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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百二十三話・町の外の隠し通路


 僕たちは魔獣感知の効果範囲ギリギリ外まで移動する。


『ワルワ邸に近いですね』


「一応、僕たちが近寄れるように考慮はしたんだろ」


その範囲の外縁に沿って移動し、ちょうど良い大きさの空き地を見つけた。


『本当にやるんですか?』


モリヒトは懐疑的な目を僕に向ける。


「もちろん」


僕は微笑む。


『承知いたしました』


モリヒトは空き地に穴を掘り、そこを入り口にして、ワルワ邸へと地下道を構築。


『アタト様。 ワルワ邸の外、スライム小屋の裏に繋げました』


「ありがとう」


僕は頷いた。




 そして、今度は僕の土魔法で、地下道の入り口をきちんと整備して、それを隠すために掘り出した土から石小屋を生成。


小屋の扉を開ければ地下道の入り口が見えるという形だ。


さらに完全に気配を消した防御結界を空き地全体に施し、小屋の周囲には魔石を埋め込んで結界維持の動力源とした。


ヨシ、完璧。


「行くぞ」


『はい』


僕たちは入り口から地下道に入り、壁や天井を崩れないように強化しながらワルワ邸へと向かった。




 ちょうど朝食の時間に到着。


地下から上がり、スライム小屋の後ろに出る。


ここならワルワ邸から見えない。


土から岩を生成して蓋をしておく。


 そこから玄関に回った。


「おはようございます」


「おや、おはよう、アタトくん」


ワルワさんと挨拶を交わす。


「えっ、わ!。 アタトくんだ、おはよー」


ヨシローには会釈だけを返した。


 僕は空いている椅子を引き寄せて座り、モリヒトがコーヒーを淹れてくれる。


「今日は二人だけ?。 ガビーちゃんとタヌ子は?」


ヨシローは朝食を取りながら訊いてきた。


「三日前には一緒に来ましたので、今日は来てません」


僕は苦めのコーヒーを飲みながら答えた。




 一息吐いているとヨシローがソワソワし始めた。


「あ、あのさ、アタトくん。 ここに来る前に誰かに会わなかった?」


ヨシローの問いかけに僕は薄く微笑む。


「いいえ」


あの魔道具は感知すると騎士たちに知らせるものだろう。


それに引っ掛かっていれば、当然、今頃は王子一行の誰かに会っていたはずだ。


「あの魔道具は魔獣を感知するようですけど、魔獣避けでもあるみたいですね」


「やっぱり知ってたかー。 さすがアタトくん」


褒められても嬉しくない。




「そもそも」


僕はヨシローをじっと見る。


「何故、森に魔獣感知の魔道具が設置されたのでしょうか?」


今まで辺境地にそんなものは無かった。


「王子様が来たから、ですか?」


ワルワさんとヨシローが顔を見合わせる。


「まあ、そういうところじゃ」


ワルワさんが低い声で話す。


 王子が何度も危険な魔獣の森に近いワルワ邸に足を運ぶため、心配した側近の護衛たちが魔道具を設置したようだ。


さすが『奇行王子』の近衞騎士。


辺境地での護衛も考えてるな。


「むしろ町としては有り難いことだしの」


ここ五、六年は大きな被害は無いとはいえ、魔獣被害が全く無いわけではない。


「今さら、という気もしなくはないが」


と、ワルワさんは苦笑する。


きっと昔から辺境伯に陳情はしていたんだろう。


「まあそうでしょうね」


僕も概ね同意。




 さて、あまりゆっくりも出来ない。


「いつもいつも、ワルワさんにはご迷惑をお掛けしてすみません。 実はこの町に別荘を作ろうかと思ってます」


僕がこの町に来た時に寝泊まりする、そのためだけの家。


「そうか、少し寂しい気もするがな。 ワシはちっとも迷惑だなんて思ったことはないぞ」


ワルワさんはそう言ってくれる。


「ありがとうございます。 しかし、こちらの人数も増えましたし、僕目当ての客でワルワさんに迷惑が掛かるのは僕が嫌なので」


正直に気持ちを伝えると、ワルワさんも分かってくれた。


「ええー、じゃ、俺もそっちに行こうか?」


何でやねん。


「人族の方は無理だと思いますよ」


建物は森の、あの小屋を置いた空き地を予定している。


魔獣が棲む森の中だ。


「自分で自分の身を守れない者が一人で出入り出来る場所ではありませんので」


ヨシローについてはキッパリお断りする。


「むう」と考え込んでいた。


それは放っておき、僕は領主館に向かう。


王子一行と話を着けるためだ。


二度とワルワさんを僕のせいで脅したりしないように。


「ご領主に別荘の許可も頂かないといけませんから、行って来ます」


「はい、行っておいで」


笑って送り出してくれるワルワさんが、僕の大切な恩人であるエルフの長老と重なる。


元気かな。 ふと、そう思った。




 町までの道を歩きながら、ぼんやりと町全体を眺める。


以前より少し活気があるような気がした。


 そして、ふと森を振り返る。


この町は魔獣と戦いながら成長してきた町だと聞いた。


「人間からみれば、僕は魔獣というか、魔物の一種かも知れないな」


何百年も昔は多種族が共存していた世界。


増え過ぎた人族によって変わっていく町や森。


「弱いから淘汰されていく、か」


それが運命なのかも知れない。




 領主館に着くと、周りには警備の兵士がチラホラ見える。


その中には教会の警備隊もいた。


「おはようございます」


モリヒトは姿を消し、僕はいつものフード付きローブ姿で入り口の兵士に声を掛ける。


「お、エルフ様。 おはようございます」


見知った顔だから、この町の警備兵なんだろう。


「朝から大変ですねー」


「はい。 エルフ様も朝からご苦労様ですな」


あははは、と和やかに挨拶を交わし、中へと案内される。


途中で出会った王子の近衛騎士は、不思議そうな顔で見ていた。


「領都でのエルフ様とは感じが違う」と思われてそうだな。




 応接用の部屋で待っていると、


「アタト様、ようこそいらっしゃいました!」


と、ご領主がニコニコしながら入って来た。


すぐに王子の側近が追って来る。


「アタト様、殿下が早急にお会いしたいと仰っておられます。 こちらにお連れしてよろしいでしょうか?」


ん?。 何だか丁重過ぎて怖いんだが。


チラリとご領主を見ると、しっかりと頷き微笑んだ。


「では、私はこれで」


と、メイドたちがお茶を運び終わると同時に出て行ってしまう。


僕が首を傾げていると、王子が入って来た。



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