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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百七十九話・教会の魔道具の目的


「ヨシローさん、今回の王都行きについて、何があるか訊いているかい?」


オーブリー隊長はヨシローに対して砕けた話し方になった。


「はい。 『異世界の記憶を持つ者』かどうかの判定のためだと聞いてます」


その上で、貴族の娘であるケイトリン嬢との婚約の件で、それが本人の意思かどうかを確認すると言われている。


オーブリー隊長は頷く。


「教会には『異世界の記憶を持つ者』の意思を判別する魔道具があると言われている。


だが、現在、その魔道具は所在が不明だ」


じゃ、ヨシローを呼んでも確認出来ないじゃないか。




 額に眉を寄せた僕にオーブリー隊長が顔を向ける。


「アタト様、でしたね」


「えっ」


なんで『様』付け?。


驚いた僕に皆の視線が集まる。


「アタト様が王都へ向かう理由は聞いております。


私どもは公爵家とは親戚関係にあり、クロレンシア様の婚姻には関心がありまして」


そうか、僕がクロレンシア嬢とのことで王宮の貴族管理部門に呼ばれてるのを知っているのか。


「申し訳ないのですが、そのお供に私の妻を同行させて頂きたい」


は?、意味が分からない。


『歌姫』は最重要人物で、王都には絶対に行かないんじゃなかったのか。


アリーヤさんはこちらを見ながら静かに微笑んでいる。




「何故、奥様を王都に?」


オーブリー隊長は声を落とした。


「妻は、その魔道具の以前の所有者だった神官様に可愛がられておりました。


たまたまなのですが、その魔道具を見たことがあると言うのです」


それじゃ、彼女が魔道具を確認すれば済むんじゃないか。


あー、ダメか。 教会と近過ぎて虚偽を疑われる。


しかも下手すると、今以上に領主一族から引き離し、取り込もうとするだろうな。




「アタト様は王族や公爵家とも関係がおありだと伺っています」


はあ、確かに。


それなら完全な教会派とはいえないので、反対派も僕たちを認めざるを得ない。


「判定の魔道具は一部の人間しか知らない。 それを捏造しても否定する者がいなければ、それが本物だということになってしまう。


我々は、それを阻止しなければならないのです」


この街の教会警備隊隊長であるオーブリー氏は真剣だ。


 僕はティモシーさんに聞いた話を思い出す。


「判定の魔道具を使うには『神の声を聞く者』が必要だそうですね」


判定した『異世界の記憶を持つ者』の意思を『神の声を聞く者』が間違いないと確認しなければならない。


本当に邪魔臭い話だ。




 僕は、大きくため息を吐く。


「オーブリー隊長。 あなたが必要としているのは僕の眷属精霊ですね」


だってエルフの主人と眷属精霊だ。


人族より神に近く嘘を吐くことが出来ない精霊に、僕は唯一、命令が出来る、


「僕の眷属精霊の言うことなら教会は否定出来ない、そういう事なんですね」


オーブリー隊長がニヤリと笑う。


先ほどまでの人の良さそうな明るい笑顔ではなく、策略家の顔だ。


「ふふっ。 やはり子供とはいえ、エルフ様は理解が早くて助かります」


嫌な評価だな。



 

「王都の教会本部には様々な者がいます。 その一部が高位貴族と繋がっているという噂がありましてね」


対立する相手から金をもらい、都合の良い神託を得ようとしている。


これは教会にとって最悪の事態だ。


「アリーヤさんが魔道具を確認し、僕とモリヒトが神の意思を聞く、と」


「さようです」


オーブリー隊長が座ったまま頭を下げた。




 どんな魔道具かも分からない。


誰がそれを持って現れるかも分からない。


それを見破れる者は神しかいない。


神がいないなら代理が必要だ。


誰が見てもはっきりと分かる者が。


「我々は、アタト様に嘘を吐いてほしいわけではありません。 間違っているものを間違っていると教えて頂きたいだけです」


神への信仰の深さ故に揺るがない信念。


強いな、この人は。


 教会警備隊は教会や信者を守る組織である。


その敵対相手の多くは、高位貴族やその取り巻きの貴族、もしくは富豪商人。


それらに対抗するためには資金が必要になるため、教会は信者から寄付を集める。


現在、その寄付額を一番多く集めているのが『歌姫』というわけだ。


反対派貴族たちが歌姫の失脚を狙っているのはそのためだと思われる。


 


 僕はティモシーさんを見た。


「この話を断ったら、どうなるの?」


はっきり言って教会内の癒着問題や反対派との争いまで、僕がなんとか出来るとは思えない。


「アリーヤ姉さんが魔道具を見破ったとしても、教会幹部が適当に連れて来た『才能』持ちに神の声だと言われたら終わりだな」


それは教会にとっても、『異世界人』であるヨシローにとっても危険が伴う。


どういう神託を捏造するか分からない。


「んー」と唸っていたヨシローが顔を上げる。




「アタトくん。 まずはその話は置いといてさ。 こういうのはどうかな?」


ん?、何?。


「とりあえず、アリーヤさんが王都に行くなら護衛を兼ねて同行するのはアリだよね」


同行する教会警備隊にティモシーさんという弟がいるから本人も安心。


しかし王都の教会に滞在するのは不安だ。


この領主家も、僕が世話になっている辺境伯家も、同じ公爵家の縁戚に当たる。


王都で辺境伯の王都邸で世話になる予定の僕と一緒に行動しても怪しまれない。


「アタトくんとアリーヤさんは一緒に教会に見学に来ればいいよ。 確か、魔道具を見たがってたよね?」


そんなこと、言ったっけ?。


まあ、珍しい魔道具に興味はあるにはある。


王子の話では、歴代の『異世界の記憶を持つ者』が作った魔道具も色々あると聞いているし。


「だからさ。 協力するかどうかは、ゆっくり決めれば良いんじゃないかな」


考える時間が必要だとヨシローは言う。


確かに正論ではある。


でも、それだけでは難しいと思うよ。


ただでさえ、重要人物であるアリーヤさんを預かるんだから。




 僕はモリヒトを見る。


これは、もしかしたら誰かが僕を使って何かしようとしてる?。


同時期に、同じ国に、近い年代で。


『異世界人』と『異世界の記憶を持つ者』、そうかも知れない者。


それが一ヶ所に集まり過ぎだと思う。


ねえ、精霊王サマ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 王族貴族と教会の混乱を楽しんでる勢力が出て来そうやなあ 精霊王はそれ知ってて無意味に引っかき回そうとしてるように見えて来る
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