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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百十六話・家妖精の箱を開ける


 結局、僕がその店で買ったのは家妖精の箱だけである。


「元の家主が貴族でしたので」


と、訳分からん理由を付けて、見窄らしい小箱に大金を払わされた。


仕方ない。


家妖精の頼みだからな。


「ありがとうございます。 またのお越しをお待ちしております」


二度と嫌だね。


 後は有名だという菓子店に寄って、焼き菓子等を適当に買ってから辺境伯邸に戻った。


もっと目新しいものがあるかと思ったが、地理的にもそんなに離れていないせいか、目に付く物は無い。


しかし、家妖精に会えたのは幸運だった。




 部屋に戻り、担当執事を解放して休んでもらう。


僕たちは夕食までまったりする予定だ。


機嫌が悪いモリヒトに風呂に入れられて、着替えさせられた。

 

ティモシーさんはまだ僕について来ていた。


教会に戻らなくていいのかね。


「私はこちらの教会では客扱いなので、割と自由だよ」


と、モリヒトが淹れたコーヒーをのんびりと飲んでいる。


教会の仕事はしなくて良いらしい。




「その箱、どうするんだい?」


ティモシーさんがテーブルに置いた小箱を物珍し気に眺めていた。


「そうですねー」


モリヒトが淹れてくれたコーヒーをブラックで飲む。


香りと苦味が相まって美味い。


「モリヒトはどうしたら良いと思う?」


チラリとティモシーさんを見たモリヒトは、室内にだけ防音結界を張った。


それだけ内密な話だということか。


『アタト様は箱を開けたいですか?』


僕は頷く。


「開けたいというより、これが何かを知りたい」


家妖精がわざわざ出て来て、僕に持ち帰れと言った。


何か理由があるはずだ。


『分かりました』


テーブルの上の小箱にモリヒトが魔力を注ぎ出した。


結構時間は掛かったが、何とか終わる。


モリヒトが頷いたので、僕は箱を手に取り蓋を開く。


中に入っていたのは煤けた石だった。




 この石に魔力を感じる。


「魔石か」


『家妖精の魔石ですね』


「は?」


僕もティモシーさんも驚く。


「妖精の石?」


ティモシーさんには、あの店で家妖精と出会い、この箱を入手したことを話した。


僕たちは箱をテーブルに戻して、マジマジと中の石を覗き込む。


『おそらくですが家妖精が変化へんげしている石です』


モリヒトによると、家妖精は自力で家を移れない。


しかし、古い家が壊されれば、そこで全ての家妖精も終わるかというと、そうではない。


引越しの時に誰かに運んでもらうために、魔力を使って身近な物に変化するそうだ。


『大抵は持ち出せる家具や装飾品に変化し、新しい家に家人と共に移動します』


しかし、あの老人の姿をした家妖精は、煤けた石にしか変化出来なかったのではないか、と言う。


『小箱はたまたま、そこにあったのでしょう』


石のままでは外に捨てられ、運が悪ければ砕けてしまう。


そうならないために箱に閉じこもっていたのだろう。


そういえば、魔力が尽きかけていたんだった。


僕に声を掛けたのは最後の力を振り絞ったのかも知れない。




 さて、これをどうするか。


「家妖精は新しい家をどうやって選ぶ?」


僕はモリヒトを見上げた。


『それは直接、訊ねるしかないかと』


しかし、まだ石のままである。


少なくなってしまった魔力を守るように縮こまっているのだ。


「アタトくんは、これを持ち帰る気なのかい?」


「そうですね。 ワルワさんの土産に良いかなとは思ったのですが」


あの魔獣の森の小さな要塞のようなワルワ邸を思い浮かべ、家妖精が住んでいた貴族の館と比べる。


間違いなくガッカリされるだろうな。




「家妖精は家人との相性も大事だよなあ」


あそこまで魔力が減ったということは、家の住人から恩恵を受けられなかったということである。


『人の気配や小さな感謝が家妖精の力の元になりますから』


魔力の元になる魔素は体を保つために必要だが、活動するための魔力は住人がいなければ使えない。


「魔素があっても、魔力を使う機会がなければ体を保つ必要もないからな」


必要とされず、忘れ去られるということは、そういうことだ。


「こき使ってくれる住人がいる家か」


しかも、ある程度の大きな貴族の館でなければ、あの家妖精はやる気にならない気がする。


気難しそうな老人の顔をしていた。


『本来なら家妖精は子供の姿をしているものですがねぇ』


子供の姿なら、発見されても逃げ切れるからだ。


そりゃあ、家に知らない大人がいたら大騒動になるわな。




「お食事の準備が出来ましたので、食堂へご案内いたします」


執事が呼びに来たので、家妖精の件は一旦、保留にした。


「ティモシー様もご一緒にどうぞ」


「ありがとうございます」


どうやら僕が明日にでも館を出ることは理解してくれたようだ。


では、最後の会食に行こうか。




 食堂には辺境伯夫妻と王子しかいなかった。


「クロレンシアたちは買い物に夢中になって、今晩は外で済ませるそうだ」


王子の話では、ケイトリン嬢とヨシローも一緒らしい。


女性二人相手でもヨシローなら大丈夫か。


僕は御免だ。


 夕食は何故か晩餐会より豪華だった。


何でだ?。 美味いから良いけど。


しかも、モリヒトは僕の後ろで完全に眷属に徹している。


昼間、散々酒屋で試飲をやったせいか、酒も飲まずに立っていた。




 食後のお茶になると、ようやく辺境伯が口を開く。


「アタト様、この度は本当にお世話になりました」


僕は黙って頷く。


「クロレンシア嬢を養女にという件も、私共には思っても見なかったことでしたが、検討することにいたしました」


すぐに答えが出る話ではないし、ゆっくり考えればいいさ。


というか、僕のいい加減な助言を採用して良いのか?。


「私は子供がいないことで、今まで心無い噂を聞いては傷付いたと嘆いてばかりで、自分からは何もせず、ただ領地に引きこもっておりました。


しかし、アタト様にお会いして、もっと他にも目を向けるべきだったと反省しております」


思いがけず、本家のお嬢様であるクロレンシア嬢が気に掛けてくれていたことに気付き、慰められたと言う。


今までは子供たちを見るだけでも辛かったそうだ。


もう、大丈夫だろう。


辺境伯夫人の顔が明るい。



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