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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百十七話・昔の国はどこへ


 僕はふと気になっていたことを訊ねる。


「辺境伯閣下は、この領地はお好きですか?」


突然の話に辺境伯夫妻も王子も不思議そうに僕を見る。


「きっと先祖代々、受け継がれた土地なのでしょうね」


「あ、いや。 この領地を賜ったのは祖父の代だから、まだ百年くらいではないかな」


おや、案外歴史は浅いな。


悲劇の騎士様は遠い過去の話かと思ったら、そうでもないようだ。


辺境伯という地位を賜ってまだ三代目か。




 それにしては建物が古い。


この街には家妖精がいたくらいだから、歴史のある街だと思っていたのだが。


「ああそれは、この領地には先に住んでいた民族がいたからではないかな」


そう言った王子の言葉を、辺境伯が補足する。


「小さな国があったようです。 魔法を使う民族だったようなのですが、百年以上も前の話で、今では記録も残っておりません」


は?。


たかだか百年で記録にもないって、おかしくないか?。


「この領都も昔は小さな町で、周辺は全て未開の森や荒地だったそうですよ」


周辺の土地を何人かの貴族で分割して統治することになったという。


既に亡くなっている辺境伯の先々代がその中の一人だった。




 要するに、周りと交流のない小さな国があった。


それが失くなり土地を分割したが、隣国との国境にある森は誰も欲しがらない。


仕方なく中心部を領都にし、飛び地になるが森を含めた土地を領地に加えて辺境領とする。


それを目障りな元騎士に統治させた、ということか。




「その国はどうして失くなったのですか?」


何だか胸の奥がモヤモヤする。


「それが分からんのだ」


王子は顔を顰める。


「ある日、突然、町の住民が一斉にいなくなってしまった。 いや、消えたというべきかな」


そんなミステリーぽいことがあったとは。


家妖精なら知っているのかな?。


町に帰ったら教会の司書さんに聞いてみよう。


何故か、気になって仕方がない。


「すみません、僕たちは一足先に帰りますね」


気になることが多過ぎて、落ち着かない。


王子は大袈裟にため息を吐いた。


「どうせ、誰も止められないだろ」


王都行きは諦めてくれたようだ。




 僕は寂し気な表情をする辺境伯夫人に気付いた。


初めて会った時とは違う、愛しそうな目を向けられている。


ああ、本来この人は子供が好きなんだろうな。


その子供に恵まれず、貴族社会の中で辛い思いをして来た人だ。


僕の中身はアレだが、外見はまだ七歳の少年。


もしかしたら僕がエルフの村を追い出された子供だと、誰かに聞いたのかも知れない。


「あの、奥様」


つい声を掛けてしまった。


「あ、はいっ」


向こうも驚き、戸惑っている。




 僕はモリヒトに預けていた小箱を出してもらう。


「もしよろしかったら、これを預かって頂けませんか」


「これは?」


皆が注目して見ている。


詳しいことは話せないが、


「家妖精が入っています」


とだけ伝えた。




「家妖精ですって?」


部屋中がザワザワとし始める。


エルフや精霊だけじゃなく、近年では妖精も滅多に姿を表さない。


「信じる信じないはお任せします」


人族では魔力が相当高くないと視ることは出来ない。


しかも、今は魔力が尽きかけていたので眠っている状態だ。


「ただ、家妖精が主人と認めた者、この館を自分の住処と決めた時は、あなた方の前に姿を現すでしょう」


その眠りから目覚めるのは、いつになるか分からないが。


「その時は、家妖精はあなたの手伝いをしたがっていますので、何か仕事を与えてやってください」


僕は小箱を家令に渡し、辺境伯夫妻へと持ち主が変わる。


「ありがとうございます」


半信半疑の顔の夫に比べ、夫人の方は嬉しそうに小箱を受け取った。


「必ずや、家宝として大切にいたします」


いやいや、大切にし過ぎて宝物庫などに閉じ込めてしまったら困る。


「出来れば、家人の気配が感じられる場所に置いてください」


と、頼んでおいた。




 僕たちは部屋に戻る。


「あんなに幸せそうな奥様を見たのは初めてです」


部屋を立ち去る前に、辺境伯家の若い執事は深々と僕たちに感謝の礼を取った。


「本当にありがとうございました」


僕はモリヒトと顔を見合わせ、ただ頷いて彼を見送った。


 夜も更けて、モリヒトと二人っ切りになる。


『さて、どうなさいますか?』


「決まってる、予定通りだ」


『畏まりました』


僕は準備のために着替える。




「おはよう」


「おはようございます!」


翌朝、僕たちは塔に居た。


ガビーの元気な声で目覚める。


お前、ドワーフの地下街に行ってたんじゃないのか。


「えへへ、ちゃんと親方の許可はもらってあります」


銅板栞の製作には、慣れた鍛治室のほうが使い易いと、作業はこちらで行っていたらしい。


「悪いな。 ちゃんとおれが付いているから大丈夫だ」


お、ロタ氏おったか。


じゃいいや。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「はあ?。 クロレンシア、それは本当か。 アタトもモリヒトもいなくなっただと?」


「はい、殿下。 今朝、部屋に入った者によりますと、すでに部屋には誰もおらず。


きちんと整理されておりましたので、昨夜のうちに出立したのではないかと思われます、とのことです」


「誰が最後に二人を見たんだ?」


「部屋付きの執事ですが、何か」


「出立時間を聞いていなかったのか?」


「はい。 まさか居なくなるとは思ってもいなかったようです」


「それで、領地一行の他の者はまだ領都内にいるんだな?」


「もちろんです。 ケイトリン嬢はお部屋の方に、サナリ・ヨシロー様は騎士ティモシー殿と教会にいるのを確認いたしました」


「はあーっ、まったくあいつらは!。 まだ話したいことがあったのに、このままでは王都には戻れん」


「えっ、まさか、殿下まで領地に向かわれるなんてことは」


「ああ、行ってやる!。 クロレンシアはここまでで良いぞ。 我はティモシーたちと同行するからな」


「えー、嫌ですぅ。 エンディが行くなら私も行きますわ!」


「レンシア!、これは遊びではないんだぞ」


「嘘ですわ。 絶対遊びに行くんですわ、エンディのケチ」


「うるさあああい」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



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