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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百二十六話・異世界人の将来設計


 若者の将来の希望を語る姿は、年寄りからすれば眩しく見える。


「案外まともなんですね。 『奇行王子』も」


「うるさい!。 そう呼ばれてるのを自分で言うのは良いが、他人から直接言われるのは腹が立つ」


「あははは」


僕たちの秘密の会談は途中不穏にはなったが、最後は笑い合って終わった。


 翌朝、僕はご領主たちと一緒に王子一行を見送る。


「じゃあな」


「どうか、お気を付けて」


彼らは辺境伯の領都に戻り、そこでクロレンシア嬢たちと合流した後、王都に帰る。


また二十日ほどの長い旅だ。 無事を祈る。




「ふあー。 エンディ王子も帰ったし、やっと平和になったなあ」


ヨシローは背伸びをする。


いつもの喫茶店の、いつもの中二階の席。


今日は珍しくケイトリン嬢の姿は見えない。


中位貴族になることが決まったこともあり、これまで以上に領地や社交の勉強に力を入れるようだ。


 なので今日のところは、僕とヨシローとティモシーさんの男三人である。


モリヒトは現在、森の中の別荘を建築中で傍を離れているが、分身がピッタリとくっついて来ていた。


「そういえば、どうでしたか?、ヨシロー。 この町から外に出るのは初めてだったでしょう?」


僕はコーヒーにたっぷりとミルクを入れてもらいながら話を振る。


「そーだねー」


様々な形をした焼き菓子が皿に乗って運ばれて来た。


「ケイトリン嬢と色々領都も見て回ったし、楽しかったかな」


ヨシローは紅茶を片手に焼き菓子に手を伸ばす。


「色々と大変でしたけどね」


最近はブラックでコーヒーを飲むようになったティモシーさんもホッとした顔で会話に混ざる。




 まあ、本当に色々あったよね。


でも無事に帰って来たわけだし、ちょっと聞いておきたいな。


「ところでヨシローさんはケイトリン嬢と恋人になれましたか?」


「えっ」


ヨシローの動きがピタリと止まる。


「ああ、そういえばヨシローは何かと不安がるケイトリン嬢を励ましていたね」


ティモシーさんも同じように感じていたらしい。


「え、は?、いやいや。 相手は十歳以上年下だし、妹みたいなもんだよ」


身内というか家族みたいに思っているそうだ。


「本当にそうなんですか?」


僕はニヤニヤとした顔でヨシローを見る。


若者を揶揄うのは年寄りの娯楽だ。


「ケイトリン嬢のドレス姿は美しかったし、すっかり大人の女性になったと思ったけどなあ」


「ほうほう。 女性にモテモテだったティモシーさんでもそう思いますか」


「やめてよ、二人とも!」


ヨシローの顔が赤い。




 僕は今回の領都への旅で、辺境伯が何をしたかったのかを考えていた。


 一つは間違いなくケイトリン嬢の勉強のため。


小さな町の中だけでなく、これから成人の貴族女性として社交にも出ていかなければならない。


その辺は辺境伯夫妻も考えてのことだったと思う。


そうなると、仕事や体調を理由に領主自体が今回、式典に参加しなかったのは、辺境伯も含めて打ち合わせ済みだったんだろうな。


辺境伯夫人はケイトリン嬢の様子をかなり不安そうに見ていた気がする。


 もう一つは伴侶問題だ。


「辺境伯領での式典や晩餐会でも色々な男性が彼女を見ていたと思います」


ケイトリン嬢のお披露目というか、お見合いの場だったのではないかと思っている。


今回立派に領主代理を務めたケイトリン嬢には、これから縁談が多数寄せられるだろう。




「ヨシローさんに率直に伺いたいのですが、ケイトリン様との結婚はありですか?」


異世界人の結婚に関しては特に規制は無い。


本人が望めば、たとえ王族だろうと嫁に出来る。


貴族の婚姻のように、家同士の繋がりや金銭的な問題で保護者が強制的に決めることもない。


そんなことをしたら国から罰せられるからだ。


「それとも他に好きな女性がいるのですか?」


ヨシローはこの世界に来て三年ほど経つ。


その間に一人や二人、気になる異性がいても不思議ではない。


「い、いや、いないけど。 そんなこと、考えたこともないよ」


健全な成人男性とは思えない言葉だ。


あれか、草食系とかいうタイプか。


それとも男性のほうが?。


「同性のほうが好きとか、そんなんじゃないから!」


ほお、では何故?。


「この世界に来てやれることを探しているうちに、あっという間に三年経ったんだ」


元の世界との違いに戸惑うことが多くて、慣れるのに必死だった。


そして慣れ始めると、良くしてくれる町の住民や領主様に恩返しがしたくなる。


今までの『異世界の記憶を持つ者』たちが残した恩恵を受けながら、ヨシローも次の人たちのために何か役に立ちたいと思い始めた。


「思ってるだけで、まだ何も出来てないけどねー」


ヨシローは頭を掻く。


「そんなことはないさ。 ヨシローはよくやってくれているよ」


ティモシーさんは微笑んだ。




『異世界の記憶を持つ者』は保護される立場である。


それはそれで助かるが、自分から何かしようとすると規制がかかってしまう。


何をしても『異世界の記憶』であり、その恩恵を受ける側には国や教会から厳しく監視される。


他の土地からの不公平だという訴えや、異世界人の知識を自分たちのために使おうとする者が後を絶たず、諍いに発展することもしばしば。


そういう歴史があるからこそ異世界人は守られているのに、どこか不自由を感じてしまう。




 ヨシローはここが王都から遠い辺境地だったことが幸いし、割と自由に動いていた。


それは監視役である教会から派遣されているティモシーさんが規制ギリギリのところをうまく躱しているからだ。


「異世界人の婚姻は国にとって、かなり重要な事案だ」


その時は教会でも動くことになる。


特性持ちの神官などが相手は元より、その周辺をかなり細かく調べるそうだ。


「おそらく、ヨシローはいつか必ず王都へ行くことになるよ」


ティモシーさんが呟いた。


「なんだー。 やっぱり慌てて王都へ行かなくて良かった!」


領都での王子の誘いには正直グラグラしていたらしい。


「でもアタトくんが行くって言ってたら、たぶん一緒に行くって言ってたよ」


ヨシロー、それ絶対王子の前で言うなよ。



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