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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百七十四話・魚醤の客を増やす


 翌朝、再び僕たちは湖に来ていた。


今日の朝食後には次の町へと出立する。


ここ、何故か惹かれるんだよな。


岸辺に座り込んで、僕は湖面に手を伸ばす。


冷たい。


「不思議だよな。 魔魚と普通の魚がいて、魔魚のほうが少ないなんて」


町の色んな人に訊いたが、食べるのは普通の魚で魔魚は滅多に獲れないそうだ。


海ではなく、湖という限られた環境なのに。




 どこであろうが魔魚と普通の魚との共存は可能だ。


森に魔獣と獣が棲息しているのと同じように。


ただ魔素が溜まった場所があると魔獣化する。


魚も同じだ。


 塔の近くの海は魔素が豊富なせいで魔魚が多い。 ていうか、ほぼ魔魚だ。


トスたちがいる漁港は、魔素が薄い場所があるので、普通の魚の産卵場所にもなっている。


だから普通の魚もいるし、より高い魔力を餌にすれば魔魚も釣れるということは魔素溜まりもあるはずだ。


だが魔魚は普通の魚も食べるので、必然的に数が多くなる。


この湖のように、魔魚より普通の魚が多いのは不思議だった。




「水が特殊なのかな」


僕が、より深く湖に手を入れると懐からウゴウゴも触手を伸ばしてきた。


「触ってもいいけど魔力は吸っちゃだめだよ」


【ハーイ】


触手でパシャパシャと水を掻き混ぜる。


黒い魚影が浮かんで来そうなので、しばらくして止めさせたら不満そうだった。


【コノ オミズ オイシソー ナノ】


え?。


「モリヒト、もしかして、この湖には魔素が溜まってるのか?」


『……魔素というか、魔力を感じますね』


え、そうなん?。


「敵意を感じないから、魔獣じゃないな。 精霊の類いか?」


僕がそう訊ねても、モリヒトは黙って水面を見ている。


あ、確か土属性って水属性と合わないんだったか。


ごめんよ。 気を悪くしたかな。




 まあいい、僕には精霊のことは分からないし。


「宿に戻るか」


今頃、皆、準備でバタバタしてるだろう。


僕はモリヒトに丸投げなので、特に必要な準備はない。


お土産や必要な物は昨日のうちにモリヒトに預けてある。


「お、坊ちゃん」


歩き始めたところで、昨日のオジサンが声を掛けて来た。


魚の入った籠のようなものを抱えているので、漁の帰りなんだろう。


小さいが、昨日見たナマズもどきも入っている。


「おはようございます。 夕べはありがとうございました。 とても美味しかった!」


「そりゃ良かった」と笑う。


日に焼けた肌に白い歯が眩しい。


オジサンは良い酒屋を教えた見返りに、モリヒトから魔魚の釣り方を教わったそうだ。


「自分の魔力で釣れるたあ、思わなかったがなあ」


普通の漁では普通の魚しか獲れない。


それが魔力を餌にした途端、釣れるようになったと喜んでいる。




 僕は、そのままオジサンに引き摺られて店に連れて行かれた。


え?、なんで?。


「でな、坊ちゃん。 この魚醤を売ってくれんか」


昨日渡した魚醤がいたく気に入ったらしい。 


「干し魚は自分で作れるが、この魚醤はここでは作れんからな」


普通の魚醤とは一味違う魔素の濃さ。


日頃から魔獣の食材に触れていない人には癖になる味だそうだ。


それはヤバいんじゃね?。 クスクス。


 僕は、漁師のお爺さんから買った魚醤の大樽から、小瓶に移し替えたものを持ち歩いていた。


その内の2本を融通し代金を受け取る。


「そうですね。 お世話になったお礼に行商人を紹介します」


「おお、ありがてぇ」


知り合いのドワーフの商人に話をしておくと言うと驚かれた。


今日はもう出発なので、交渉は後日になるだろう。


僕は、帰りにまた寄れたらいいなあと思った。




 この領地は湖水地帯であり、周辺には沼地が多い。


出発直後から強い雨風が続き、もう少しで次の領地に入るという所で足止めされてしまう。


街道の両脇が沼地なので、多少の雨でも道がぬかるんで馬車が動けなくなるのだ。


僕たちが通りかかった小さな町に滞在の許可をもらうために訪問すると、


「こんなに嵐が続くのは初めてじゃ」


と、町の長老が嘆いていた。


雨が止むまでの間、滞在する許可はもらえた。


 町の郊外に小高い場所を見つけ、そこに魔法で簡単な野営用の小屋を作る。


馬や馬車は別棟にした。


 翌日になって雨は弱まったが強風は収まらず、沼地から水が溢れていて進めない。


「この前みたいに道を補修しながら進めない?」


ヨシローは、前回の辺境伯領での大雨でのことを思い出し、同じように補修工事が出来ないかと訊く。


「ここは他の貴族の領地ですから、勝手に手は出せませんわ」


ケイトリン嬢がヨシローを嗜める。


おお、尻に敷かれる日も近いな。



 

 そうだねー。


いくらモリヒトでも無理だよな。


『いえ、土地ごと地質を変えることは可能ですが、それをすればこの土地の生物や精霊に影響が出ます』


以前のような限定した場所なら影響は少ないが、ここに手を付けるとかなりの広範囲を変えなければならなくなる。

 

それは悪手だな。


 突然、外に何かの気配がした。


『……アタト様、しばらく離れますね』


「ん?、構わないけど」


外に出るモリヒトを皆が目で追う。


窓からモリヒトの姿を探すと、沼の近くで空を見上げていた。




「ウゴウゴ、何か聞こえるか?」


魔獣の言葉が分かるウゴウゴなら、周りにいる気配が何か分かるだろう。


【ンー セイレイノ コトバ ムズカシイ】


やはり、精霊か。


前にも狐魔獣の姿をした精霊に会ったけど、自然に溶け込んでいるので気配が読み難い。


「ガビー。 ランプある?」


「あ、はいっ」


地下道を歩き回るドワーフ族はランプが必需品だ。


ガビーが取り出して見せてくれたので、いつでも使える状態なのを確認した。


僕はティモシーさんに皆の護衛を頼み、外に出る。


そして、窓や扉を全て見えないように結界で塞いだ。




 モリヒトが僕に気付いて振り向く。


『アタト様』


「水属性の精霊だろ?。 モリヒトが苦手なら僕が相手をするよ」


モリヒトが驚いた顔で僕を見る。


なんだよ、この前遊びに来た精霊にも一緒に対処したじゃないか。


忘れたのか?。


『申し訳ありません、アタト様』


分かれば良い。


『気を付けてください。 水属性の精霊には土魔法の威力が落ちますので』


マジかー。



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― 新着の感想 ―
[一言] 五行なら土の方が強めなのに・・・
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