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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第十二話・人間の友達ができた


 僕は騎士ティモシーさんと馬車に乗り、ワルワさんとタヌキが待つ家に向かう。


「あの、えっと」


先程のことをどう訊ねれば良いか分からない。


「ふふふ、ケイトリン嬢は領主様のご息女だが、少々そそっかしい方でね」  


あの店は経営者である彼女に頼まれてヨシローが全面的に協力しているそうだ。


「郊外の茶畑の側に工場と試飲用の店を併せたものがあるのだが、特産品として爆発的に売れたんです。


それで、今回は喫茶部門だけを領主館の近くに開店させることになりまして」


「そうでしたか」


僕がウンウン頷いていると騎士さんがニヤニヤとこっちを見ている。


何だか落ち着かない。


「僕に何か?」


言いたいことがあるならどうぞ、と振ってみる。




「いえね。 森を越えて草原のまた向こうにエルフが住む領域があることは知っていたが、実物を拝見するのは初めてだ」


僕はため息を一つ吐いてフードを脱ぐ。


「知っていたんですね、僕がエルフだと」


「魔力が普通ではなかったから、妖精か魔物か分からなくて警戒していたよ」


そう言って騎士さんは改めて僕を観察する。


「気に障ったのならすまない。 ヨシローに怒られてしまうな」


騎士さんはいたずらっぽく笑う。


「でもあなたはヨシローさんの護衛なんでしょう。 警戒するのは当たり前です」


仕方ないと思うよ。


騎士さんはずっと楽しそうにクスクスと笑っている。


「アタトくんだったね。 良かったら私とも友人になってもらえないか?」


いやいや、僕はまだヨシローとも友人になった覚えはない。




「ああ。 私はヨシローとは仕事の関係で付き合っているが友人でもある。


それと同じように、観察させてもらいながら友人としても付き合っていけたら、人族を知らないキミにとっても都合が良いだろうと思ってね」


利害関係の一致というやつか。


ヨシローと付き合うのなら、この人は護衛として関わってくるだろう。


逆らっても良いことはない。


まあ、僕としてもワルワさんやヨシローに売買の仲介を頼むつもりで近付いたんだし、お互い様か。


「ぜひ、と申し上げたいところですが、僕にも護衛がいます。 彼の許可がなければ友人にはなれないと思います」


一旦、保留にする。


「承知した」


騎士さんは笑いながら頷いた。




 ワルワさんの家が近付いたのだろう。


モリヒトの気配がする。


馬車が停まるとモリヒトが家の前で待っていて、僕を下ろしてくれた。


「ごめんね?」


僕は勝手に動いたことを素直に謝る。


モリヒトの笑顔が恐い。


「はい。 事情はワルワ様から聞きました。 ですが、ヨシロー様には後で苦情を入れるつもりです」


うん、仕方ないね。 ヨシローが悪い。


「おや、そちらがアタトくんの護衛かい?。 こりゃまた魔力が半端ない……」


騎士さんはモリヒトを一目見て異常だと気付いていた。


「こちらも伺っておりますよ。 教会警備隊の騎士様」


へえ、ティモシーさんて教会関係者なんだ。


何だかバチバチと火花が飛んでそうなので近寄りたくない。


僕はそっと離れ、家の中へ避難した。




「ただいま戻りました、ワルワさん、タヌキー」


「お帰り。 早かったな」


タヌキが飛びついて来たので抱き締める。


ぎゅううう、はあ、癒し。


 ワルワさんがお茶を淹れている。


「まあ今回は色々と初めてが多くて大変じゃったろう。 ヨシローも悪気はないんじゃ、許してやってくれ」


僕は頷き、タヌキを抱いたままテーブルに付く。


家の中に入って来た騎士さんが、


「緊張させてすまなかったね、アタトくん」


と言う。


僕は首を傾げた。


どうやらモリヒトとは和解したようで、さっきより雰囲気は柔らかくなっている。


友達ってことでいいのかな?。




 その後、ワルワさんが引き取ってくれた魔獣の素材の話とか、お金の話をした。


物価自体は前の世界とそんなに変わらない。


ただ紙幣は存在せず、硬貨のみだった。


僕たちは買い物する店だけを教えてもらい、その日は帰ることにする。


何だかもう疲れたよ。


ヨシローはまだ帰って来ないけど感謝を伝えてもらい、僕たちは騎士さんとワルワさんに見送られて外に出る。


キューキュー


別れを察したのか、タヌキが鳴き出した。


僕はワルワさんに抱かれたタヌキにそっと触れながら「また来るから」と慰める。


悲しげなまん丸な目に僕も泣きそうになる。




「ふむ。 モリヒトさん、良かったらタヌキを預かってもらえんか」


「え?」


僕もモリヒトも驚く。


「この子の親が森にいるのかも知れん。 ここは魔獣の森に近過ぎるし、また出歩いて襲われたら困る」


しかも人里に近い。


魔獣の子が危険を呼び寄せてしまうことも考えられた。


ワルワさんはそれを心配している。


「そうですね。 魔獣がこんなに懐くのは珍しいですし、アタトくんなら問題ないでしょう。


強そうな護衛もいらっしゃるし、安心です」


騎士さんの言葉に僕は戸惑い、モリヒトを見上げた。


モリヒトは少し考えてから頷く。


『ワルワ様の研究に差し支えがないようならお預かりしましょう』


モリヒトがそう言うと、ワルワさんは「大丈夫だ」と答える。


まさか、モリヒトが承諾するとは思わなかった。


「いいの?。 僕がちゃんと面倒見られるかどうか分からないのに」


『お預かりするだけです。 アタト様の手に負えない場合はお返しします』


ワルワさんもそれで良いと頷いてくれた。


「ありがとう」


僕は小さな声で礼を言った。


そうしてタヌキは僕の腕に預けられたのである。




 長い一日だった。


色んなことがあり過ぎて頭がパンクしそう。


モリヒトと森を抜け、夜遅くに海岸沿いの草原に戻って来た。


塔に入るとようやく一息つく。


「お腹空いた」


エルフは食が細いけど腹が減らないわけじゃない。


まだ子供の身体には栄養が必要だから尚更だ。


 地下への階段を下りようとして、僕は違和感に襲われる。


「モリヒト」


「はい」


僕はタヌキを抱いたまま留まり、モリヒトは足音もさせずに先に下りて行く。


ガシャン!、と音がする。


人の声が聞こえた気がして、僕はそっと階段を下り、部屋の中を覗き込んだ。


モリヒトの足元に誰かが倒れているのが見えた。



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― 新着の感想 ―
「モリヒトの足元に誰かが倒れているのが見えた」 家を出るとき鍵をしていなかったということかな、それとも鍵をしていたけど、その鍵を壊して見知らぬ人が侵入したのか?まあ、次の章を読めばわからんだろうな。
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