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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百四話・午後の式典の衣装


 その朝食の席で、僕たちは式典の内容を知らされる。


昨日と同じ中年の家令が何かの紙を読み上げた。


「本日、朝食後に衣装や装飾品の準備を始めて頂きます。


準備が整いましたら、奥様が一度確認なさいます。


大丈夫となりましたら、式典の時間までお部屋でごゆるりとお待ちください」


辺境伯夫人の仕事は身だしなみのチェックか。


不合格だとどうなるのかな?。


「式典に相応しくないと判断いたしましたら、我が家のものをお貸しいたしますわ」


お、夫人の声を初めて聞いた。


なるほど、みっともない格好で出るなということか。




「式典の時間となりましたら部屋へお伝えし、馬車までご案内いたします」


近くても人が多いため馬車を使う。


また、そのほうが特別に招待された客だと周りにも分かり易い。


「式典では、関係者から皆様のご紹介や説明がございます。


その後、辺境伯閣下から褒賞の発表がございますので速やかにお受けくださいませ」


その褒賞が何かはまだ秘密なのかな。


僕の分もケイトリン嬢に渡すように仕向けたけど、最終的にどうするかは辺境伯次第だ。


「それにて広場での式典は終了となり、皆様には再び屋敷にお戻り頂き、夜の晩餐会の準備をお願いいたします」


ハイハイ、分かりましたよ。




「何かご質問はございますか?」


と、問われたが僕には特に異論は無い。


モリヒトも無表情のまま座っている。


ケイトリン嬢が「あのー」と声を上げた。


辺境伯が頷き、家令が「どうぞ」と促す。


「本日は盛大な式典にお招き頂き、ありがとうございます」


まずはお礼から。


ケイトリン嬢も領主令嬢らしいことが出来るんだなあ。


「その、式典には、あの、私の領地の客人であるサナリ様を同行させて頂いてもよろしいでしょうか」


辺境伯は一瞬、考えたようだが、サナリとは『異世界人』のヨシローのことだと思い出して頷いた。


「もちろんだ。 『異世界の記憶を持つ者』は我々にとっても特別な客人であるからな。


晩餐会でもケイトリンが付き添ってくれ」


ほお、ケイトリン嬢の付き添いではなく、ケイトリン嬢が付き添いになった。


さすが『異世界人』だ。


これでケイトリン嬢をヨシローに任せて、サッサと引き上げられる。


民衆や貴族に囲まれるなんてゾッとするからな。




 最後に辺境伯から、


「本日の式典の主賓は其方らだ。 わきまえるように」


と、通達がある。


「はい、承知いたしました」


ケイトリン嬢と僕は椅子から立ち上がり、礼を取る。


辺境伯は頷き、夫人と共に食堂を出て行った。


僕たちも興味なさそうに座っていたモリヒトを促して食堂を出る。


 そして、僕はケイトリン嬢の部屋まで行き、


「すぐにヨシローさんとティモシーさんが来ますから、ご安心くださいね」


と、笑って緊張を解す。


そしてしばらくの間、ケイトリン嬢の部屋でヨシローたちを待つことにした。




「おはようございます!」


無駄に元気なヨシローの声である。


「いよいよ今日だね、緊張するね」


おい、令嬢をさらに緊張させてどうする。


「あ、あの、サナリ様」


「ケイトリン様、どうしたの?。 いつも通り『ヨシロー』で良いよ」


いやいや、ケイトリン嬢がヨシローを呼び捨てにしていた事実はない。


冗談で笑いを取るつもりなら失敗してるぞ。


「ヨシローさんが、その式典に参加出来ることになりました」


「え、どういうこと?」


何で僕を見るのかな。


「ケイトリン嬢の付き添いをお願いします。 夜の晩餐会も一緒です」


僕は代わりに答える。


「あー、それは良いけど」


うん、ヨシローならそう言うと思った。


だけど。


「ヨシロー、その服しかなかったの?」


確かに他所行きぽい服だけど、あくまで平民の一張羅。


これじゃ、辺境伯夫人のお眼鏡にはかなうまい。


僕はティモシーさんを横目で見たけど、今さら無理だと首を横に振られた。




 軽く扉が叩かれ、夫人の到着を告げる声がする。


僕とモリヒトはケイトリン嬢が検分を受けている間に別室で着替えた。


フード付きローブ豪華版で、下は気合いの入ったガビー作の正装だ。


もうこれで十分なのだが、晩餐会用は仕立て屋の爺さんの最高傑作の正装。


着る前から肩が凝る。


 ただ、靴だけは僕のお気に入りだ。


柔らかく足にフィットし、光沢があり、シンプルなのに安っぽくない。


「こんなに履きやすいのに丈夫なんだよなあ」


『魔獣の素材を使っていますからね』


デザインには多少の流行り廃れはあるそうだが、それでも魔獣の革を使った物はなかなか手に入らないらしい。


昼と夜では衣装に合わせて色は替える予定だが、お洒落は足元から、ともいうし、僕としては気に入った靴が履けるのは何となくウキウキする。




 隣の部屋からバタバタと足音が聞こえて来た。


ケイトリン嬢のメイドさんがこちらの部屋に来て、


「ケイトリンお嬢様をこちらの部屋で休ませてもよろしいでしょうか」


と、訊いてくる。


「もちろん、大丈夫ですよ」


と、頷くと、ケイトリン嬢が疲れた顔で入って来た。


 現在、隣の部屋ではヨシローが辺境伯夫人の厳しい指導を受けている。


まあ、そうだろうな、としか言えん。


この部屋は令嬢の付き添いメイド用で、少し手狭だが小さな炊事場があり、調度品などは普通の客室とほぼ変わらない。


『ケイトリン様、お茶をどうぞ』


モリヒトはケイトリン嬢と、その隣にメイドさんを座らせ薬草茶を出す。


「ありがとうございます」


「私にまで。 ありがとうございます」


二人の女性の微笑む姿に僕も和む。




 隣は相変わらず煩いが、ティモシーさんも居るし大丈夫だろう。


やたらと人が出入りしているのは、きっとヨシローに合う服や靴などを慌てて調達しているんじゃないかな。


祭りの間は領都の店も休みだろうし、手に入れるのは簡単じゃなさそうだ。


「お、ここに居たのか」


突然、部屋にエンディ王子が入って来た。


「ティモシーに急に靴を貸してくれと泣き付かれてな」


なるほど、そっちに行ったのか。


おそらく王子のではなく、従者か誰かのを借りに行ったんだろう。


今は借りを作りたくない相手だが、仕方ない。


はあ、やれやれだ。



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