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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百三十七話・魔獣の移動の跡


 現在、別荘は地上二階、地下一階。


中央にある階段は上に、その裏側の、正面から見えない位置に下への階段があった。


 地下に降りると広い場所に出る。


右に訓練室へと続く狭い廊下。 左は地下牢に続く通路のため、鉄格子の扉になっていた。


階段からまっすぐに広い廊下があり、僕の予備室は右側の木製の扉。


左側の客用予備室は両開きの大きくて頑丈な扉が設置されている。


この町の住民の地下室も同じように頑丈に作られているそうで、まるでシェルターのようだ。


風呂場は僕の部屋の並びに作る予定。




 通路を奥まで行くと突き当たりだが、今はドワーフの親方が穴を開けて工事中である。


奥から戻って来たドワーフの親方に廊下に呼び出されて、地下の通路のことで話しをする。


「一応、最奥まで見て来たが、地下道を繋げさせてもらって良いかね?」


どうやら近くにドワーフの地下道が通っているらしい。


「それは是非、お願いします」


ロタ氏が往来し易くなるだろう。




 でも僕には一つ疑問が残る。


「あのー、地下に魔獣はいないのですか?」


親方が腕を組む。


「いないわけじゃねえが、アイツらは自分で穴を開ける訳じゃねえんだ。 開いてる穴や、空洞になってる地形を利用するんじゃ」


地下水の川や使わなくなった巣穴を、身を隠したり、移動したりするために使う。


そのため、地下の空洞が魔獣の大きさに合わせて広がることはあるそうだ。


「ドワーフ族の地下道はそれらを避けて作っとる」


「そうなんですね」


じゃあ、この辺りに魔獣の穴は無いわけだ。




「ただな。 少し気になるもんがあった」


親方は眉を顰める。


「森の向こう、荒れ地の方角からこっちに向かって、何かが地下から地上に移動した跡があるんじゃ」


そういえば、荒れ地の地下には湖があった。


地上部分に出来た穴はしっかりとした地盤で塞いである。


「荒れ地から来たんじゃないかと、わしは思うが」


その地下湖から流れに乗って森へと移動したのかも知れない。


「アタト、この間の蛇はどこにおった?」


僕は背中に冷や汗を感じながら答える。


「分かりません。 森を移動中に僕を追って来たので」


と、話すと親方は「フム」と頷いた。


「おそらくじゃが。 長年、地下で眠っておった魔獣が、荒れ地の魔素が変わったせいで動いたんじゃな。


餌が無くなったか、何かの振動で眠っていたのを起こされたか」


ギクリ。


「まあ、放っておいても何年かに一度は魔獣たちは騒ぎ出す。 その時はここが役に立つだろうよ」


親方は「ガハハ」と笑った。



 

 地下道は親方に任せて、モリヒトは建物の右側地下の訓練室の結界強化と、左側の地下牢の扉や格子を設置していく。


建物の真下には僕専用の豪華版予備室と、簡素な雑魚寝用広間の客用予備室がある。


客用にはベッドは無いが手洗いと洗面所があり、詰め込めば五十人は入れるだろうが、必要に応じて小部屋に仕切る予定だ。


『これで地下は完成でしょうか』


「そうだね。 後は予備の風呂場を男性用と女性用を作って終わりだな」


風呂の給湯用魔道具はまだ届いていないから後日になる。


地上階にある部屋付き浴室はタライ型で、簡易型の給湯用魔道具でお湯を溜め、身体を拭くくらいしか出来ない。


でも、それがこの世界での普通である。


『……風呂はそんなに必要なんでしょうか?』


モリヒトが無表情で抗議してくる。


「まあ、今は必要ないかも知れないけど、やっておいて損はない、はず」


僕は目を逸らした。


一人で入る広い風呂が憧れなんだよ。




 昼食後、親方は地下道を繋げながらドワーフ街に戻るそうだ。


僕たちは、スーが店を見たいと言うのでガビーも連れて残りの買い物に向かう。


「ガビー、任せていいか?」


「あ、はい。 終わったら喫茶店で待ってますね」


女の買い物は長いと決まってるからな。


 僕とモリヒトは、漁師のおじさんに干し魚と燻製を届けに行った。


「実はドワーフの行商人からコレを入手しまして」


ロタ氏にもらった他の町の魚醤を、お爺さんに見せる。


「ほう。 味を見てもええか?」


「はい、是非、感想を聞かせてください」




 この世界では、獣や魚でも生きるために魔素を取り込み、魔力を体内で作り循環させている。


そして魔素が異常に高い場所で過度に取り込んでしまうと体内に魔石が形成され、魔獣、魔魚になる。


「この町のような魔魚ではなく、普通の魚を使って作られているので癖がなくサッパリしてますね」


他の領地で作られた魚醤には魔力が含まれていない。


僕の言葉にお爺さんも頷く。


「ほんとだ、味が薄い。 でも、これはこれで使い道がありそうでんな」


そうなんだよ。


蛇肉用のタレを作った時、僕たちが作ったものは魚醤の味が強く、ロタ氏が持ち込んだ魚醤で作ったものは他の香辛料の味が強かった。


「個人の好みや、料理によって使い分けする、という感じになるかと」


お爺さんには魚醤の瓶を一つ進呈した。


「ありがとよ、坊ちゃん。 こっちの魚醤は春には仕上がる。 もうちょい待ってくれや」


「はい。 もちろんです。 また小魚が大量に必要になったら言ってくださいね」


「おう」


話が終わって浜に出ると、子供たちが魚を釣っている。


傍にはきちんと武器を装備した大人が見守っていた。




「あ、アタトー」


子供たちの中からトスが手を振る。


フードを深く被った僕は彼らに手を振り、近付いて行く。


「アタトー」「アタトさまー」


他の子供たちにも僕のことを知っている者が増えた。


怪しい格好をしてても、小さな子供たちは僕を怖がらない。


トスが気安く接しているから、それを真似ているだけだろう。


「トス。 何でここにスライムが居るんだ?」


僕が渡した魔物の切れ端をトスが魔力を与えてスライムにして育てているのだが、そのスライムが入った箱が足元に置いてあった。


トスの魔力を餌にしたせいか、そいつは少しピカピカ光って、嬉しそうに揺れている。


「あ、こいつは『ギョギョ』っていうんだ」


トスも僕と同じで名付けのセンスは無いな。


「アタトの『ウゴウゴ』とお揃いにしたー」


げっ、そんなお揃いはいらんぞ。



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