けながら、モリヒトが訊いてくる。


『どういうことですか?。 神官様が異世界人とは』


「人から聞いた歌にしては、やけにはっきりしていたからさ」


音程も、歌詞も、あまりにも正確だった。


「『異世界』の歌をあれだけ上手く歌えるのは、確かに歌姫の才能かも知れない。


だけど僕としては、やはり彼女自身が『異世界人』か、その神官さんが『異世界人』なんだろうと感じたんだ」


もしくは、その両方とも、という可能性もある。


でなければ、知らなかったはずの歌をあれだけ鮮明に歌えるだろうか。


まあ、隠しているようだし、はっきりさせる必要もないからいいけど。


 とにかく疲れた。


寝巻きに着替えさせられ、毛布に潜り込む。


『明日の出立時間までゆっくりお休みください』


モリヒトが何か魔法を使う気配がした。




 気がつくと、もう外は明るい。


『朝食はこちらにご用意いたしました』


「……ありがと」


なんだかモヤモヤする。


夢も見ないほど深く寝たはずなのに、スッキリしていない。


『あのままではアタト様はきちんとお休みになれないと思いまして』


どうやら昨夜はモリヒトに魔法で強制的に眠らされたようだ。


やっぱりか。


「もう少し考えたかったんだが」


グルグルと頭の中で考えるだけで結論は出るはずもない。


それでも、これからどうすればいいのかをじっくり考えたかったんだ。


無駄だと分かっているが、僕はモリヒトを睨む。


苦いコーヒーの香りがした。




 パンにチーズ、果物の朝食を食べているとスーが飛び込んで来た。


「アタト!。 なんなの、ねえ、あれ!」


朝から煩いな。 何のことだ?。


ガビーまでオロオロしながら入って来た。


「あのー、アタト様。 また人が増えたみたいなんですけどー」


ああ、歌姫か。


「アリーヤさんという女性が、王都まで同行することになったんだ」


ドワーフ娘が顔を見合わせた。


「それだけじゃないんだけど!」


「それがー、そのー」


廊下からバタバタと煩い音がする。


「こちらでしたか、アタト様」


教会警備隊の制服を着た青年が入って来た。


入って良いとは言ってないが。 はあ、まあ良い。




 ビシッと敬礼のような警備隊の礼を取られた。


「私はティモシーの友人で同僚のジェダトスと申します。 本日より護衛任務に加わります。 よろしくお願いします!」


「はあ」


いかにも脳筋といった、標準の兵士より一回り大きな筋肉体形の青年。


『歌姫』が加わったことで護衛も増えた。 というか、強化されたっぽい。


声も体もデカい。


「うーるーさーいー」


スーが耳を抑えて唸っている。


「ガハハ、すまん。 だが、声がデカいのは諦めてくれ!」


ついでに態度もデカいってか。


僕は、ハアーッとため息を吐くしかなかった。




「おはようございます」


宿の前に馬車が横付けされた。


今日はティモシーさんは馬に騎乗してついて来るみたいだ。


「先ほどはジェダが失礼した。 任務には心強い仲間だ、安心してくれ」


ティモシーさんの幼馴染だという。


「はい。 こちらこそ、よろしくお願いします」


馬車の窓から短い挨拶を交わした。


 ヨシローは何だかソワソワしている。


「夕べの歌、すごく良かった!。 あの歌姫と一緒に旅が出来るだなんて」


顔を赤らめて興奮し始めた。


「あの歌、アタトくんも聴いたよね」


「ええ、まあ。 でも、僕はあまり歌とか知らないので」


「カーッ、そうかあ、勿体ない!。 とにかく、本当に良かったんだよ。 こう、心を揺さぶられるというか」


ヨシローは一曲だけで熱狂的なファンになってしまったようだ。


でも、そのだらしない顔はケイトリン嬢には見せないほうがいいと思うよ。




 そういえば、アリーヤさんの歌の魔力というか、影響ってなんだろう?。


ただ「好きになる」とかだと、行き過ぎると迷惑だろうし、他にも何かあるのかな?。


「キランは何か聞いてる?」


あまり喋らない僕から質問されて、キランは驚いて目を丸くした。


「は、えーっと」


緊張して、しどろもどろになっている。 ダメだこりゃ。


「じゃ、後で訊いといて」


王都まで残り4日。


まだ慌てる必要はない。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「アリーヤは、辺境伯夫人と同じ馬車になる」


「はい。あなた」


「……どうしても行くのか」


「オーブリー、申し訳ありません。 お世話になった神官様の最後の願いですので」


「あの神官爺様のお蔭で今まで無事にやってこれたんだ。 俺も感謝してる」


「ええ。 今度は私たちが誰かを助ける番なのです」


「分かっているさ。 俺は王都には行けないからジェダトスをつける。 子供たちのためにも必ず無事に帰って来てくれ」


「はい。 あなたもご無事で」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



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