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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百五十二話・神の声と教会


 ワルワさんも詳しいことは分からないとしながらも、


「それは、もうアタトくん自身が気付いておるじゃろ」


と、言う。


「……はい」


長老の資料通りなら、やはり僕はダークエルフ族ということになる。


「今は姿を見ないらしいですが、何か問題があったのでしょうか。 その、危険な種族だったとか」


森のエルフ族とは別れ、人族の町で生きていたダークエルフ族。


何故、居なくなってしまったのか。


「そこはきっと当時を知っている者でなけりゃあ分からんさ。 ただワシに言えるのは、アタトくんは危険な子供ではないということだ」


僕は少しだけ笑う。


「ありがとうございます」


小さく絞り出した声は届いただろうか。




「とっても気持ち良かったっす!」


バムくんが戻り、大浴場の良さを大声で語る。


しかし、あの大きさの風呂に一人で入って満喫出来るのだから、バムくんは意外と大物だ。


エンデリゲン王子でさえビビッてたからな。


ワルワさんにも風呂を勧め、休む部屋はバムくんと二人で客用寝室を使ってもらった。


 翌朝、外が騒がしい。


「またか」


「やっほー、アタトくーん」


玄関を開けると門の外にヨシローとティモシーさんがいた。


「おはようございます、ティモシーさん」


「おはよう、アタトくん。 悪いね。 コレがどうしてもって聞かなくて」


ハイハイ、分かってます。


「それと、少し話があってね」


真面目な顔の騎士さんに頷く。


「中へどうぞ。 朝食はお済みですか?」


「まだだよ!」


ヨシローには訊いてない。


とにかく入ってもらう。




 二階の食堂でガビーが作った朝食を取る。


「あ、おはようございます!。 ヨシローさん、ティモシーさん」


「おっはよー、ガビーちゃん」


ヨシロー、その軽い物言いは止めたほうが良いと思うぞ。 ケイトリン嬢のためにも。


 バムくんとワルワさんはスライムの世話があるので、食事が済んだら帰るそうだ。


ついでに、ガビーは昨日会えなかった弟子のトスの所に行くというので、バムくんに護衛を頼む。


「お任せっす!」と、請け負ってくれた。


頼もしい若者である。


三人はワルワ邸に戻って行った。




 僕たちは三人を見送った後、居間でモリヒトが淹れてくれたコーヒーを飲む。


「それでお話というのは」


コーヒーのカップを置き、ティモシーさんが話し出す。


「ケイトリン嬢の婚約については領主様が王都の役所に届け出を済ませたんだが、どうやら教会側が警戒していてね」


冬は、王都に各地から貴族が大勢集まる。


貴族にとっては社交の季節なのだ。


ご領主は妻を亡くしてから、そっちのほうは辺境伯に任せ、顔を出していなかった。


しかし、この冬は辺境伯も同行して、王宮の貴族管理部門にケイトリン嬢の婚約届けを出した。




 それに対し、教会から待ったが掛かったのだ。


「ああ、『異世界の記憶を持つ者』の意思を確認をする魔道具の件でしょうか」


「そうだ」


ティモシーさんが頷く。


「俺本人が選んだと言ってるのに信じてもらえないんだよな」


ヨシローは自分の意思だと書いた手紙を王宮と教会に提出している。


それでも、確認したいと連絡が来たそうだ。


「教会の大司教からの正式な招聘なので、ヨシローでも断れない」


と、ティモシーさんはため息を吐く。


本当に厄介だな。




 しばらく前に、ある高名な神官が亡くなった。


彼はティモシーさん家族、特に歌姫である姉の後ろ盾となって、ずっと守っていた人物である。


「その神官さんは『異世界の記憶を持つ者』の意思を知ることが出来る魔道具を所持していたと思われるのだが、亡くなった後、その魔道具が行方不明になっているんだ」


『異世界の記憶を持つ者』たちは、この国にとっては大変重要な存在である。


今まで多数の『異世界の記憶を持つ者』が現れ、様々な歴史が刻まれてきた。


その知恵を上手く使って発展したり、下手に扱って、その力で滅ぼされたりしてきたと文献が残されている。


そして彼ら自身も、優秀な指導者になった者もいれば、身を持ち崩して犯罪者になったり、亡くなってしまったりと様々だ。




 ティモシーさんは教会の警備隊所属なので、教会の内部もよく知っていた。


「このようなことが起こる理由は、神が我々に試練をお与えになっているのだと言われている」


この世界に『異世界の記憶を持つ者』を与え、人々をより幸福な世界へと導こうとしているのだという教えだ。


「悪趣味だよな。 俺たちだけじゃない、この世界の人たちも被害者じゃないか」


「ヨシロー。 神への冒涜は許さないぞ」


「あー、すまん」


こんな試練を与えられているが、この世界の多くの人々は信心深い。


まめに教会に足を運び、祈る。


そのため、教会は民の信頼が厚く、国の頂点である国王にも意見出来る立場となった。


「実際には王族と対等というわけじゃなく、意見を言うことが認められている程度だ。


だが、神官の中には『神の声を聞く』という才能を持つ者がいて、民や国に対して神の意思を伝えることがある」


亡くなった高名な神官は、その才能持ちのひとりであった。




「しかし、今の教会はどこかおかしいんだ」


ティモシーさんは腕を組む。


例の魔道具は、代々の継承者が亡くなる前に、次の継承者を決める。


悪用を避けるため、それが誰であるかは本人たちしか知らない。


それを使う場合は何人かの高位神官が立ち合い、神の声を聞く才能持ちに神に確認させるという複雑な儀式となる。


「なんちゅー邪魔臭いことを」


ヨシローがため息を吐く。


「最初から神に聞けばよろしいのでは?」


僕も疑問に思ったので訊いてみる。


「才能持ちでも神の声はいつでも聞けるわけではないそうでね。


だから、ある程度は魔道具で確認して、あとは神の返事待ちになるらしい」


そうか。 明確な答えが聞けるわけではない、ということなんだな。


「それじゃあ、その言葉が本物の神の声かどうか分からないんじゃない?」


「そうだね。 魔道具の判定とは逆だったら、どちらかが嘘をついてることになる」


なんだよ、それ。


そんな訳の分からないもののために王都に行くのか。


かわいそうに。



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