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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第十三話・謎のお隣さんに出会う


「放しやがれ!、い、痛い痛い、放して、放してー」


身なりから男性だとは思うが、年齢は若いのか中年なのか、パッと見では分からない。


モリヒトが何かを呟くと、その男性の首から下が石棺のような結界に閉じ込められた。


「ヒッ、ヒィイイイ」


「モリヒト、入ってもいい?」


僕は部屋に顔だけ突っ込んだ状態で声を掛ける。


『ええ、大丈夫ですよ』


モリヒトは、僕にはニコッと笑い掛け、足元には『黙れ』と恫喝。


恐い恐い。


『アタト様、夕食にいたしましょう』


「う、うん」


モリヒトは悲鳴を完全無視と決め込んで食事の用意を始めた。




「お願いします、助けてくださーい」


部屋の隅に転がされている男性は子供の僕に助けを求めるが、僕だって怒ってるモリヒトに逆らいたくない。


ごめんね。


 この男性は僕たちが留守の間に、勝手に入り込んでいたようだ。


「でも、どうやって?」


僕は猪魔獣の肉を噛み締めながらモリヒトに訊ねる。


だって、塔の入り口はモリヒトの結界魔法で誰も入れなかったはずだ。


『おそらく、この者は地下から侵入したのではないでしょうか』


モリヒトは騎士さんからもらったお茶を淹れ、お土産のクッキーを口に入れる。


僕の分はちゃんと別になってるので、いざという時のために、いつも通り保管した。




 塔の地上部分は荒れ果てていたが、地下は思ったより丈夫だった。


『あれはドワーフ族でしょう。 地下に住む種族です』


確かに気配は人間よりエルフに近い。


まあ、ドワーフ族はエルフ族と同じで魔力が高くて寿命が長いからな。


モリヒトは、彼らの住処が近くにあり、偶然地下道が繋がってしまったのだろうと言う。


「何で泥棒扱いなんですか!?。 こっちはずっと以前からここに出入りしてたのに」


だからといって、他の誰かが住んでいる場所に入り込んで勝手に使っちゃダメでしょ。


「本当に泥棒なんかじゃありませんってば」


僕はタヌキと一緒に食事を続けながら石棺から頭だけが出ているドワーフを見る。




「でも髭も無いし、体格も随分スッキリしてるけど、これがドワーフなの?」


ドワーフっていうのはヒゲモジャのずんぐりむっくりで、岩山に住んでるんじゃなかったのか。


『普通はそうですが』


この辺りに山なんてない。 平原と森、そして海。


『おそらく、この地下にドワーフが好む鉱脈があるのではないでしょうか』


詳しいことはドワーフじゃないと分からないらしい。


ふうん。


あ、タヌキが興味津々でドワーフを見に行った。


ニャーニャー


悪いヤツではなさそうだ。


何たって地下ではあるが、お隣さんということになる。




 モリヒトに頼んで、ドワーフが逃げないことを条件に拘束を解く。


彼の言い分も聞いてみたい。


「ドワーフのビアンタだ、ガビーでいい」


ガビーは濃い茶髪に濃い茶の瞳の大きな目をしている。


髭はないし、肌も白いし、肩までの髪は癖っ毛だが一つに結えていた。


背丈はモリヒトより低くて身体つきは筋肉質なのにゴツくない。


やっぱりドワーフには見えない体型だ。


「じゃあ、ゴミが散乱してたのはアンタのせい?」


僕が訊ねるとガビーは目を逸らす。


「えっと、その」


最初にここに来た時、この部屋は箱や布袋が散乱した状態だったのである。


何度も出入りしていたというなら、もう少し片付いていてもいいんじゃないか?。


「ごめんなさい。 本当にただ出入りしていただけで」


うな垂れるドワーフは、身体はデカいが年齢はまだ十七歳だという。


「もしかしたら、何かから逃げて来て木箱に隠れてた?」


ガビーは大きな瞳を見開いて僕を見る。


大きな木箱がいくつかあり、その箱の中が案外綺麗だったんだ。


それをモリヒトが寝台や椅子に作り替えている。


ガビーは今日ここに来たら隠れる場所がなくなってて、困ってあちこち探していたんだろう。




 ガビーはドワーフらしくないドワーフだ。


「鍛治師の工房で除け者にされてて」


成人の年齢になっても、どんなにがんばっても、見習いのままだった。


たまに辛くなると仕事中はここで時間を潰して、適当に家に帰る。


そんな生活をしていたそうだ。


「ハハッ、どこも変わらないな」


家族がいる分、ガビーの方が幸せなのかな。


いや、そんな工房を辞められないのは家族がいるせいか。


僕はガビーにエルフの村を追い出されてここに来たことを話す。


「そうだったんですね」


ガビーは同情的だけど、そんなのいらん。


「じゃ、僕が雇うと言ったら工房は辞められるか?」


「はい。 もちろんです」


僕はタヌキを撫でつつモリヒトを見る。


ハアとため息を吐いて頷いてくれた。


「ありがとうございます!」


ガビーが床に頭を付けている。




「肉もあるが、食うか?」


さっきからずっとガビーの腹の虫が鳴いてて煩い。


魔獣の素材はほとんど売り渡したが、食い物は別だ。


肉は半分ほど残して、保存用に干したり燻製にしたりすることにしている。


モリヒトが肉の乗った皿とリンゴを差し出すとガビーは泣いて喜んだ。


「ありがとうございます、旦那様」


今度は僕が目を丸くした。


「旦那様は止めて。 僕はアタト、これは眷属精霊のモリヒトだ」


『サボったら容赦しませんよ、飯抜きにします』


「ご飯まで頂けるので?。 あ、ありがとうございます、何でもします。 絶対サボりません」


食べながら喋るな!、汚いなあ。




『ですが、一つだけ条件があります』


何故かモリヒトが僕を見て言った。


『特に用がない限り、ガビーさんをこの部屋に泊めてはいけません』


僕は首を傾げる。


『何故なら、ガビーさんは女性だからです』


「え?」


モリヒト、その割に踏み付けてたよな、さっき。


女性でもお構いなしか。


「わ、悪いかよ、こんな格好で。 これじゃないと工房で働けないんだから仕方ないだろ」


ガビーが俯いて呟く。


やけに胸板が厚いのは何かを巻いて誤魔化しているからのようだ。


「いや……驚いただけで、女性だから雇わないなんて言わないさ」


ガビーはホッとした顔になり、急いで肉を頬張った。



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