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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百三十一話・蛇の肉と魚醤


 巨大な蛇の肉の一部を担いで塔に戻る。


モリヒトは僕の戦闘の後始末で遅くなりそうだから、先に切り身をもらって来た。


すでに陽は完全に落ち、辺りは暗い。


だが、モリヒトの防御結界を破棄して中に入ると、庭でドワーフたちが酒盛りしていた。


またアイツらはー。


「留守番、ありがとうございました!」


その真ん中に蛇肉の切り身を投げ入れる。


「うおっー、肉だー!。 てか坊主か。 よお、お帰り」


ガビーの父親で、ドワーフの工房主の親方が肉を受け止める。


工房の職人らしい4、5人ほどのドワーフたちが焚き火を囲んでいた。




 ここは石垣と塔の間にある庭。 何故か、酒瓶とドワーフが転がっている。


「ガビーが心配なのは分かりますが、何でいつも宴会なんですかっ」


親方はロタ氏に代わって、毎晩、ここで夜警をしていたらしい。


ドワーフの夜警とは宴会なのか。


「今回はガビーだけじゃねえ。 スーもいるからな!」


いや、全然分からんわ。


 僕は前回同様、地下道への穴を開け、転がっていたドワーフと酒瓶を落として行く。


「ガビーもスーも、もう寝てるぞ。 わしは礼を言うために待っておった。


坊主、ありがとうな」


スーが元気そうで安心したと親方は笑う。


僕がいない間にスーと話し合い、部屋はガビーの部屋を拡張し、二人で一部屋を使うことに決まったそうだ。


「スーの荷物も全て搬入済みじゃ。 後はよろしく頼む」


髭モジャの筋肉の塊のような親方が子供の僕に頭を下げた。


「何言ってるんですか、まだ十日も経ってないんですよ。 これからどうなるか分からないでしょ」


「ガハハ、それもそうだな」


親方には新しく別荘を作ったことを話した。


「また何か頼むかも知れません。 その時はよろしくお願いしますよ」


投げ付けた蛇肉をお土産に持たせて、そのまま地下道へ落とした。


「任せとけーー」


遠くで声が聞こえた気がする。




 僕は自分の部屋へ向かい、部屋にある簡易浴室で軽く汗を洗い流してベッドに入る。


タヌ子はガビーの部屋にいるらしい。


隣の部屋からガリガリと鍵が掛かっている扉を削る音がする。


「タヌ子ー、心配すんな。 もう寝ろ、明日遊ぼう」


声を掛けたら静かになった。


 あー、疲れた。


走った距離もヤバかったが、その間に魔法を使って戦闘訓練。


もう無茶苦茶だよ、モリヒト。


一旦、毛布を被ると、もう目が開かなかった。




 何か香ばしい匂いに釣られて目が覚める。


足元で丸まっていたタヌ子も起き出し、背伸びをすると、僕の顔を舐めに来た。


『おはようございます、アタト様』


「ん、おはよう、モリヒト。 何焼いてるの?」


タヌ子をモフッていると、お腹がグゥと鳴く。


『昨日の蛇肉でございますよ。 あれからタレに漬け込んでみました』


領都まで暇だったので、魚醤に香草、酒と砂糖を加えて焼き肉用のタレを試作していたんだった。


やっと記憶にある味に近いものが出来たばかりである。


「漬け込めるほど魚醤の量は無いはずだけど」


首を傾げていたら、


「そりゃあ、おれが運んで来たんだ」


と、扉を開けてロタ氏が入って来る。


「アタト様がいない間に行商に行ってたんだが、そこで魚醤を見つけてな」


今まではドワーフの作品を売るばかりだったが、僕の倉庫整理の競売を見て、色々買うのも楽しくなって来たそうで。


「ん?。 僕はロタさんに塔の警備を頼んだはずですが」


「アハハハハ、ちょうどいい留守番がいただろ?」


そっか、ロタ氏にとってもガビーの父親は雇い主だもんな。


あの親方に言われたら交代せざるを得ないか。




 モリヒトが用意してくれた食事を摂りながら、ロタ氏と話をする。


朝食だと思ったが、遅い昼食だった。


どおりでよく寝たはずだ。


 タレ漬けの蛇肉はあっさりした中にコクと歯応えがある。


こっちの世界の肉は魔力があるせいか、元の世界のものよりかなり味が濃い。


噛めば噛むほど味が出るというか、獣の肉だなあと思う。


それに対して魔魚は脂が少な目で食べ易い。


どちらにしても、この体はまだ子供だから何でも美味しく頂いている。




 それは置いといて、タレの話だ。


「他の場所で手に入ったんですか?」


魚醤が盛んな町があるらしい。


「ああ。 魚が獲れるのはこの辺境地だけじゃねえからな」


ロタ氏は辺境伯領を中心に周辺の土地を回っている。


そのうち、海に面している領地は二箇所。


魚の種類によって魚醤の種類も色々あると言う。


「それは楽しみですね」


味を比べてみたいもんだ。


「しかし、この辺境地の魚醤は魔魚から作られる。 それはまた一味違うらしいぞ」


へえ。


魔力を持つ獣や魚は、肉になっても人間に必要な魔素を含んでいる。


辺境地で作られた干し肉や干し魚は他の土地の物に比べると、魔素がある分、栄養が豊富なんだとか。


それなら交易品として、あちらの魚醤と良い勝負出来るんじゃないかな。


「一度、漁師のお爺さんに話してみましょう」


また魚醤の注文が増えたら大変かな?。


でも、新しい蔵も出来たし、やれば出来るだろう。


 モリヒトが作ってくれた蛇肉のタレ焼きは元の世界の蒲焼きに似ていて美味しい。


ロタ氏は僕への土産だと数本置いて行った。


ありがとう、ありがとう。 かなり嬉しい。




 女性たちは、もう昼食を終えてガビーの鍛治室にいた。


仲良く何か作業中らしい。


「お嬢がスーに何かを頼んでいたよ」


「へえ?」


何だろうな。


とにかく別荘の話をしなきゃならないので、中に入って声を掛けた。




「えっ、別荘ですか?」


ガビーたちに休憩を取ってもらい、お茶のカップを渡す。


「うん。 毎回、行く度にワルワさんにご迷惑を掛けるからね」


しかも王族や商人にも目を付けられている。


出来れば、そういった客はお断りしたいが、断るにしても今回みたいにワルワさんが脅されるのは、非常に気分が悪い。


「それはそうですね」


ガビーはウンウン頷く。


「そこって私たちの部屋もあるの?」


お茶を啜りながらスーが訊いてくる。


「壁で仕切ってあるだけで、まだ何も無いよ。 多少の家具類は町で注文して来たけど」


次に町へ行く日に、実際に見てもらうことにした。



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