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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百二十二話・普通の生活が変わる


 塔に戻った僕たちの生活は、以前とあまり変わらない。


早朝から干し魚の取り入れ、燻製器を確認、朝食後に天気を見て釣りか、薬草の採集。


移動中は魔法の練習で、その合間にタヌ子と遊ぶ。


帰ったら魚を干すか、薬草の処理をする。


夕食前にウゴウゴに魔力を与え、食後は就寝まで毛筆の練習や読書。


それを繰り返すのが僕の日常である。


 ガビーは、僕の新しい工房のために試行錯誤中。


しばらくの間、銅板栞のため鍛治室に籠るそうだ。


認めさせたいのは、スーの父親である鍛冶組合のお偉いさん。


いつかドワーフの女性たちのための工房を立ち上げたいと願っている。




 塔に戻って三日目の夕方。


「お嬢、精が出ますな」


ロタ氏がガビーの様子を見がてら、スーの日用品を届けに来た。


「あのー、ロタさん」


「ん?、どうした、お嬢」


スー宛の荷物を持ち込んだロタ氏に、ガビーが部屋の相談をする。


どうやら、段々とスーの荷物に侵食されて、部屋が狭くなってきているらしい。


「あたいも狭いとは思ってたわ」


ドワーフ族でも裕福な家系らしいスーには、元からガビーの部屋は狭かったのだ。


 しかし、部屋の準備には時間がかかる。


部屋を拡張して改装するか、別の空き部屋を使うか。


まずそれを親方に相談して両方の見積もりを作る必要があった。


まあ、スーはうちの使用人ではないし、費用も自分持ちでやるなら勝手にやればいいさ。


「スーリナー、しばらくは我慢しとくれ」


ロタ氏にそう言われると、


「し、仕方ないわね」


スーは少し拗ねたように唇を尖らせた。




 その日の夕食はいつものように僕、ガビーとスーにロタ氏を加えた四人で取っていた。


足元にはタヌ子、部屋の隅にはウゴウゴが透明な結界で作った箱の中でじっとしている。


 給仕をしていたモリヒトが突然、焦ったように僕に声を掛ける。


『アタト様、少しよろしいでしょうか?』


ワルワ邸にいる分身から何か情報が入ったようだ。


「どうした?」


モリヒトは僕の傍に来ると声を潜める。


『ケイトリン様一行が町に到着されたのですが、どうやら、第三王子も同行されているようです』


「はあ?」


思わず、僕の声がうわずった。


ガビーたちはビックリして僕たちを見ている。




 到着が遅れたのは思わぬ同行者がいたせいか。


『王子がアタト様に御用があるとかで。 ワルワさんに連絡するようにと詰め寄っています』


僕は顔を顰める。


ワルワさんにはあまり迷惑を掛けたくない。


「何の用だ?」


王都行きは諦めてくれたんじゃないのか。


『それに、ヨシロー様が草原に行けばアタト様に会えると助言しているようで』


チッと舌打ちしてしまう。


まあ、ワルワ邸のモリヒトの分身には、こちらの声が漏れたりはしないが。


「ティモシーさんは何て言ってる?」


モリヒトは目を閉じて、しばらく分身の様子を見てから口を開く。


『ワルワ邸にはいないようです。 王子の護衛の近衞騎士が三人ほどいますから』


町に到着した時点で護衛任務から外されているようだ。


「こっちに来そうか?」


モリヒトは頷く。


『すぐに、とはいかないと思いますが、近日中には押し掛けて来るのではないかと』


僕は大きくため息を吐いた。




 スーが苛ついた声で訊ねる。


「何かあったの?」


育ちの良い彼女は食事中は滅多に喋らない。


「この国の王族に知り合いがいてね。 それが押し掛けて来るかもって話さ」


ザックリと説明した。


「何か都合が悪いことでもあるの?」


スーは顔を顰めたまま僕を見る。


「この場所を知られるのは拙いと思う。 勝手に入って来るからな」


一人や二人ではない。


案内人に側近や護衛付きで、七、八人ほどだろう。


そんな奴らを接待する気はない。


「ど、どうするんですか?」


ガビーがオロオロし出す。


落ち着け、まだそうと決まったわけじゃない。




 仕方ない。 向こうが動き出す前に先手を打つ。


「ガビー、すまないが二、三日ウゴウゴとタヌ子の世話と留守番を頼む。


ロタさん。 戻るまで警備をお願い出来ますか?」


「はい」「うむ、承知した」


モリヒトが防御結界を張るだろうが、女性二人を残すのは不安だったのでロタ氏にも頼んでおく。


スーは好きにしたら良い。


「向こうへ出向くの?。 それこそ相手の思う壺じゃない」


食事を終えたスーが口を挟む。


「分かってるさ、そんなこと」


でも相手にとって用があるのは僕だけだ。


それなら他の者に迷惑は掛けられない。


「危ない話ではないだろうし」


たぶん、ね。


 僕とモリヒトはすぐに準備に掛かり、その夜のうちに塔を出た。


ワルワ邸には明日の午前中には着くだろう。




 草原を抜け、人里の魔獣の森に近くなった頃。


モリヒトは珍しく一旦、休憩を申し出た。


荷物が無い場合は、僕たち二人なら休憩なしで駆け抜けることが出来るのに。


「魔道具か?」


『そのようです』


魔獣感知の魔道具だ。


この魔道具はどこかに知らせるだけでなく、魔獣避けにもなる。


強力な魔獣避けの匂いがした。


「森に魔素が戻ってるし、魔獣被害も増えているのかな」


『それはあるかも知れませんが。 この匂いは今まで使われたことの無い物のようです。


おそらく、王子一行が設置したのではないかと』


モリヒトによると、辺境の町では扱っていない魔道具らしい。


「王子に公爵令嬢もいるなら、それくらいの警戒はするか」


僕はニヤリと口元を歪める。




 まだ早朝、陽は昇ったばかり。


起きているのは夜番の警備兵だけ。


「王子たちは領主館かな」


モリヒトは黙って頷く。


 さて、どうする?。


魔獣感知の魔道具など無視出来る。


向こうだって、それは分かっているはずだ。


それでも無駄な努力をしているのは何か理由があるのかな。


「やっぱり本人に訊くしかないか」


『そうですね』


モリヒトが無表情で答える。


「そう何度もワルワさんに迷惑を掛けるわけにはいかんしなあ」


と、僕は呟く。


「モリヒト、相談があるんだが」


『はい。 何でしょう』


綺麗な顔のエルフは、嫌な予感に片眉を上げた。


ククッ、そんな顔するなよ。



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>『ケイトリン様一行が町に到着されたのですが、どうやら、第三王子とクロレンシア嬢も同行されているようです』 124話を読むに、この時点ではクロレンシアは来ていないんじゃないでしたっけ
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