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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百九話・誰かのための事件


 微笑ましく令嬢の戯言を聞いていたら、誰かが会場の外で騒いでいる。


「旦那様、お嬢様が!」


会場内に居た一組の男女がその男性に近付いて行った。


やがて、辺境伯の家令が「今夜はこの辺で会場を閉めます」と宣言した。


普通ならまだまだこれから祭りの余波を楽しむ時間である。


「何かあったか」


ポツリと王子が零し、側近の一人が頷き、廊下へ出て行った。


「我々も部屋へ戻ろう。 ヨシロー殿はまだ飲み足りないのではないか?。 良かったら我の部屋で飲み直そう」


王子は、ヨシローさえウンと言えばティモシーさんも付いて来ることを知っている。


僕たちはそれに付き合う義理は無い。


「お先に」とケイトリン嬢に告げて会場を出る。




 そこには辺境伯の家令が待っていた。


「アタト様、モリヒト様、少しお時間をいただけませんでしょうか」


僕とモリヒトは顔を見合わせる。


「他の者には知らせませんので」


そう言われてようやく頷き、家令の後ろについて行った。


 案内されたのは客室の一つのようだ。


辺境伯夫妻に、知らない若い夫婦が三組と幼い子供が二人。


うん?、昨日見た時は子供は三人居たような。


後から護衛らしき男性たちがバタバタと入って来た。


「駄目です。 見つかりません」


その男性の言葉に一組の夫婦が肩を落とす。


「やはり、来るべきではなかった」


「わああーっ」


夫は顔を歪め、妻は泣き崩れる。




 事情はだいたい把握した。


「つまり、三歳くらいの女の子が行方知れずだということですね」


「はい。 このご夫妻に同行されていた侍女が三人のお子様の世話をしておられたのだが」


「すみません!、目を離した僅かの隙に」


若い侍女が事情を説明している。


「エルフ殿、申し訳ないが協力をお願い出来ないだろうか」


え、何で僕たちに?。


モリヒトを見上げる。


僕を見返して黙っているのは、全て任せるということだ。


「我々は異種族のため、人族の事情には疎いです。


そのため、少しお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」


協力するかどうかは、その後で決める。


辺境伯が頷いた。




「普通、子供が居なくなってしまった場合、まずどうやって探すのでしょうか。


そして今現在、その手順はどこまで進んでいますか?」


「は、はい。 では私がご説明いたします」


この館の警備兵士が前に出て礼を取った。


「侍女の方から子供がいなくなったと知らせを受け、すぐに部屋と館内部、館周囲を探索いたしましたが見つかりませんでした」


僕は首を傾げる。


「魔法や魔道具は使われないのですか?」


「そ、その、もう寝る準備をしておりましたので、迷子用の魔道具は外しておりました」


そうなるともう見つからないと俯いたままの侍女が言う。


僕は兵士を見る。


「魔道具が使えないとなると、どんな探し方をされましたか?」


「え?、それは普通に名前を呼んだり、ありとあらゆる場所を覗き込んだり」


あれ?。


「晩餐会の会場には来ていなかったと思いますが?」


子供を探していたなら、すぐに会場で騒ぎになっただろう。




「それは」


辺境伯が言葉に詰まる。


王族が出席している晩餐会だ。 失敗は出来ない。


だから大っぴらに探すことをしなかった。


「ああっ、だからわたくしは辺境地になど来たくなかったのよ!」


「だから?」


僕は泣き止まない妻に近寄る。


「この館に来るのに不安があったのですか?」


夫の方が僕から遠ざけるように妻の肩を抱き寄せる。


「私たち夫婦の子供を辺境伯の養女にという話があったのだ」


「へえ」


僕は部屋の中を見回し、残りの二人の子供を見た。


「あの子たちもですか?」


男の子二人はポカンとしている。


「い、いや、話があったのはうちの子だけだ」


辺境伯は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「どうだろうか、協力してもらえるかね」


僕はモリヒトの隣に戻った。


「協力は無理ですね」


この人たちは嘘を吐いているから。




 益々、若い夫婦は声を上げて泣き叫ぶ。


「酷いわ!、子供がどうなるか分からないのに見捨てる気なのね!」


誰もそんなことは言ってないけどな。


それに、そんな大声出すから人が寄って来ちゃった。


「何があったか、聞かせてもらったよ」


ほら、話をややこしくさせる王子の登場だ。


クロレンシア嬢と側近の護衛付きである。


「殿下!。 私共の幼い娘が行方知らずになったというのに、このエルフは協力出来ないと言うのです」


今度は夫の方がモリヒトを指差して怒鳴る。


「アタト、どうしてだ?」


王子の言葉に僕はため息を吐く。




「エルフなんかに頼るほうが間違ってますよ。 これはあなた方人族の問題だ」


行方不明の原因が人間以外なら力を貸すのもやぶさかではなかったんだがな。


「ここはエルフも居るような辺境地だ。 魔物や魔獣がいても不思議ではない!」


若い夫の言い分は分かるよ、その通りだから。


それでもコレは違う。


「人払いしますか?」と王子の側近が訊ねる。


声が盛大に廊下に漏れていて、館の客や使用人が耳をそば立てている状態だ。


「私共は皆に聞いてもらいたい!。 この辺境地では子供は酷い目に遭うんだと」


すげえなぁ、この若い夫婦は。




 僕は無関係と思われる子供二人とその保護者を部屋から出してもらう。


『アタト様』


「ん?」


『座ってください。 今日は一日忙しくて、お疲れでしょう』


モリヒトが魔法でヒョイッと椅子を一つ、僕の傍に寄せる。


「まあな。 もういいか」


『はい』


僕はその椅子に深く腰掛け、王子にも勧める。


「殿下も皆様も、どうかお座りください」


王子の側近や辺境伯の家令が皆の椅子を用意している間も、若い夫婦は僕を睨んでいる。


さらに、


「アタトくん!、大丈夫?」


と、ヨシローやティモシーさんまでやって来てしまった。


あーあ、僕は目立つことは嫌いなんだが。


 


 人が集まって来ると若い夫婦はイライラし始めた。


「こ、こんなことをしている間に我が娘はどうなってしまうか!」


「そうです、殿下。 早く子供を!」


王子は、訴える夫婦を横目に僕を見る。


「アタト、お前がやったのか?」


失礼な。 でも。


「この芝居はもうすぐ終わりますよ」



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