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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百六十話・憧れの靴と職人たち


 翌日。

 

「これはまた素晴らしい!」


黒狸がくれた毛皮を領主館にいた仕立て屋の爺さんに渡す。


「次の冬に間に合えば良いので、ワルワさんと僕用にフード付きの外套にして頂ければ」


モリヒトによれば、この毛皮の特性は『隠蔽』


今まで狸魔獣の気配が捉えられなかったのは、これのせいだ。


「畏まりました!」


と、爺さんはホクホク顔である。




 スーにも代金後払いで欲しいだけ渡してやった。


「でもこんなにたくさん、持ち切れないわ」


と、困った顔をする。


ドワーフの女性の仕事は家事や店の掃除や雑用程度。


男性たちなら持っている素材集め用の大容量の袋を持っていない。


女性たちが持っているのはせいぜい買い物用の小さな袋である。


ガビーは父親の工房を手伝っていたので、それなりのものは持っていたが、


「おれが預かろう」


と、商売用にドワーフの素材袋を何枚か持っているロタ氏が預かってくれた。


「こんな上等な品物にゃ、滅多にお目に掛かれねえ」


と、大切に仕舞い込む。


商売人には宝物だよな。




 出発の日までは暇そうなスーに、


「この黒いヤツでも毛玉の御守り、作れるか?」


と訊く。


「ええ。 切って形を整えて針で紐を付けるだけだもの」


作る過程を聞いていたら、そのほとんどをガビーがやっていたことが分かった。


「不器用なスーにしちゃ出来が良過ぎると思ったよ」


「うるさいわね。 あたいだって自分で作りたいわよ!。 でも売り物にならないって言われちゃったし」


悔しそうに口を尖らせる。


「わ、私が、スーのキレイな手が刃物で傷付いたらと思うと、つい手が出ちゃってー」


ガビーのお人好しのせいもあるのか。


まあいい。


いくつか作って卸すように頼んだ。




 出発まであと五日となり、僕の仮縫いの件で領主館に呼ばれる。


ガビーたちは今日はトスの所に遊びに行った。


何故か、ロタ氏とヨシローがついて来て、当然のようにティモシーさんが付き添っている。


 仕立て屋の爺さんは満面の笑顔で僕たちを出迎えた。


「如何でしょうか?」


次から次と違う服を着せられる。


なんだ、もう仕上がってたのか。


「この服にはこちらの靴で。 ベルトはこちらに」


何故か靴屋の女性職人も立ち合い、服に靴や小物を合わせていく。


その横で、これまた何故かモリヒトがメモを取っている。


何やってんの?。


『王都でアタト様に恥を掻かせるわけには参りませんから』


モリヒトは熱心に職人たちに着回しを訊ねている。


何を想定してるのやら、これ、すげーキラキラの衣装なんだが。




 着せ替え中、僕は白っぽい革のショートブーツが気に入った。


「すごく軽いな。 もしかしたら蛇革?」


靴屋のおねーさんが頬を赤くして頷く。


「はい。 この革は軽いのに丈夫で、色も染め易いです。 簡単な傷は勝手に修復しますし、この町の子供たちには大人気です」


興奮気味に訴えてくる。


あれ?、この人、こんなによく喋る人だったかな。


 この靴職人のおねーさんは魔獣の素材を扱いたいと、わざわざ他の町から移住してきたそうだ。


前回は物静かな女性という印象だったが、緊張していたせいだったのか。


「他の町では、魔獣の革なんて気味悪いとか、魔物を呼び寄せるとか言われて、ずっと職人仲間からも嫌われていました。


でも、この町の皆さんは気にしないし、喜んでくださるので」


お蔭で段々と気持ちが楽になってきたらしい。


「良かったですね」


前回、作ってもらった魔獣の革靴も重宝してるよ。




 それを見ていたロタ氏が、


「ふむふむ。 アンタ、これをおれの分も頼めるかね」


と、交渉を始めた。


「ドワーフの職人が作る靴はどうしても火属性とか耐熱製とか、仕事用になってな。 おれは普通に履き易い靴に憧れがあるんだ」


せめて家の中では楽な履き物が欲しかったそうだ。


「はいっ。 まだ蛇革がいっぱいありますので!」


おねーさん、仕事をもらえて良かったな。


 仕立て屋の爺さんに訊ねる。


「ヨシローさんの衣装は終わったんですか?」


領都では慌てて他の人に借りてたから、ちゃんと確認したい。


「はい。 サナリ様の分は最初に手掛けさせて頂きました」


あの時、苦労したティモシーさんもウンウンと頷いていた。




 その時、部屋の隅に控えていた家令の老人がコホンと咳をした。


機会を伺っていたメイドさんたちが、お茶とお菓子を差し替えるために入って来る。


「実は、こちらの勝手なお願いで申し訳ないのですが」


家令の老人はモリヒトを見て言った。


「ヨシロー様とケイトリン様のお衣装だけで荷馬車1台では足りなくなりまして」


このままでは馬車や護衛を増やさなければならない。


「失礼は承知なのですが。 出来ましたら、アタト様の荷物と一緒に運んで頂ければと」


僕は全てモリヒトに任せっぱなしなので手ブラである。


モリヒトはチラリと僕を見た。


 僕はお茶を飲みながら「構わないですよ」と、答えた。


「ただ、行きの片道だけでお願いします」


僕たちは王都では別行動になるかも知れないし、帰りも一緒とは限らない。


ご領主は下位貴族で辺境伯の部下である。


そのため、王都では辺境伯の家で世話になる予定なのだ。


「はい。 それはもちろんでございます。 王都でしか使わない物は辺境伯の王都邸で預かって頂くことになっておりますので」


家令の老人は嬉しそうな声になった。


旅の行程に必要な物はそんなに嵩張らない。


なら大丈夫か、と王都に着くまでの片道分、ヨシローたちの衣装を預かることになった。




 そうして、ようやく明日は出発という日。


僕はモリヒトだけを連れて魔道具店に向かった。


「これをどうぞ」


依頼品ではあるが、図案など特に何も指定されていない。


「おおっ、美しいですな」


老店主は顔を綻ばせる。


「お気持ちに適った出来になっていれば良いですが」


「とんでもない。 このような素晴らしい作品に出会えたことを神に感謝いたします」


まあ、喜んでもらえたなら良かった。


「アタト様。 この作品の題名をお伺いしてよろしいでしょうか」


淡い色合いの街並みと動きのある多数の人影。


「『春』です」


町が暖かくなるように願いを込めて。



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― 新着の感想 ―
[一言] この絵を金に困って手放したら売春になるんだろうか?(スットボケ
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