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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百三十八話・魔物の魔力と病人


 魚を釣っていた子供が近寄って来る。


「ちょーだい」


そう言われてトスが「あいよ」とスライムの箱に手を入れる。


じっと見ていると、スライムがトスの手の中にポンッと光の玉を渡すのが見えた。


「え?」


僕が驚いていると、トスが、


「オラが餌に魔力をやってたら、ギョギョも返してくれるようになったんや」


と、ドヤ顔をする。


僕がモリヒトを見ると「分からない」と首を横に振った。


「ワルワさんに聞いたけど、大丈夫だって言ってた」


子供たちはトスから光の魔力をもらい、それを針に付けて釣りをしているようだ。


釣れるんなら、まあいいか。




 トスは釣りに忙しいようなので、僕たちは予定通り蔵書室に向かう。


「こんにちは」


「おや、アタト様。 ようこそ」


あー、このホッコリした笑顔に癒される。


いつものように、返す本を渡し、新たに借りる本を受け取る。


「少し難しい本もありますが、アタト様なら大丈夫でしょう」


「あのー」


僕は首を傾げる。


「様付けでしたっけ?。 前は『アタトくん』だった気がするんですがー」


初めの頃は様付けだったが、最近はくん付けだったはず。


なんで戻っちゃったのかな。


「ふふふ、この町に大変な功績を残され、辺境伯様にも認められた方です。


アタト様と呼ばせて頂きますよ」


イタズラっぽく笑う。




 そして、司書さんは少し真面目な声になった。


「私は亡き領主夫人からケイトリン様のことを頼まれていたのですが」


領主館の横暴な文官たちに追い出されてしまった。


「あの頃は一つ一つに苦言を呈し、頭が固い、古臭いと。 今思えば、若い者たちには邪魔だったのでしょうね」

 

そう言って苦笑する。


しかし、彼らもまた領主館を追われた。


「彼らがいなくなった後、領主様からケイトリン様の教育係に戻るように言われましたが、お断りいたしました」


ケイトリン嬢はすでに成人した女性である。


男性である自分より同性の教育係が必要だと感じたそうだ。


「私は、今はまたこの町の子供たちに教えるようになりましたので、これで良かったと思っておりますよ」


教会の片隅で、文字や簡単な魔法を指導させてもらっていると微笑んだ。


「お時間がありましたら是非、お寄りください。


アタト様の字は大変、お美しいと伺っております。 子供たちに見本を見せて頂けると嬉しいです」


ギャー、誰だ、そんなこと教えたヤツは!。


「い、いえ、僕は遠慮します。 ではまた」


恥ずかしくなって逃げ出した。




 ふう、喉が渇いたな。


僕たちはヨシローの喫茶店に入った。


案の定、ガビーとスーはまだ来ていない。


いつも通り、モリヒトは紅茶とケーキを頼んでいる。


僕はコーヒーにミルクをたっぷりと焼き菓子。


今日はタヌ子をワルワ邸に置いて来たので、中二階のヨシローの席に座っていた。


「あのぉ、今日はサナリ様は?」


店員さんが訊いてくる。


「あー、ヨシローはちょっと病気で寝込んでます」


ワルワ邸の自分の部屋で寝ているはずだ。


「えっ」


おや、ケイトリン嬢。 いつの間に。


自分の店なのに、なんで店員さんの後ろに隠れてるの?。


「アタト様。 そ、それは本当ですの?」


ケイトリン嬢にえらく食い気味に訊かれる。


「ヨシローのことですか?。 ええ。 薬草茶を飲んでおとなしく寝ているはずです」


向こうの世界のただの風邪っぽいし、ちゃんと寝てれば二、三日で治ると思うよ。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「ヨシローさん、大丈夫ですか?」


「あれ?、ケイトリンさん。 どうし、ゲホッ」


「アタト様に聞きました。 あの、蜂蜜の飴です。 どうぞ」


「うわあ、ありがとうございます。 コホコホ、いや、たいしたことないんで、ご心配なく」


「いえ、私の母も病気で。 たいしたことないって、ずっと言われてたのに亡くなりましたから」


「ゴフッ。 そうだったんで、ゴフッ、すか。 いや、俺の場合はただの風邪っていうか」


「ワルワさんからも『ヨシローは異世界人なので、どういう治療をしたら良いか分からない』と聞いています」


「あー、それはそうですがー。 コホッコホッ」


「私に出来ることがあったら遠慮なくおっしゃってください。 ヨシローさんは私の、その、兄のような方ですから」


「あはは、そうですね。 俺もケイトリンさんを見てると、ゴホンッ、元の世界の妹を思い出します。


ゴホッゴホッ」


「あ、大丈夫ですか!」


「ダメです、近寄らないでください。 移りますから」


「でもっ!」


「ゲホッ、ゴホッゴホッゴホッ」


「ヨシローさん!」


「ハアハア、大丈夫ですよー。 あはは、ちょっと喉がね。 飴、ありがたく頂きます」


「あの、えっと、この飴は。


先ほど、アタト様が店にいらして『ヨシローさんのお見舞いに行くなら飴を持って行くと良いです』って教えてくださったんです」


「そっかー、アタトくんが。 不思議な子ですよね。 子供とは思えないというか、エルフだからなのか、ずっと年上の先輩みたいな感じですね」


「はい、私もそう思います。 辛辣で容赦なくて。 だけど、とても他人思いで。 ご自分の知識を惜しみなく分け与えて下さる、優しい方です」


「ウンウン」


「私、ヨシローさんに謝らないといけなくて。 アタト様にも指摘されました」


「え?、ゲホッ、な、何を?」


「若い女性が、その気もない男性相手に気安くしてはいけませんって。


私、田舎育ちなので、その辺り、あまり上手くなくて。 クロレンシア様からも『サナリ様とはどういう関係なのか』と散々問い詰められてしまいました」


「あー、あはは、あまり気にしないでください。 俺はケイトリンさんのことは妹だとしか」


「いいえ。 たぶん、それでも貴族の娘としては失格なのです。 ヨシローさんにはいつも頼ってばかりで、ごめんなさい」


「……ケイトリンさん。 縁談があるそうですね」


「えっ、はい、あの、色々と来ているとは聞いております。 でも、決めるのは私ではなく父ですから」


「その縁談に、一人追加しても良いですか?」


「はい?」


「アタトくんに勧められまして。 俺も婿候補に入れてもらうつもりです」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



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