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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百八話・女性の会話には入らない


 結局、王子にヨシローを紹介することになった。


衣装の貸し借りで簡単な挨拶はしたようだが、一応、正式に紹介する。

 

「ほお、其方が今代の『異世界の記憶を持つ者』か」


今のところ、この国ではヨシローしか確認されていない。


先ほどまでの王子のヨシローに対する認識は、ただの「田舎貴族の若者」程度だったようだ。


紹介するのを早まったかな。


でもケイトリン嬢の付き添い相手なんだから、すぐににバレるよな。


王子が興味を示せば、だけど。




 クロレンシア嬢とケイトリン嬢は、未婚の成人女性が他にいないこともあって意気投合中だ。


「クロレンシア様、とても素敵なドレスですね」


ケイトリン嬢が羨ましそうに褒める。


「あらそう?。 私は騎士服のほうが好きだけど、今日はダメだって」


辺境伯夫人の方をチラリと見る。


あー、ちゃんと夫人にチェックされてるんだ。


「まあ!。 騎士服のクロレンシア様も素敵でしょうね」


ポーッとしたほんのり赤い顔でケイトリン嬢が応える。


「後で見せてあげる」


こっそりと耳打ちする公爵令嬢。


「本当ですか!、う、うれしいっ」


いやいや、あんたらコソコソと何やってんの。




 もう、お茶でお腹もタポタポなので話を振ってみる。


「それで、ティモシーさん。 式典も終わりましたし、僕たち、もう帰っていいですよね?」


帰りたーいって分かってくれ。


「え?、せっかく領都に来たのに、もう帰っちゃうのかい?」


ヨシローがさっそくいらんことを言う。


「ふふっ、今代様は話が早い。 良ければ王都に来るかい?、もっと賑やかだよ」


そりゃそうでしょうよ。


「へえ、王都かあ」


ヨシローは少し考える振りをするが、


「やっぱり辞めておきます、恐いですから」


と断った。


恐がりの小心者で良かったよ。


例え王子でも『異世界人』の意思に反することは出来ない。




 だけど、それで王子が引き下がるわけがなかった。


「そういえば、ティモシーの実家の店は王都に近かったよな」


「ええ。 左様ですが」


ティモシーさんは王都に近い町に実家がある。


「実家の食料品卸の店には色々と面白いものがあると聞いたぞ。


もしかしたら『異世界の記憶を持つ者』が気に入る食品もあるのではないかな」


「え」とヨシローが目を輝かせる。


「ティモシー、ねね、米とかない?。 麦じゃなくて、穀物だけど粒が大きくって」


僕はヨシローの腕を引く。


「殿下の前でそれはマズイです」


小さな声で囁く。


「あ、すみません」


『異世界の記憶』は勝手に披露してはいけないのだ。


「ティモシーと我は友人だ。 遠慮はいらない」


衣装の貸し借りをしたばかりだ。 ティモシーさんも否定出来ない。


そして『異世界人』の意思は尊重される。


「まあ、その気になったらいつでも言ってくるが良い」


フフフッ、と笑う王子の顔が胡散臭い。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「ケイトリンさん、私とお友達になってくださらない?」


「えっ、わたしなんかでよろしいのでしょうか」


「ふふっ、私の方が年上だけど、あまりお友達がいないのよ」


「わ、わたしは田舎育ちなので、クロレンシア様のような素敵な女性と知り合う機会もございませんでした。 知り合いになれただけでも感激です!」


「嬉しいなあ。 男性はすぐにチヤホヤしてくるけど、皆、下心というか、女性なら誰でも良いのが丸分かりで嫌いなのよね」


「あ、それは分かります。 わたしもいずれは親の命令で嫁ぐと分かっていますが。 その、値踏みされるような扱いをされるのは、もう辛いというか」


「あら、何それ?。 親がそんな扱いをするわけ?」


「いえいえ、その、男性が訊ねて来ることはあるのですが、どうもその方の目が気になりまして」


「そうねえ。 どうしても婚姻候補という目で見られますものね」


「はい」


「あの『異世界人』も胡散臭いわねえ」


「いいえ、サナリ様はそれほどでもないですよ。 お優しい方です」


「あら、そうなの、ふうん。 それにしてはあなた、一緒にいてもあまり浮かない顔をしている気がしたけど?」


「えっと、実はわたし、ここに来る直前に失恋してしまいまして」


「あら、その話を詳しく!」


「筋肉質なのにちっとも力自慢しないし、大きな手でもとても手先が器用で素晴らしい作品を作る職人さんでして……本当に素敵な方でしたの」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



 とにかく、どーでもいいから早く帰らせろ。


僕はタヌ子のことも心配だし、ガビーたちドワーフの工房や、ウゴウゴだって。


「新しい魔物だと?」


何故か王子が食いついて来た。


「うん。 アタトくんが研究用にワルワさんに獲って来てくれてね」


ヨシロー、その話はしても良いのか?。


「魔物、コワイ」


クロレンシア嬢はダメっぽいな。


あー、モリヒトのあのスライム状態を見たせいか。


恐がらせてすまん。


「あはは、そんなのは目の前にいる魔物が一番怖いさ」


王子は訳知り顔で僕たちを見る。


「そうですね。 一番恐ろしい者は身近にいると思います」


王子と顔を見合わせてニタッと笑う。




「でも、辺境地って本当に危険なの?」


クロレンシア嬢はこの辺境伯領に来たのは初めてのようだ。


公爵家の両親からは「危ないから」とずっと行くことを止められていた。


今回は王子が「大丈夫」と口利きをして辺境伯領の祭りに招待してもらったらしい。


「私、気味悪い魔物はダメだけど、魔獣なら狩れると思うのよね!」


立ち上がって主張する公爵令嬢。


「だから王子、どこか危険な場所へ行かない?」


行かない行かない、と王子は首を横に振る。


「私、剣の腕も普通の兵士には負けないくらいがんばってるのに」


フンッと鼻息荒く、ドレスから覗く腕を見せる。


あはは、確かに程良く筋肉は付いているが、やはり細くて白い令嬢の手だ。


勝手に突撃して行きそうだから、公爵にすれば危ない場所には行かせられないと思ったのではないかな。


「お前はそんなんだから、その年齢でも未だ求婚者の一人もいないんだろう」


「殿下、私のことはお構いなく。 どうせ、そのうちお父様がお決めになるから」


投げやりな声が漏れた。



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