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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百四十三話・エルフの種族の考察


 ああ、これは長老の魔力で作られた幻覚だ。


長老は自分の眷属精霊を使って本物の肉体ではなく、魔力だけを僕のところに送ってくれた。


僕に誕生日の贈り物を渡すために。


「そろそろ限界じゃ。 アタト、またな」


いつかどこかで、また会おう。


「うん、じいちゃん、 ありがとう。 姿を見れて嬉しかったよ」


長老も僕も長命種のエルフだ。


きっとまた会える。


薄く青い精霊の光が消えるまで、僕はじっと見つめていた。




 ぼんやりとモリヒトが室内で動く気配がした。


地下だから日光は感じないが、その気配だけで朝だと分かる。


目が覚め、体を起こす。


「おはよう、モリヒト」


『おはようございます、アタト様』


昨夜遅くに長老の眷属精霊が来たことはモリヒトも分かっていた。


モリヒトは、長老の眷属精霊とはあまり仲良くないみたいで、僕のために我慢してしばらく離れていたそうだ。


『長老がアタト様を傷付けるはずはありませんから』


「ありがとう。 久しぶりに長老と話せて楽しかったよ」


『良かったですね』と、モリヒトも微笑んだ。




 僕は、大切に枕の下に入れた紙束を取り出し、あれが夢ではなかったことに安心する。


『それは?』


モリヒトが朝食を並べながら訊ねる。


「長老にもらった。 昨日は僕の誕生日だったらしい」


口元から自然と笑みが溢れた。


いくつになっても嬉しいものだ。


贈り物があれば尚良い。


『それは、おめでとうございます』


それが、僕がこの世界に呼ばれた日なのか、アタトが親から捨てられた日なのか、分からない。


だが、長老は僕と出会った記念だと、その日を祝いの日にしてくれた。


ありがたいと思う。


この世界に来て、長老に出会えたことが最初の幸運だったと強く感じる。




 その日から僕は紙束の解読を始めた。


長老の書く文字や表現は独特だからな。


蔵書室から借りた難しい本を読むより苦労する。


まあ長い冬の日の暇つぶしにはちょうどいい。


「なになに?、エルフには三種類あるのか」


特徴的な耳を持つエルフは、昔は人型妖精の耳長属と呼ばれていた。


 主にエルフと呼ばれるのは、森に住むウッドエルフ、またはホワイトエルフと呼ばれる種族。


金髪緑目で白い肌が多い。


精霊から好意を持たれやすい美しい容姿をしている。


 他には、人里を好み、人族と共生するダークエルフ族。


「褐色の肌に白髪赤眼だと?」


は?、僕のことか?。


いやいやいや。


魔法で人族に近い姿に変化へんげし、町中でも違和感のない動きをする。


 もう一つはハイエルフ。


これは種族というより、エルフ族の中でも特に優秀な身体能力を持ち、神格化されるほど美しい容姿を持つ者を指す。


「神様に近くなるってことか」


この三種類をまとめてエルフと呼ぶ。




 僕は開いていた紙束を閉じて考える。


休憩に入ると思ったモリヒトがコーヒーを淹れてくれた。


「モリヒトは『ダークエルフ』って知ってるの?」


ありがたくカップを受け取って啜る。


『二、三百年ほど見かけませんが、そういうエルフ族がいたのは知っております』


過去にいた……それだけ?。


「じゃあ、僕は?」


『アタト様はエルフ族でございます』


間違ってないのが腹立たしい。


「精霊王は何て言ってたの?」


『アタト様のことを、ですか?』


ウンウン。


『異世界からのお客人としか伺っておりません』


うーむ、悪意を感じるのは僕だけか。




 僕をこの世界に送り込んだ精霊王。


エルフの白い肌は陽に焼けても、すぐに透き通る肌に戻る。


僕は陽に焼けた肌。


つまり、褐色とまではいかないが色白ではない。


白髪に黒い眼は元の世界の自分に似せていると勝手に思い込んでいたが、違うのかも。


「ホワイトエルフに対して、肌色が濃いからダークエルフ」


彼らは以前は確かに居たのだろうが、森のエルフたちは見たことがなかったのかも知れない。


知っていたら、すぐに僕をダークエルフ族だと騒いだだろう。


だけど、僕は「同じエルフだけどエルフらしくない」と言われていた。


自分たちの他にそういう種族がいることを知らないんだ。


森に引きこもってる種族だからな。




 他に誰かいないかな、ダークエルフを知っていそうなヤツは。


「ネルさん、は長老と口裏を合わせそうだし。


司書さんは絶滅した種族の話をしていたな」


もしかしたら、それがダークエルフ族なのか?。


「絶滅……?」


何かが引っ掛かる。


「人里を好み、人族と共生する種族」


きっと町の中で生活していたんだろう。


人間と同じように。


しかし、ある時、皆、居なくなってしまった。


「あれ?、最近聞いた話になかったか?」


辺境地にあった小さな国。


ある日、突然、町の住人が消えてしまう。


「消えた?」


何故?。


分からない、ということが分かる。




 数日後、ガビーたちが帰って来た。


「お帰り」


「アタト様!、アレ、何ですかっ!」


スーに噛みつかれた。


「なんだ、急に」


「だって、だって、あれ」


言葉が出ないスーに代わってロタ氏が苦笑しながら口を開く。


「アタト様がヨシローさんに贈った絵がすごい反響でして」


はあ?、と僕は片眉を上げた。


「あのー、あれは私の下絵にアタト様が短い文を書き足したものですよね。


それがとっても素敵だったので、また店で額を購入して入れて贈ったんです」


あー、ガビー。 また余計なことを。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「ヨシローさん。 この絵、とても素敵ですね」


「ああ。 ガビーちゃんが描いた絵に、アタトくんが筆で書いた文字なんだって」


「丸々とした可愛らしい仔羊たちがいっぱい。 白紙に黒色だけの絵なのに、この『愛』を表わす文字も力強い感じがします」


「ああ。 仔羊は子孫繁栄を、『愛』の文字はそのまま愛情を表しているみたいだけど。 むむっ」


「何か、ありましたの?、ヨシローさん」


「アタトくんからの手紙には、この絵は丸めたまま保管しておいて欲しいと」


「えっ、もう額に入ってますよ?」


「誰かが勝手にやったみたいだな」


「でも、アタト様の作品というだけでも相当貴重だと思いますわ」


「確かに。 見物人が押し寄せたりしてな。 あはは」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇




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― 新着の感想 ―
[一言] この手のやらかしは転移者や転生者がやらかすもんなのになあ ガビーの天然ぶりで酷い事になりかねんなあ(目反らし
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