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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百三十九話・冬の釣りの獲物


 ヨシローとケイトリン嬢の一報が流れて来たのは、僕たちが塔に戻って十日ほど経ってからだった。


「へえ。 ようやく決めたか」


ワルワ邸のモリヒトの分身からの情報である。


『まだワルワ邸でのヨシローの発言のみですが、ご領主も反対はなさらないと思われます』


だよなー。


領都に向かった時、ヨシローの同行を許したことで、ご領主自身もそうなることを希望していたのは分かっていた。


 夕食の席に着いている僕とモリヒトの会話にガビーが反応する。


「ケイトリン様、婚約ですか!?。 お祝いしないといけませんね!」


ガビー、お前はまだ別荘のカーテンやらシーツやら、やることが残ってるだろ。


「結婚式とか町でするのかしら。 是非、見たいわ!」


華やかなものが好きなスーは、だいぶ先走っている。


婚約もまだ決定ではない。


「次に町に行った時に訊いてみよう」


お祝いに欲しいものがあれば用意したいし。




 それから数日後にドワーフの親方が、


「別荘からドワーフ街まで地下道を繋げたぞ」


と、知らせに来てくれた。


「ありがとうございます」


今回はドワーフの地下道のため、ということで無料にしてくれたので焼き魚と酒で歓待する。


「それで、どうする?。 こことも繋げるのか?」


それは草原の地下を通るということか。


『いえ。 草原や海岸沿いはアタト様の修行の場ですので』


モリヒトが断った。


安易に穴を開けると、走り回ったり、魔法をぶっ放したりしてる間に壊してしまう可能性がある。


「でも、町へ行くのが楽になるわよ?。 天気にも左右されないし」


と、スーが言う。


確かに、もう冬だし、雪の影響も少ない地下道は楽かも知れない。


「それでも僕は、少しぐらい不自由なほうがいいな」


地下を快適だと思うドワーフに比べ、エルフは動植物と共に森で生きることを望む。


その違いかもな。


「お前たちは好きにすればいい」


そう言ったらドワーフ娘二人は「そうね」と頷く。


「私たちはドワーフ街経由の地下道でゆっくり行けばいいわね」


ああ、そうしてくれ。


どうしても草原や森を抜けられない時は、僕にはモリヒトがいるから、どうにでもなる。




 そういえば、ドワーフの商人ロタ氏からも知らせが来ていた。


先日購入した他領の魚醤の店から、こちらの魚醤を手に入れて欲しいという話があったらしい。


「それも含めて町に行く用事が増えたな」


魚醤はなあ。 製造している量自体が少ないので、春まで待ってもらうしかない。


僕もその時は大量に売ってもらえそうなので期待している。


 町で売るための干し魚や魔獣の肉も、そろそろ準備しなけりゃならん。


寒さが厳しくなって手に入る量が減っているが、自分たちの分は保管倉庫に十分な備蓄はある。


「そういえば、魔獣って冬はあまり動かないの?」


獣は寒い間は穴を掘って冬眠するみたいだが、魔獣はどうなんだろう。


『色々ですね。 暖かい場所に移動したり、地下に潜ったり。 寒い期間しか姿を見せないものもおります。


あと、海水温が変わるため、今までと違う種類の魔魚が回遊して来ることもありますよ』


へえ。 何か楽しみになってきた。


でもこの時期の魔魚や魔獣は、冬前に溜め込んだ魔力が有り余っているのと餌が少ないため、やたらと凶暴で広範囲を動き回るそうだ。


それは気を付けないといけないな。




 この世界でも雪は降る。

 

その日、空は晴れていたが、凍るような風が荒れ地から吹き付けていた。


荒れ地の向こうの山脈は雪に覆われて白い。


ここもしばらくすれば雪景色になるだろう。

 

ギニャーン


モコモコの毛皮を着込んだ大型犬並みのタヌ子と一緒に、釣り竿を担いで海岸沿いを歩く。


今日は僕も厚めの戦闘用コートに防御結界を纏っているため、そんなに寒さは感じない。


 いつもの釣り場に到着。


磯に降りて、生簀に張っていた氷を割っておく。


練習中の魔力感知で見ると、底のほうで数匹がじっとしているのが分かる。




「何か今日は大物が釣れそうな気がする!」


僕は懐からウゴウゴを出して岩場に放す。


最近は箱に入らず、こうして僕の傍で自由に動いている。


「あまり遠くには行くなよ」


【ハーイ】


灰色だった体色が黒に近くなったが、大きさはサッカーボール程度で落ち着いた。


ウゴウゴは、ユルユルと動きながら何にでも触手を伸ばす。


生簀の中の魚にも触手を伸ばそうとした。


「こらっ。 魔力は吸っちゃダメだぞ」


魔魚がただの魚になってしまうからな。


【ハーイ】


外に出るようになってからは、何故か触れていなくてもウゴウゴの意思が聞こえる。


『おそらく、アタト様の体の一部にウゴウゴが何か印を付けているのではないでしょうか』


アンテナとか、送受信機みたいなものかな。


魔物だから、モリヒトにもその辺りはよく分からないらしい。


僕の健康状態には特に異常はないようだから、まあ良い。


そのうち、ワルワさんから報告があるだろう。




 釣り竿の針に魔力を纏わせ、海へと投げる。


何度か実験の結果、ウゴウゴの魔力より僕の魔力のほうが魔魚の食い付きが良いのが分かった。


やっぱり魔物よりエルフなのかな。


風は海に向かって吹いているので、竿を振るだけで餌付きの針は結構遠くまで飛んで行く。


荒れた白波の向こうの魔魚たちの気配を探る。


「結構いるんだよなー」


この領地は他の海域より魔素が多いんだろうな。


ウキの無い釣り竿を適当に引き上げると、しっかりと食い付いた魔魚がぶら下がっている、


「お前ら、どんだけ腹減ってるんだよ」


針を外して生簀に放り込む。


しかし、簡単に釣れ過ぎじゃないか?。


餌が良過ぎるのかね。


「ほれっ」と、もう一度竿を海に向かって振る。




『アタト様』


姿を消していたモリヒトが急に現れた。


「ん?」


ビニャー


タヌ子が警戒の声を上げる。


グッと竿が引かれた。


「大物っぽいな」


僕は腰の短剣を一本抜いておく。


あれ?。 僕が海を見ているのに、タヌ子とモリヒトは崖の上を見ていた。


【サカナー、サカナー】


ウゴウゴは嬉しそうに竿の先を見ている。


【アッチハ オマカセスルノー】


え、つまり、海と陸の両方から来てるのか?。



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