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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百七十三話・湖の魔魚を食べる


 翌朝、朝食前に僕とモリヒトは湖を見に出掛けた。


まだ朝靄が残り、人の気配は少ない。


あれから僕はずっと人間に擬態したままである。


フードを被らずに街中を歩くのは、辺境の町以外では初めてかも知れない。


「風が気持ちいい」


『まだ冷たいですよ』


うん、そうだねー。 でも、こんなふうに直接頬に風を感じるのが嬉しくてさ。


 観光地らしく、整った街並みにお土産物店が並び、食べ物の露店もあるようだ。


まだ早朝なので看板だけだが。




 湖に突き出た桟橋まで歩く。


漁をしているのか、舟が何艘か浮かんでいるのが見えた。


「魚、釣ったら怒られるかな?」


どんな魚がいるのか見てみたい。


『どうでしょうか?。 宿の方に訊いてみましょうか』


人影があまり無いのをいいことに、僕は釣り竿を取り出した。


餌はいつも通りでいいか。


「よっ」


チャポンと水面に餌付きの針が落ち、沈んでいく。


僕の釣り竿は重しがわりに針自体が重い。


ウキは無いので適当に引き上げたり、また落としたりして待つ。


「ん?」


黒い魚影が集まってきた。


「グッ、おもっ」


自分に身体強化を掛け、無理やり引き上げる。


「なんだ、これ」


桟橋から岸へ移動して、引き上げた魚を見ると、ナマズっぽい。


暴れないよう、きちんとトドメを刺しておく。




「あんたら、何やってー、うおっ」


漁師らしいオジサンが近寄って来て、魚を見て驚いた。


「あー、すみません。 勝手に釣ったらいけませんでしたか?」


子供らしく素直に謝る。


「いやあ、大量に獲らなきゃ問題ないぜ。 しかし、こりゃ珍しいもんが獲れたなあ」


普通の魚ではなく、魔魚である。


まあ、僕の魔力を餌にしてるから当たり前だが。


「あそこの宿に泊まってるんですが、持って行っても怒られませんか?」


この辺りでは一番大きな宿を指差す。


「ああ、問題ねえよ。 わしが運んどいてやろうか?」


運ぶのはモリヒトでもいけるが、ここは地元の人に任せる。


「そうですか?、よろしくお願いします」




 しばらくの間、釣った魔魚を見ながら漁師のオジサンと話をする。


やはり刺身はなく、蒸し料理が多いそうだ。


「干したりはしないんですか?」


僕は自分用に持っている干し魚をオジサンに見せる。


「僕のいる町の名産の一つなんです。 炙って、魚醤を垂らして」


「ほお、ほお」


熱心に聞いていたオジサンが急に立ち上がる。


「坊や、ちょっとこっち来てくれんか」


誘われて近くの建物に入る。




 少し警戒したが、どうやら開店前の飲食店らしい。


「この辺りの漁師は皆、あのデカい宿に魚を卸してる。 わしはここで自分で釣ったヤツを捌いて客に出してるんだ」


そう言って厨房に魚を運び込む。


「もし良かったら、これを買わせてくれんか。 久々に料理人の腕がなる」


「いいですよ。 でも僕も食べたい」


ガハハハ、とオジサンは笑う。


「よし、晩飯を食べに来てくれ。 用意して待ってるぞ」


代金を払おうとするので止める。


「すみません。 実は大勢で来てるんです。 出来たら今晩、この店を貸し切らせてもらえませんか?。


オジサンの料理を皆にも食べてもらいたいので」


店内はおそらく、僕たち一行で満杯になる。


「ちゃんと料金はお支払いします。 お願いします」


「ふむ」




 オジサンは値踏みするように僕たちをジロジロ眺めていたが、


「よし、分かった」


と、一枚の板を渡して来た。


ほんのりと魔力を感じる。


「これはこの辺りで店を予約した時に使う予約板ちゅうもんだ」


旅行者が予約した店に行かずに、勝手に他の店に行ってしまうのを防ぐためのものらしい。


「それを持ってる者じゃないと、この店には入れないし、他の店にも入れん。 それでよけりゃ、待ってるぞ」


僕はモリヒトと顔を見合わせて頷く。


「では、申し訳ありませんが、コレも出してもらえませんか」


干し魚を人数分取り出した。




 辺境伯家の手配された旅は、予めちゃんとした宿や飲食店が決まっている。


そもそも野営が少ないので、自分たちの持って来た食料を出す暇が無い。


まあ、不測の事態がないのは結構なことではあるが、僕はそろそろ辺境の味が恋しくなってきた。


「ふむ。 炙ればいいんだな」


「はい!」


僕は魚醤の小瓶を取り出す。


「これをサッと掛けて食べると最高なんです!」


ついでに、追加で干し魚を出しオジサンに渡す。


「これは差し上げますので、ぜひ食べてみてくださいね」


「お、おお」


オジサンは僕に押し切られて受け取る。


ふふふ、晩御飯の予約が完了したことを伝えなければ。


「では、夜に」


僕たちは宿に戻った。

 



 朝食後、辺境伯夫人に報告する。


「まあ、また新しい体験が出来ますのね。 楽しみです」


女性の年齢を推し量るのは失礼だが、夫人は四十歳くらいかな。


育ちが良いせいか、気弱い性格からなのか、平民の居酒屋みたいな店には入ったことはなさそうだ。


『高位貴族のご令嬢では当たり前のことかと』


あー、そういうことね。


これまでは辺境伯がぎっちり守っていたのだろうな。


 部屋担当の元気な女の子にも事情を説明する。


「わっかりましたー、厨房と女将さんに伝えますー」


僕たち一行だけでも十数名いる。


料理の数が予定より少なくなってしまう。


「迷惑を掛けるね」


と言うと、少女はワハハと笑う。


「大丈夫っす、他に回せばいいだけですから。 あのオジサンの店は美味しいですよー」


お、地元の住民のお墨付きは期待出来る。




 その夜、一行を引き連れてオジサンの店に向かう。


「おう、坊ちゃん、いらっしゃっい!」


「こんばんは、急にお願いしてしまってすみません」


外では体も声も大きな若い店員さんが謝っている。


「すみません。 今日は予約板のある方しか入れませんので」


入り口の外には入れない客が羨ましそうに僕たちを見ていた。


 料理はとても美味しかった。


蒸し物を始め、焼き魚に揚げ物、地元の野菜も入ったスープにも魚が使われている。


「クーッ、この脂が乗った魚は刺身で食べたいなぁ」


ヨシローには心の中で頷く。


ロタ氏とモリヒトは、オジサンと酒の話で盛り上がり酒屋を紹介してもらっている。


夜は楽しく更けていった。



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