表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/667

第百五十話・魔物の成長に注意


 今回は急な呼び出しだったが、前回から三ヶ月以上は経っている。


「ゆっくりしていきなさい」


ワルワさんにそう言われて、僕は「ありがとうございます」と頷いた。


 お言葉に甘えて、しばらく滞在する予定。


昼食後、まだ雪の残る森を抜けて町に入ると、広場にはもう雪は無い。


子供たちが元気に走り回っている。


「アタトー!」


呼ばれて振り返ると、トスが笑っていた。


「お義祖父じいさんは元気?」


僕は干し魚や市場で売る物を漁師のお爺さんに届けに来た。


トスは両親を亡くし、その漁師の家に引き取られた子供である。


「ウンウン。 アタトもガビー師匠も久しぶりや!」


ガビーを師匠と崇めるトス少年は嬉しそうにはしゃいでいる。


将来はガビーのような鍛治師になりたいそうだ。


「ガビーは?」


その師匠はどこに?。


「夕べ、職人の寄り合いがあったで、きっとまだどっかの飲み屋にいるだよ」


そうか、ドワーフだから仕方ないな。




 トスと一緒に港に向かう。


初めて訪れた時は寂れていたが、今では立派な漁港である。


浜には魚を干す竿が並び、港を守る警備兵が常駐する小屋が建つ。


「あれは?」


トスの家はこの辺りでは一番大きな漁師だが、塀に囲まれた敷地に、また何か建てている。


「じいちゃんの魚醤の注文が増えたで」


また魚醤用の蔵を増やしたのか。


繁盛してるな。


「おー、坊ちゃん。 元気やったかー」


漁師のおじさんに、その親のお爺さんも外に出て来た。




 皆で新しい蔵を見上げる。


「もう少しあったかーなったら、魔魚たちの産卵が始まるでな」


そうか、この辺りは春が産卵時期なのか。


「どうか無事に漁が出来ますよう祈ってます」


そう言ったら、お爺さんから、


「ガビーさんから大漁を祈ったっちゅう絵をもらってな。 アタト坊ちゃんの文字入りだと、トスがえらく自慢しとるで」


と、その絵を家宝にすると言われた。


タハー。


確かにガビーに頼まれて、魚の絵に『大漁』の文字を書いた覚えはある。


アレかー、と苦笑するしかない。




 それよりも、気になることが。


「トス。 僕に話があるんじゃない?」


さっきから異様な魔力を感じている。


「あー、そのー」


「何ていう名前だったか、トスのスライム」


「ギョギョだよ」


うん、それ。


「見せてみろ」


「う、うん、ちょい待ってや」

 

トスは家に入って行ったが、なかなか戻って来ない。


懐からウゴウゴがニョロと顔を出し、周りを見回していた。


【オトモダチー?】


ウゴウゴも感じているらしい。




 僕はモリヒトを連れて、ドカドカッとトスの家に上がり込む。


「あ、アタト」


「やっぱりか」


見事に大きく育ったスライムが居た。


「魔力の与え過ぎだな」


ウゴウゴがサッカーボール程度なら、ギョギョは小さな子供くらいの大きさに成長している。


入っている箱もギチギチで、窮屈そうだ。


「ごめん、アタトにやり過ぎるなって言われてたのに」


冬の間、釣りが出来ず、いつもギョギョから魔力をもらっていたのが不要になった。


それでもトスにとっては可愛いペットみたいなものだから、いつも通り餌を与え続ける。


「それで、気が付いたらこうなってたと」


「う、うん」


僕は額に手を当てて考え込む。




 スライムはある程度成長すると、自分の体内に必要以上の魔力を取り込めるようになるみたいだ。


そして、その過剰分で体が大きくなる。


このままでは拙い。


「トス、ちょっと離れてろ」


「ギョギョに何するの?」


心配そうなトスを、駆け付けたお爺さんに預ける。


「ウゴウゴ、あの仲間がお腹を壊したみたいなんだ」


【ソーナノー?】


僕の懐から出て来たウゴウゴを見て、トスやお爺さんがギョッとした。


真っ黒なスライムである。


ワルワさんの小屋にいるスライムたちは様々な色をしているが、黒いのはいないはずだ。


「ウゴウゴ、必要ない魔力を減らしてやってくれ」


【ハーイ】


ウゴウゴから触手が伸びる。


ビクッとするトスに、


「与え過ぎた魔力を抜くだけだから」


と、笑ってみせる。




 しばらくしてギョギョは元の子猫程度の大きさに戻った。


ウゴウゴの大きさは変わらない。


「なんで、ウゴウゴは大きくならないの?」


「ん?、なんでかなあ」


僕は適当に答えたが、実はまだよく分かっていない。


「これからは気を付けるよ」


トスはそう言ってギョギョに謝っていた。




 漁師のお爺さんに干し魚や代理販売をお願いする品物を預ける。


代わりに、出来上がった分の魚醤を引き渡してくれた。


「ありがとうございます!」


樽で受け取り、モリヒトが結界に取り込む。


「代金は差し引いとくで」


「はい」と頷く。


「そういや。 魔道具店の旦那からアタト坊ちゃんを見たら教えろって言われとった」


あー、嫌な予感。


「分かりました。 後で寄ってみます」


絶対、逃げよう。


手を振って港を離れる。




 魔道具店を避け、教会の蔵書室に向かう。


司書さんは相変わらず優しい笑顔で迎えてくれた。


「こんにちは、お久しぶりです」


「アタト様もお元気そうで何よりです」


借りていた本を渡すと椅子を勧められたので座って待つ。


僕はチラリとモリヒトを見上げて、会話が外に漏れないよう、結界を張ってもらう。


それに気付いた司書さんは、新しく貸し出すための本を積み上げながら、


「何かございましたか?」


と、訊ねてくる。


「はい。 少し伺いたいことがありまして」


僕は長老からもらった紙束を取り出す。




「エルフの長老から古い資料を調べたものを頂きました。 雪の間、それを調べていたんです」


司書さんは「ほうほう」と興味深そうに紙束を見ているが、普通のエルフにさえ読みにくい長老の文字はエルフ語である。


おそらく見ても読めないだろう。


「エルフの種族について書かれています。 それによると、僕は」


いつも被っているフードを取る。


褐色の肌に白い髪。 黒に近い暗赤色の目で司書さんを見る。


「森に住むエルフとは違う種族のようです」


司書さんは何故か目を逸らした。


「そう、ですか」


少し困ったような、辛そうな表情になる。


「何かご存知ではないでしょうか」


「いいえ」


僕の言葉に司書さんは大きくため息を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ