第百二十九話・魔石の概念と家具
ワルワさんの魔石の話はとても興味深い。
「先日、アタトくんが大量に競売に掛けた魔石は、かなりの高値で売れたじゃろ?」
「そういえば、小さなモノでも思ったより人気があって驚きました」
「そうじゃろ、そうじゃろ。 魔石が魔素を取り込めなくなるのは、魔力を使う機能が失われてから約1年くらいでな」
僕の倉庫に入っていた魔石は、すべて半年以内に狩った魔獣のモノだ。
「それまでに新しく魔力を使う機能に組み込んで、魔素を循環し魔力を生産する仕組みに戻してやれば、また使えるようになる」
僕の魔石に高値が付いたのは、生きていたからか。
「じゃが、魔素を取り込めなくなった古い魔石は残っている魔力が尽きれば、ただの石になってしまう」
死んでしまうということだ。
「アタトくんの魔石が大量に町に出回ったことで、魔道具の生産が進み、修理を必要としていた魔道具が生き返ったんじゃよ。
そして、それはこの町だけに限らない」
ワルワさんは町が賑やかになったことを教えてくれた。
「新しい魔石を求めて、たくさんの商人や狩人がこの町にやって来ておるんじゃ」
あー、司書さんも言ってたな。
この町で働く人が増えたお蔭で、勉強する子供たちが増えつつあるって。
「その上、将来、領主様のお嬢さんが貴族に取り立てられることが決まり、さらに希少なドワーフの製品も出回るようになった。
この町は良い事続きだ」
ワルワさんは嬉しそうに微笑んだ。
あれ?、そしたら、森にある魔力切れの魔道具は不要?。
「魔獣感知は必要じゃな。 新しい住民はまだ魔獣被害を知らん。
感知すれば狩人は魔獣の情報を手に森に入れるし、あの範囲なら町の安全のためにも魔獣避けはありがたいと思うぞ」
だが、現在は王子の護衛に通知する仕組みになっているので、そこは変更が必要になる。
「それはワシが請け負うぞ」
「では、新しい魔石を手に入れたら持って来ます」
町のために、安値で良いから買い取ってもらおう。
「ありがとう、アタトくん。 頼んだよ」
「はい」
たぶん、これから魔獣の森は狩人が多くなる。
僕は塔に戻って、草原と海岸で魔石を手に入れよう。
夜遅くになってヨシローが帰って来た。
「あー、アタトくぅん。 もう塔に帰っちったーと思ってたよお」
何故か、グダグダの酔っ払いである。
ワルワさんが水を渡そうとしたのを止めて、僕は薬草茶を淹れて飲ませた。
「これなら二日酔いにはなりませんから」
「それは助かる」
ワルワさんの代わりにモリヒトがヨシローを部屋まで運んで行く。
何やら喚いていたが、酔っ払いには近付かないのが一番である。
その夜はワルワ邸の客間に泊まらせてもらった。
翌日、朝食を終え、僕たちは町へ出掛ける。
この町の店は既製品の家具はあまり売っていない。
だいたいは注文して作ってもらうのだ。
魔道具店に寄って、老店主にお勧めの家具工房を訊ねる。
「では誰かに案内させましょう」
魔道具店の店員がついて来てくれて、一緒に見て回ることになった。
モリヒトも姿を見せ、フード付きローブの二人組と、大柄な魔道具店の店員という組み合わせだ。
「この町に無いものは私が王都に注文しておきますよ」
案内がてら売り込みも忘れない。 さすが優秀な店員である。
魔道具店には厨房や風呂場で使う給湯用やお手洗い用の魔道具を注文し、入荷次第連絡してもらうことにした。
「お届けしますよ」
と言われたが、
『ワルワ邸にご連絡くだされば、わたくしが引き取りに伺います』
と、モリヒトは断っていた。
魔獣感知があるとはいえ、森の中だからな。
代金は先払い。 値段が分からないものは手付金のみ先に支払う決まりになっている。
家具工房では、まずは応接用セット一組と食卓と客間用家具一式を頼んでおいた。
あまり町で頼んでしまうとガビーが拗ねる気がするので、残りは塔に戻って相談してからにしようと思う。
「ありがとうございます。 またご贔屓に」
家具工房の老夫婦に頭を下げられた。
「よろしくお願いします」
こちらも自然に頭が下がる。
とりあえず一通り家具の手配を終えた。
◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇
「ワルワさーん、おはようございます!」
「おはよう、ヨシロー。 昨夜は珍しく飲んだようじゃな」
「あー、そうなんですよ。 エンディ殿下に呼ばれまして、色々とー」
「ほお?。 殿下は王都にお戻りになられたと思っておったが」
「そうなんですけど。 何故か昨日、公爵令嬢がケイトリンさんを訪ねて来て。 それに気付いた王子一行が途中で引き返して来ちゃって」
「何だかややこしいことだの」
「んで、アタトくんが。 あれ?、アタトくんたちは?」
「町へ出掛けておるよ。 アタトくんがどうかしたのかね」
「それがー。 公爵令嬢が、辺境伯様からケイトリンさんに渡す縁談の資料を見て、怒って領都を飛び出して来たらしいんですよねー」
「まあ、ケイトリン様も辺境伯様にすれば社交の手段の一つであろうしの」
「ああ、やっぱ、この世界ってそうなんすね。 でも、あんまり良くない男性だったみたいで」
「ふむ。 それはまあ仕方ないじゃろうな。 ケイトリン様はこの領地を継ぐことになるからの」
「それって、辺境伯様が決めたら反対は出来ないんですか?」
「普通はそうじゃろうな。 ケイトリン様は叙爵も決まっておる。 余計な者が近付く前に婚約者を決めておきたいのではないかな」
「婚約者かあ」
「辺境伯様も話の分からん方ではない。 ケイトリン様がすでに心に決めた者でもいれば無理にとは言わぬよ」
「ケイトリンさんはどうやらガビーさんのことを男性だと思ってたようで、公爵令嬢にうっかり好きだったって言っちゃったらしいんです」
「それで公爵令嬢がガビーに会いに乗り込んで来たのかね」
「でもアタトくんが、ガビーは女性だから無理って言って。 あーもー、それで無茶苦茶になったんですよー」
「アッハッハ!。 しばらくはケイトリン様も大変じゃな。
しかし、どこかに辺境伯様も公爵令嬢も納得する相手はおらんものかねえ」
「まったくですー。 ふう」




