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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百五十九話・黒狸の恩返しらしい


 黒狸について来てもらい、ワルワさんたちに紹介した。


辺りはすでに暗く、夕食の時間を過ぎている。


「明日にでも領主館に行って黒狸は狩らないよう頼んで来ます」


町で広報してもらうつもりだ。


「うむ。 ワシも狩人を見かけたら伝えよう。 アタトくんの魔獣だと言えば誰も手は出さんじゃろ」


僕は感謝の礼を取る。


おとなしくポンタによじ登られている黒狸にも悪さをしないよう言い聞かせた。




 しかし、コイツはちょっと痩せ過ぎじゃないかな。


どうやら狩りが下手過ぎて、餌を取れない魔獣だったようだ。


【ナンカネー、ニク ヨリ キノミ ガ スキナンダッテー】


はあ?、言い訳してんのか。


タヌ子が同情して、ヤツの代わりに狩りをして餌を与えていたらしい。


最近ずっとタヌ子は出産で動けず、黒狸には会いに行けなかった。


だから自分から会いに来たんだな。


「毎日、この時間に来ればワシが餌を用意しておいてやろう」


「ありがとうございます。 それについては、一つお願いがありまして」


僕は、狸魔獣たちとワルワさんを連れて外に出る。


スライム小屋へ向かい、小屋の後ろに置いてある岩を動かす。


「この穴は僕の別荘に繋がってます」


岩は見かけは大きくて重そうだが、実はハリボテである。


普段はビクともしないが、少し魔力を注いでやれば動く。


「ワルワさん。 ここに餌を放り込んでください」


森の中であるため、外に餌を置くのは危ない。


「黒狸、お前はこの穴から出入りしろ」


そう言って、僕は黒狸をポンッと放り込んだ。


なるべく狩人や兵士には見つからないようにしろよ。


どんなに周知しても聞かない奴はいるし、町の外から来た者には魔獣の区別なんてつかないだろうからな。


穴から僕たちを見上げている黒狸に、タヌ子がキャンキャンと話し掛け、黒狸はしばらくして穴の奥へと姿を消した。




 本格的に旅支度が始まる。


領主館に挨拶に行き、ご領主とケイトリン嬢に応接室で面会。


ドワーフ三人を同行させたいと申し出ると、かなり驚かれた。


「確かにドワーフ族自体はあちこちで見かけるが」


彼らは主に地下道を使って移動するため、あまり旅をしている姿は見られない。


しかも女性のドワーフは滅多に人前に現れないのだ。


「ドワーフ族は、男性は外で仕事、女性は家庭内で男性を助けるのが仕事というふうに分けられているそうで」


だから女性のドワーフは住んでいる地下街からあまり外には出ない。


「今回、彼女たちは絵画や小物を製作する職人として、色々と見聞を広めたいそうです」


「な、なるほど。 護衛たちは大変だろうが、よろしく頼む。若い女性が増えるのはケイトリンも心強いだろうし」


は?、今なんて。


「ケイトリン様も一緒に行かれるので?」


驚いたヨシローが隣に座っていたケイトリン嬢に顔を向ける。


領主の娘は当たり前だという顔で微笑んだ。


 父親である領主が許可しているなら僕たちに異論は無い。


ヨシローは嬉しいような怖いような複雑な顔をする。


若い女性のやることは分からんから諦めろ。




「先日話した通り、ここから出立した後、領都で辺境伯邸に立ち寄り、そこで領兵隊と合流。 一緒に王都へ向かうことになる」


ご領主の説明では領兵が先導し、王都にある辺境伯の王都邸まで案内してくれるらしい。


彼らは毎年のように王都と辺境伯領を往復しているので危険な場所や、馴染みの宿なんかを教えてくれる。


頼もしい味方だ。


「では、辺境伯領都までは前回と同じでよろしいですか?」


ティモシーさんは出されたお茶を飲みながら確認する。


「ああ、それで構わない」


僕とモリヒトとウゴウゴ。


ガビーとスーとロタ氏。


ヨシローとケイトリン嬢とティモシーさん。


後は教会警備隊の若者と、ケイトリン嬢付きの護衛メイドさん。


この町で護衛の仕事を請け負っている兼業の警備兵が一人。


領都までの三日間はこの面々で動くことになった。




 さて、今日はケイトリン嬢の衣装の仮縫いが予定されているので、僕たちは退室する。


また仕立て屋の爺さん、張り切ってるんだろうな。


何着もあるらしく、仕上がるまでには数日掛かるらしい。


女性は大変だよな。


「お前たち、衣装はどうするの?」


ガビーに訊いてみる。


「私たちはロタさんが用意してくれますから」


各地を商売で渡り歩いているロタ氏に言わせると、基本的なドワーフの民族衣装があり、目上の者との面会はそれで済む。


「移動中はいつもの装備でいいかなって。


町中や宿で着るものは、スーの見立てでちょっと良い服をドワーフ街で買って来ました」


やはり若い娘たちだけあって抜かりはない。




 領主館を出てヨシローの喫茶店に入る。


飲み物とお菓子が出て来たが、ヨシローは席を外した。


「不在の間の注意をしておかないとね」


ああ、なるほど。


 最近、この町の人口が増えている。


つまり色々とヤバい奴も入って来ているということだ。


「ここの店員は若い女性や優しげな男性が多いからな」


見た目で舐められ易いとティモシーさんはため息を吐く。


だけど、辺境地で魔獣被害の多い土地柄。


住民のほとんどが戦える気概と装備を持っている。


「おかしなことをすれば叩き出されるだろうね」


むしろ、ヨシローのほうが甘いとティモシーさんは笑う。


まあ、同じ平和ボケ日本人としては分かるよ、ウン。




 僕たちが不在の間の心配しても仕方がない。


この町はずっと魔獣被害に遭ってきた。


だから、皆それなりの備えはある。


「僕が心配することじゃないな」


窓の外を眺めながら、辺境の町のたくましさを感じる。


……そうだよな。 僕ひとりが居なくなっても町は変わらない。


ちょっと強くなったくらいで自惚れちゃいけないな。


僕はゆっくりと甘いコーヒーを飲み込んだ。




 夕方、ワルワ邸に戻ると事件が起きていた。


「これはいったい」


「それが、夕べの穴に果物や干し魚を入れてやったんじゃが、さっき黒狸がやって来てな」


裏口に真っ黒な毛皮の山が出来ていた。


キューキューと鳴くタヌ子に反応して、ウゴウゴが懐から顔を出す。


【オレイ ダッテー】


黒狸が置いて行ったらしい。



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― 新着の感想 ―
[一言] 思ったより義理堅いし団三郎とでも名付けるか(棒
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