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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百六話・公爵家の昔話を聞く


 領地から来た一行の中で代表者といえば領主代理であるケイトリン嬢だ。


そのケイトリン嬢が白目を剥いて倒れているので誰かが応えなければならないが。


ティモシーさんには、ケイトリン嬢に駆け寄りそうになってるヨシローを抑えてもらっている。


ヨシローはまだ王子とは正式に面会してないはずなので、しばらく接触は避けたい。


だから僕が代わりに応えるしかない。


「承知いたしました。 ケイトリン嬢に代わりまして、ご領主にお伝えしておきます。


ご領主は期待に応えるべく益々精進し、国のため、民のために努めることでしょう」


僕は領地の皆と一緒に王子に対して礼を取ると、辺境伯は頷いた。


僕たちを魔物だと思っている王子は微妙な顔だ。


ほら、公爵令嬢もそれで良いのかと複雑そうな顔で見ている。


ふふふ、魔物が人の世界で生活するための知恵ってもんさ。




 その後、ケイトリン嬢とその一行は退室することになった。


体格の良い護衛メイドがケイトリン嬢を抱き上げ、ヨシローと教会警備隊の若者が付き添って出て行った。


後の者たちは、世話になっている領都の教会に戻り、町に戻る日まで自由になる。


さらに辺境伯邸の使用人たちも下げられた。


家令と信頼された護衛、王子と令嬢騎士、その側近が残る。


何だか疲れたな。


僕は早く部屋に戻りたい。


「何か、まだお話があるのでしょうか?」


僕の声がイラついているのを察して、ティモシーさんがモリヒトの隣に座るように促した。


「いや、僕は」


眷属らしく断ろうとすると、グイッと腕を掴まれる。


『座ってください』


モリヒトの声は懇願が滲んで、僕はおとなしく座るしかなかった。




 落ち着いたところで辺境伯が口を開く。


「この後の晩餐会で、ケイトリン嬢をサナリ殿の付き添いにしたが、エルフ殿のお相手をどうするかという話になりましてな」


僕はチラリと主人を見る振りをする。


『我々には、そういう相手は必要ない』


モリヒトが答え、僕も頷いた。


「しかし、王族も出席される晩餐会なので、そういうわけには」


僕は、渋い顔をした辺境伯に訊ねる。


「普通の人族の方は、相手がいない場合どうするのでしょうか?」


王子が口を挟む。


「当日までに何とか自力で探すか、主催側が用意するか、であるな」


顔を赤くしてクロレンシア嬢が声を上げる。


「私!、私がエルフ様の傍に」


モリヒトがエルフではなく魔物だと思っているはずなのに、良いのか?。


「いや、それは拙い。 レンシアを引っ張り出したら我が公爵に叱られるわ」


ほら、王子が真っ当なことを言って反対している。


おとなしく魔物ではない王子の隣に座っておけ。




「では、辺境伯閣下のお身内に女性は?」


ティモシーさんが訊ねた。


大切な招待客であれば、主催者側の親族が務めることが多いらしい。


「残念ながら、私共には子供はおりませんので」


辺境伯の言葉に夫人の顔色が悪くなる。


「幾度か養子を取る話もありましたが、何せ辺境地ですからな。 なかなかご縁がございません」


「っていうかー。 決まりそうになると、当人や親が辞退するのよ」


思ってもいなかった不穏な言葉がクロレンシア嬢から出て来た。


「それは……なかなか楽しそうな話ですね」


僕は魔物らしくニヤリと笑ってみせる。


しかし、子供の話になると辺境伯夫人は悲しげな顔になり、王子に断りを入れて自分の部屋に戻ってしまった。


「お相手はこちらで探しておきましょう」


そう言って、辺境伯は話を打ち切った。




 やれやれ、やっとか。


僕たちが部屋に戻ろうとすると、王子の側近が近寄って来た。


「殿下から話がある」と言われるとヨシローの件もあって断りづらい。


「分かりました。 少しだけお邪魔します」


晩餐会開始まであまり時間はないので、ちょっとだけだぞ。


 豪華な別棟の王子の部屋に入るとクロレンシア嬢もいた。


「ごめんなさい。 私がお願いしたの」


ほお?、案外この王子は女性に弱い。


「構いませんよ」


モリヒトには舌打ちされた気がするが、まあ良い。




 クロレンシア嬢によると、辺境伯領は、元々公爵家出身で騎士だった男性が引退する時に国王から賜った土地だそうだ。


かなり腕の達つ護衛であり、心から頼れる友人でもあった。


「その人が辞めるって言うから国王が怒っちゃって、辺境地を押し付けたって話よ。


厄介な異種族のいる飛び地まで付けて」


ほお、面白そう。


「その話は正確ではないな」


王子も参加する。




「その公爵が近衞騎士を辞める原因になったのは、恋人を国王の側室にされそうになったからだ」


その娘は貴族ではなく、出入りしていた他国出身の商人の娘だった。


「そのままでは別れるばかりか、恋人が目の前で他の男のものになる姿を見ることになる。


そいつは王都から離れることにしたのさ」


「側室の話は断れなかったのですか?」


先に結婚してしまうとか、何とか出来なかったのかな。


「国王が相手では親も拒めず、話は進んでいたが」


王子は公爵令嬢と顔を見合わせて、ため息を吐く。


「後宮入り直前に女性が自害した」


商人である親が娘から頼まれて他国から仕入れ与えた毒だったそうだ。


騎士は既に王都を去った後の話である。


「王族と公爵家当主しか知らない話だ、内密にな」


恋人の死を知った騎士の無念さは如何許りだったか。




「んで、それから公爵家は王族とは仲が悪いのよ」


公爵家は王族の次に位置し、上位貴族の上に位置する。


そして、辺境伯家は公爵家の分家に当たる。


「そのせいで、辺境伯には貴族からの養子の話があまり来ないのよ」


王族に睨まれることが分かっていて、子供を養子に出す親はいない。


子の幸せを願わない親はいないからな。


 最近では養子の打診があると、その子供自身に何か問題があると疑わざるを得ないことが多くなった。


「実際に調査してみると子供自身の素行に問題があったり、すでに病で亡くなっていたりして」


益々、辺境伯夫人の心労が溜まっていったという。


「わざとそういう子供を斡旋しているのかも」


クロレンシア嬢は養女の話を聞き、心配して辺境伯領に来ていたらしい。



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