表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/667

第百三十五話・男の妥協の問題


 ヨシローが縁談に消極的なのは、そういうことか。


でも、ケイトリン嬢の話では異世界人と結婚し、子孫を残している例もある。


つまり、ヨシローは単に元の世界でも女性とうまくやれなかったから自信が無いだけだ。


「結婚しなくてもいいってアタトくんたちは言うけど、婚約破棄は若い女性にとっては大変なことだろ。


そんなこと、出来るならしたくない」


真面目だなあ、ヨシローは。


そこは日本人としてはマトモな青年で嬉しいが。


「ケイトリンさんは守ってあげたい。 でも、彼女が本当に好きな相手と幸せになってほしいんだ」


それはヨシローが問題から逃げてるだけだよな。


 この世界の人たちは西洋風の白人ぽい容姿をしているが、ヨシローはごく普通の日本人顔である。


無意識な劣等感はあるだろうな。


だけど、異世界人なのだから、この世界の普通の人たちと違って当たり前だ。




「じゃあ。 ケイトリン様がヨシローさんの方が良いと言ったら?」


「えっ、だって、ケイトリンさんの好きなタイプはガビーちゃんだし」


優しくて、気が利いて、体格はゴツく見えるのに器用な職人。


「俺、ガビーちゃんに勝てる気がしない」


ヨシローは、ガビーより背丈は少し高いが、筋肉はドワーフであるガビーのほうが発達している。


顔については、好みはあるだろうが、ガビーは女性なので男っぽく見えるとはいえ優男風だ。


「ケイトリン様の『好き』は友情の範囲内だと思いますよ」


ガビーのほうは、ケイトリン嬢は年齢が近い同性だし、領主の娘だから優しく接していただけだと思う。


ガビー自身は恋愛に対しては奥手っぽいし。


女性同士の恋愛もあるにはあるだろうが、ケイトリン嬢にはそんな気配はない。


ガビーが女性だと分かった時点で淡い恋心は霧散してしまったようだ。




 僕はため息を吐く。


「僕としては別にどうでもいいんですけど」


聞いててアホらしくなってきた。


「ヨシローさん。 これは恋愛の話ではないって分かってます?」


「えっと、恋愛と結婚は別ってこと、だよね?」


「いいえ。 この世界では結婚に恋愛は不要だってことです」


好き嫌いで縁談が纏まるのは極一部だけ。


結局、お互いに嫌でも妥協するかしかない。


「妥協をするか、しないか、だけです」


「俺にケイトリンさんで妥協しろと?」


睨むなよ、邪魔臭いヤツだな。


「違います。


結婚するつもりがなくても婚約者という芝居をする。 しないならケイトリン様がどんな相手と結婚しようが口を出さないと決める。


どちらも嫌だけど、どちらかで妥協するという、ヨシローさん自身の気持ちの問題です」


だから、サッサと決めてくれ。


黙り込んだヨシローは、ふいに立ち上がると部屋から出て行った。


建物の中なら安全だし、一人にしておいてやろう。




「血統ってそんなに大切なのかね」


僕は肩をすくめた。


どうして貴族だの王族だのはそんなことに拘るんだろう。


僕には分からん。


『異種族間なら分かりますけどね』


モリヒトの声がした。


おおっと、いつの間にこっちに来たんだ。


どうやらドワーフの親方を酔い潰したらしい。


おお、すげえ。 あの親方が床に転がって寝てる。


でも、考えたら飲み比べで精霊に勝てるわけないな。


酔わないんだから。


『酔わないわけではありませんよ。 酔い方が違うだけです』


無表情で言われてもな。


『顔には出ませんが、魔素が乱れることはあります』


そうなんだー、としか言えない。




 それで。


「異種族がなんだって?」


『アタト様にはまだ早いですが』


異種族間の婚姻についてだった。


『そもそも異種族では子孫を残すことが難しいので、結婚相手は同族であることが望ましいです』


子供が出来なければ種族自体が衰退する恐れがあるため、異種族婚は忌避される。


まあ、僕は同族のエルフにさえ嫌われてるし、無理だな。


 血統に関しては、その種族でなければ発動しない特性魔法とかあるらしい。


よく分からないけど突っ込んで訊くのは止めておこう。


なんか話が長くなりそうだ。


そろそろ寝たい。




 部屋の隅で毛布を被る。


明日は家具を全て設置したい。


応接室と客間以外は拘らなくていいよな。


他の部屋の分は町で買ったものを参考にしてモリヒトに頼んで作ってもらおう。


あー、家具を置く前に壁紙や天井画や照明器具の設置は必要か。


スーの図案はどうなったかな。


絨毯はロタ氏待ちだけど仮に何かを敷いてどんな感じになるか様子を見たい気もする。


親方が作ってくれた、外の窯も気に入った。


あの周囲を整備して丸太の台や椅子を置いたらキャンプ場みたいで楽しそうだ。


そうなると外灯も要る。


玄関前に広い道を整備して、ある程度囲って外灯をぐるりと定間隔で並べてさ。


塀は大人の背丈より高いフェンスみたいな金属で模様みたいな感じにしたら豪華に見えるかな。


侵入者感知魔法を付与しておけば泥棒避けにもなるだろうし。


えーっとあとはー、グゥー。




 ……なんでかな。


目が覚めたら、昨夜の夢、そのままの光景が広がっていた。


「モリヒト」


これはどういうこと?。


『アタト様の指示通りにいたしましたが、何か?』


いや、頼んでない。


っていうか、無意識に口から出てたのか?。


『駄々漏れでしたので』


それ。 僕は指示してないんじゃない?。


 しかし、既に僕が寝る前にぼんやりと考えていた通りに全ての作業が終わってしまっている。


「こりゃあ、すげぇな」


親方もポカンと眺めていた。


壁。 天井。 床には無地の絨毯。


外を囲む塀に外灯。


購入して来た魔道具と家具は全て設置済みで、それを参考にしたベッドやテーブルと椅子のセットが各部屋に置かれている。




 何か不測の事態が起きた時のために、塔の他にも拠点は必要だと思っていた。


何しろ、草原の塔はエルフの森に近い。


ドワーフたちも引っ切り無しに出入りしているから、エルフたちがその気になれば、見つかるのも時間の問題かも知れないしな。


『必要になれば、わたくしがアタト様を部屋ごと空間を切り取って移動させます』


モリヒトの言葉が物騒だ。


出来れば、そういう事態にならないことを祈るよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ