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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百四十一話・狐魔獣の姿の精霊


 ポンッと音がして、灰色魔獣が変化へんげを解いて光の玉になる。


『降参!。 ちょっと揶揄っただけだ』


と、早々に離脱。


しかし、白い狐魔獣は目を血走らせて睨んでくる。


『我ら精霊にこんなことをして、ただでは済まぬぞ』


いやいや、そっちから仕掛けて来たんでしょうが。


しかもモリヒトも精霊なんだから、お互い様だし。


なんで見下されてるの?。


僕が子供だから?。


エルフらしくないエルフだから?。




「もっとやれ」


『承知』


狐魔獣を閉じ込めている岩の強度を上げる。


「モリヒト、ウゴウゴを連れて来い」


モリヒトは一瞬姿を消し、すぐに戻って来た。


【アタトサマー、ナーニー?】


「ウゴウゴ、美味しそうな魔力があるんだが、欲しいか?」


狐魔獣の動かない顔の目だけがギョッと一瞬見開き、魔力を吸う魔物を見る。


【オイシイノー?。 タベテモイーノー?】


狐魔獣の体からバリバリと電光が飛び散る、が、残念ながら岩の中。


大地の精霊であるモリヒトが強度を上げた岩は砕けることなく沈黙している。


僕はウゴウゴを抱き上げ、狐魔獣には近寄らないよう気を付けながら触手を伸ばすように言った。


【ハーイ】


シュルシュルッと何本も触手を伸ばすウゴウゴ。


ギャー、という悲鳴と共に、白い狐魔獣が光の玉に変化した。


ふ、勝ったな。




『な、なんと恐ろしい主人あるじだ』


白い狐魔獣は青い光を放つ玉になっていた。


雪の精霊らしい。


『大地の精霊よ。 良き主人に出会えたようだな』


灰色魔獣は緑色の光の玉。


こっちは北風の精霊だという。


モリヒトは作業で忙しく、二体の精霊の声には無視を決め込んでいる。




 僕たちは戦闘終了後、塔に戻って来た。


何故か、精霊の玉も一緒に。


草原は何ごともなかったかのように元通りになり、僕が倒した海獣も回収して運び込んでいる。


塔の一階広間で海獣の解体をしているところだ。


 海獣はかなり大きいので、ガビーがモリヒトの解体を手伝っている。


僕が広間の隅で釣って来た魔魚を干していると、スーが近寄って来た。


「ねえ、アレなに?」


二体の光の玉がモリヒトに纏わりつくように浮いている。


「草原で絡まれた。 どうやらモリヒトの仲間みたいだな」


『仲間ではありませんよ。 ただの同族です』


おっと、モリヒトに聞こえてしまったようだ。




 解体が終わって保管庫に納めると昼食が始まる。


ガビーとスーには下の部屋へ行くように言ったが、僕のことを心配して、一緒に食べることになった。


外には出ず、このまま一階広間にキャンプ場みたいなテーブルと椅子を出す。


傍に小さめの囲炉裏を作り、火を熾した。


ガビーが鉄網を乗せて肉を焼き始め、スーが町で買って来た野菜を乗せる。


下拵えは勿論、ガビーがした。


今日狩った海獣の肉はかなりクセが強く、数日熟成とアク抜きが必要らしいので、他の魔獣の肉を出す。


「この間作った焼き肉用のタレにしますか?」


「ああ、頼む」


美味ければ何でも良い。




 海獣は脂が多く採れるそうで、冬の燃料として優秀なんだとか。


「食用にもなりますよー」


ガビーがそう言うので揚げ物を作ってもらった。


小魚の素揚げだけでも、


「うわっ、美味しい!」


と、スーの目がキラキラしている。


『普通、水産物の脂は魚の内臓からなのであまり多くは摂れません』


辺境の町はそもそも漁獲量が少ない。


そのため新鮮な動物油脂、しかも水性魔獣油脂は珍しいらしい。


この海獣自体が大きいのでたくさん取れた。


お蔭で贅沢に揚げ油にも使えると。 やったね。




 でも、この海獣が町の港に出たら危ないよな。


『大丈夫だと思います。 海流の温度がこの辺りが一番低いですから』


モリヒトによると、港付近の海水温は海獣には適さないそうだ。


それなら良かった、とホッとする。


何せ、町では子供たちが港での釣りに参加しているからな。


あまり危険に晒したくはない。


「海獣の脂、町に届けられないかな?」


ガビーがポツリと呟いた。


「次の機会じゃだめなのか?」


売り物が少ないから、いつになるかは分からないが。




 再び灰色の狐魔獣の姿になっていた北風の精霊から返事が返って来た。


『雪祭りのご馳走に良いだろうな』


今は仔狐の姿をしている。


「へ?」


僕はポカンとなる。


『エルフには関係ございませんが、人族の街では雪祭りというのが、もうすぐございます』


モリヒトは知っていたようだ。


「祭りって。 秋に収穫祭やったばっかりなのに?」


『雪で遊ぶ祭りなのでな。 毎年、我々が冬と雪を運んで各地方を回るのだ』


白い仔狐魔獣に姿を変えた雪の精霊が、ただ遊びに来た訳じゃないと言う。


そうだったのか。


『ついでに、近くに大地の精霊がいたから遊び……様子を見に来ただけだ』


精霊二体は自分たちの役目ために、この地に来たらしい。




 僕たちには関係ないと思ったが。


「あ、あの、アタト様もぜひって」


ガビーはどうやら町の子供で弟子であるトスに、祭りに招待されているらしい。


僕はため息を吐いた。


「いや、僕はいいよ。 ガビーとスーで楽しんでおいで」


ハッキリ言って、あの領都の祭りだけでお腹いっぱいだ。


あまり人の多い場所には行きたくない。


「別荘に行くならドワーフの地下道を使っても良いよ。 護衛も兼ねてロタ氏に連れてってもらいな」


ガビーは少し残念そうにしていたが、僕は寒いのが苦手だということにしてもらった。




 精霊二体は、その日のうちにどこかに行ってしまい、翌日から北風が強くなって雪が降り始める。


僕は部屋にこもり、ヨシローたちへの贈り物を考えていた。


「祝いかあ。 せっかくだし、縁起物が良いよな」


司書さんから借りて来た本を丸写ししながら、祝いに適した文字や文章がないかを調べる。


「寿、祝、だめか」


該当する文字が無い。


 ぼんやりしていたら、ガビーが恐る恐るやって来た。


「あのー、私、これにしようかと」


祝い用の銅版画の下書きを見せてくれる。


「うん、良いんじゃないか」


相変わらず細かくて美しい。


「こっちの絵も捨て難くて」


と、また違う下絵も見せてくる。


「もう!、こっちって言ってるでしょー」


賑やかな冬の夜は過ぎる。



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[一言] 札幌雪祭りやらかすんじゃないのか(目反らし
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