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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百六十六話・大旦那の願いなんて


 美しい庭だった。


綺麗に刈り揃えられた樹木、色も揃えられた花壇。


均一な小石を敷き詰めた小径。


はあ、あまりにも気合いが入り過ぎてて、自然を好むエルフには合わない。


「大旦那様、お客様をお連れ致しました」


「うむ。 ご苦労だった」


東屋でメイドに囲まれてお茶を飲んでいたのは、領境の町から一緒だった老騎士だった。


 まあ、予想済み。


辺境伯夫人がチラチラ見てたし、兵士たちの緊張がすごかったからな。


僕とモリヒトは並んで礼を取る。


「泊めていただき、ありがとうございます」


この館内では僕がエルフだということはバレてるようなので、二人ともフードは下ろした。


「エルフ殿。 遠い所、よくいらした。 歓迎する」


あん?。 ここは通過点で、わざわざここに来たわけじゃないんだが。




 大旦那は待機していたメイドや使用人を全員下げ、人払いする。


「申し訳ない。 少々込み入った話があるのでな。 そちらも使用人を下げてもらえまいか」


僕が一つ頷くと、モリヒトはその場で礼を取り、


「失礼いたします」


と、言って光の玉になり姿を消した。


「お?」


狼狽えるご老人は、あっちがエルフで僕が眷属だと思ってたんだろうな。


まあ、いつものことだ。


僕は大旦那の向かいの椅子に座る。


「エルフのアタトと申します。 あれは僕の眷属精霊です」


と言って、ニコッと子供っぽく笑う。




「そ、そうなのか。 失礼だが歳はいくつかね?」


「はい。 先の冬で八歳になりました」


僕は用意されていたお茶に手を伸ばす。


コーヒーが良かったなあ。


「何か僕にお話しがあると伺いましたが」


春とはいえ、まだ風は肌寒い。


温かい飲み物はありがたかった。


「いやしかし、こんな子供に?」


大旦那はブツブツと独り言を呟き始める。


僕が庭を選んだのは、寒さのせいにして話を早く切り上げさせるためだ。


早くしろや。




 限界だ。 僕は東屋に盗聴防止結界を張る。


カップを置き、椅子の背もたれに体を預けて脚を組む。


フゥッと大袈裟にため息を吐き、顔を背けた。


「人族とはまったく勝手なものだな」


声を低くして口調を変える。


「名乗りもせず、試すように共に行動。


客室に好奇心旺盛な使用人が大挙して押し寄せても咎めず、旅で疲れている者を夜遅くに呼び出す伝言。


謝罪に来るのは、この館の責任者ではなく他家のまだ未熟な使用人の若者」


一つ一つ不満を上げていく。


「私は今、仕方なく王都に向かっている。 特にこの領地に用事があったわけでも、誰かに会いに来たわけでもない」


それなのに呼び付けておいて「子供だから」と放置とは恐れ入る。


「辺境伯夫人のご実家と聞いていたが、これでは体も心も休まらない。 別に宿を取らせて頂くので失礼する」


そう言って立ち上がった。




「ま、待ってほしい、エルフ殿。 無礼はこの通り、お詫びする」


大柄な元騎士らしい老人は、慌てて東屋の床に手をついた。


え、ドン引き。


なんなんだ、この人は。


「すまん、 辺境伯に嫁いだ娘からエルフ殿に色々助けて頂いたと手紙をもらったのだ。 それで、その、ワシも知恵を貸してもらいたいと思ってだな」


「はあ?」


なんで、関係ない領地の者を助けなければならんのか。


僕の不機嫌さが伝わるのだろう。 


老人は再び頭を床に着けるように腰を曲げた。




 おそらく、その様子を結界の外から見ていた使用人たちが領主に知らせたのだろう。


若い領主と辺境伯夫人が駆け付けて来た。


しかし、彼らの前にモリヒトが立ち塞がる。


足首まである上等なローブで、体を隠した長身で細身のエルフ。


弱々しく見えたのだろう。


「何をしている!。 お祖父様を助けろ!」


館の兵士が飛び出す。


「何を馬鹿なことを言うのです。 相手はエルフ様と眷属精霊様ですのよ!」


辺境伯夫人が必死に領主を止めるが、間に合わず。


バーンッ


兵士全員が結界に弾き飛ばされた。


『我が主人の邪魔は許さぬ』


モリヒトの怒気を含んだ魔力が辺りに広がる。




 庭にいた者が全て腰を抜かした。


「アタトくん!、モリヒトさんを止めてくれ」


館から飛び出して来たヨシローが叫ぶ。


ティモシーさんは夫人に寄り添う。


睨み合う領主とモリヒトを見て、僕はため息を吐いて、結界を消す。


「止めろ、モリヒト」


『はい』


モリヒトはすんなりと魔力を引っ込めた。


 辺境伯夫人が僕の足元に飛んで来る。


「申し訳ございません、アタト様!。 如何様にもお詫びいたしますので、お許しください!」


僕はその横をスルリと抜けて建物に向かう。


「アタトくん!」


ヨシローが僕を責めるように大声を出す。


邪魔臭いなあ。




 僕は振り返り、辺境伯夫人に声を掛ける。


「庭は寒いでしょ。 僕が泊めて頂いてる部屋で話を聞きますよ」


そう言ってサッサと部屋に戻った。


キランが先回りして、お茶の用意をしてくれていたが、僕はモリヒトにコーヒーを頼む。


「苦いやつを」


『承知いたしました』


モリヒトがコーヒーを淹れている間に、次々と人が入って来る。


ドワーフ三人組は、早朝から街へ視察に出掛けて不在だ。


そのほうが僕は助かる。


説明しなくていいからな。




 僕の正面の長椅子に若い領主とその祖父にあたる大旦那が座る。


その右隣りの一人用椅子に辺境伯夫人が座り、専属侍女が張り付いて面倒をみていた。


反対側の席にヨシローと駆け付けたケイトリン嬢が座り、後ろにティモシーさんが立っている。


僕の傍にはもちろん、モリヒトだ。


 モリヒトが全員分のコーヒーを淹れ、キランはテーブルに砂糖やミルクを入れた小瓶を置く。


コーヒーの香りを吸うと、苛立ちで熱くなった気持ちが少し落ち着く。


カチャリとカップをテーブルに戻す音にも夫人が怯えてビクリとした。


なんだか申し訳ない気分になる。


夫人には何も思うところはないんだが。


「さて、話してもらえますか?。 あなた方は僕に一体何をさせたいのでしょうか」


辺境伯夫人は驚き、自分の父親である大旦那を見た。


「お父様、一体何のことでしょう。 エルフ様に頼み事など、この家の者に出来るはずがございませんわ」


「それは」


老騎士が口を開きかけたが、隣にいた領主が先に答えた。



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