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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百六十九話・教会の奥の奥


 ティモシーさんは納得いかないようで、僕の部屋から出て行ってくれない。


仕方ない。 一つ頼んでみるか。


「ティモシーさん。 暇なら付き合ってほしい所があるんですが」


「ん?、構わないよ」


ということで、外出用に着替えて裏口で待ち合わせる。


何故か、教会警備隊の若者までついてきた。


「この街の教会に行きたいのではないかと思ってね」


バレバレだったらしい。




 馬車が行き交う広い通りは、春らしく暖かい陽射しが降り注ぐ。


領主館は街の中心部に近く、教会は通りを挟んだ向かい側にあった。


歩きながらティモシーさんの話を聞く。


「高位貴族が平民の子供を雇うことはあるが、教会からというのが気になってな」


館で何か辛い目に遭ったのではないか。


それで飛び出してしまったのでは、と考えられる。


「子供たちの中には、教会に迷惑は掛けられないと我慢してしまったり、飛び出しても教会に戻れない子供も多い」


幾つかの教会を回ったことがあるティモシーさんは顔を曇らせていた。


 広く住民を受け入れている教会は、門や塀といったものが無い。


一日中、祈りに訪れる者が出入りしていた。


僕たちは人の流れのままに中へと入るが、礼拝するための部屋には入らない。


「僕たちならここで待っていますから」


そう言ったが、ティモシーさんたちは、


「もうご挨拶は済んでいるから大丈夫だよ」


と、僕たちの傍を離れなかった。




 時折り話し掛けてくるこの街の警備隊員を若い者に任せ、


「どこを案内しようか?」


と、ティモシーさんは僕たちの案内を優先する。


「えーっと、この教会には亡くなった方の墓所のようなものはありますか?」


「ふむ。 どの街でも郊外に墓所があるはずだが」


辺境の町では葬儀中などでも魔獣被害に遭わないように、町に引っ付いた型で塀に囲まれた墓所がある。


だが、普通の街では少し離れた場所にあるそうだ。


「行ってみるかい?」


「いえ。 あの、遺品を納めるような所はありませんか?」


ティモシーさんが笑っていない笑顔で僕を見る。


フードの中に冷や汗が流れた。


「それなら、こちらへ」


僕とモリヒトは、まるで連行される囚人のように前後を警備隊員に挟まれて奥へと歩いた。




 子供たちの声が聞こえてくる。


教会は、身寄りのない子供たちが新しい家族に受け入れられるまでの預かり所。


ある程度の年齢になれば自活出来るように、勉強や礼儀作法も教えている。


「おや、ティモシーさんではないですか」


高齢の神官に声を掛けられた。


「お世話になっております」


ティモシーさんたちは足を止めて挨拶をした。


神官は、全身をフード付きローブで覆った僕たちを訝しげに観察している。


まあ、怪しいよな。




 僕は自分から口を開くことにした。


「本日はお願いがあって、騎士ティモシー様にご案内頂いております」


「ほお、なんだね?」


老神官は礼儀正しい子供の声に目を細める。


僕はモリヒトから、例のコイン型の御守りを受け取った。


「僕たちが滞在している館の庭で拾った物です」


鎖の付いたそれを手のひらに乗せて差し出す。


「これは」


驚いた神官はそれをじっと見たまま動かない。


「綺麗に洗ったら印章が見えて。 こちらのものではないかと思ってお持ちしました」


神官とティモシーさんが何か短く話し、


「こちらへどうぞ」


と、奥の奥へと案内された。




 接客用の部屋のようで、調度品も質素だがしっかりとしている。


長椅子にティモシーさんと並んで座り、モリヒトは後ろに立つ。


警備隊の若者は廊下にでて、入り口の扉の前に待機する。


なんだか、物々しい。


「アタトくん、といったかな。 これを見つけた場所は言えないのだね」


「はい。 お世話になっておりますので」


平民が貴族の名前を口にすることは危い。


どうせ調べれば分かることなので、言うまでもないけどな。


見つけた経緯も訊かれたが「庭で拾った」としか答えられない。




 老神官は、ふうっと大きく息を吐いた。


「これは、この施設から他所へ出る子供たちに持たせる物でね」


教会を出る子供たちには、身分の証のために教会の印章のあるものを渡している。


それは思い出として大切に肌身離さず持ち歩く者もいるが、もしもの時は売り払って良いことになっていた。


商人たちはこの印章のコインを受け取ると、その子供を助けるために動いてくれる。


「ずっと見つからなかったんだよ。 ありがとう。 あの子が帰って来てくれたようだ」


瞳を潤ませた神官は事情を話してくれた。




 ある高位貴族から子供を預かりたいと話があったこと。


「これはよくあることなんだ。 領主、あ、いや、貴族としての務めのようなものでね」


ティモシーさんの話では、身寄りがなくても清く正しく生きれば、いつか良い生活が送れるようになるという模範にするそうだ。


貴族に目を掛けてもらえれば、本人も、教会も助かるし、優秀な子供が増えれば結局は国のためになる、ということらしい。


そのため、施設内でも優秀で容姿も問題ない子供を選んで、まずは使用人として奉公に入る。


「あの子は不満など口にする子ではなかった」


居なくなったと聞いて驚き、街中探したが見つからない。


「コインも手放した様子がないことから、街中にいるとは思っておりましたが」


街から出るには資金が必要になるため、まずはコインを売ってお金にしようとするのだ。


なるほど、そういうことか。


なかなか良いシステムだと思う。




 僕は頷きながら出されたお茶を飲む。


「ごめんなさい。 一つだけ伺いたいのですが」


カップをテーブルに戻す。


「その子供を預かった家は、日頃から教会への対応はいかがでしたか?」


国のためと言いながら、嫌々引き取ったのか。


それとも、今まで興味はなかったが、これからは教会とも仲良くしようとしていたのか。


老神官は首を傾げた。


「さようですな。 確か、辺境伯に嫁いだ娘さんが教会と親しくしているようだ、と話していましたね」


高位貴族である辺境伯でも教会を利用する。


自分たちも出来れば教会を利用して、少しでも財政に余裕がほしいと考えたのかも。


だとしたら。



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