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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百三話・友情の問題と令嬢


「ありがとう、アタトくん」


礼を取ろうとするティモシーさんを止める。


教えてくれたのは王子だ。


「いえ。 礼なら殿下に」


そう言うとティモシーさんは苦笑いする。


「エンディ殿下には世話になってばかりだ」


教会派と貴族派がいがみ合っていなければ仲良くなれたかも知れない。


「僕には、お二人は仲良しに見えますよ」


お互いに相手の不利になりそうなことを事前に教えたり、避けたりしている。


うわべだけの付き合いより、よほど思いやりがあると思う。


そう言って僕が微笑むとティモシーさんはため息を吐いた。


「本当に、な」


切なそうな声だった。




 ティモシーさんは店員を呼んで酒と食べ物を追加する。


「まだ寝るには早いというか、眠気が飛んでしまったな」


明日は午後から動き出せばいいから午前中はボーっとする予定だ。


だけど、式典の前にはちゃんと説明があるそうなので、屋敷からは出ないようにと言われている。


「ケイトリン嬢は忙しそうだけどね」


今日は昼間護衛担当だったティモシーさんは、辺境伯夫人やその遠戚関係者から色々とお茶に誘われ、その対応に追われていたそうだ。


それはケイトリン嬢だけでなくティモシーさん込みのお誘いだったんじゃないかな。


「話題はもっぱらエルフ殿の話だよ」


と、ティモシーさんはこっちを見るけど僕はべぇっと舌を出す。


色々と質問攻めに遭っているみだいだし、そんなものに捕まったら大変だ。


今日、朝食後にやって来た幼子たちのようには素直に放してくれそうもない。




「そういえば、クロレンシア嬢はどういう方なんでしょうか?」


第三王子とは仲が良さそうだが、教会派というわけでもないのかな。


「よほど中央の貴族と懇意でなければ上位貴族派はいないと思うよ」


人の誕生と逝去に関する神事を扱う教会は、庶民や低位貴族には無くてはならない存在である。


よほど高位な貴族や王族、豪商でもない限り、教会に頼らずに一生を送ることのほうが難しい。


「公爵家は代々武官の家柄だからね」


王族のうち、王位継承権を持たないのが公爵家。


クロレンシア嬢の父親もややこしいことに首は突っ込みたくない人のようだ。


「彼女は上に兄も姉もいる。 本人は婚約者も持たず気ままに騎士なんてやってるけど」


いつまでそれが持つだろうか。


行き遅れになりそうな彼女も、いつかは家のために嫁ぐ。


「エンディ殿下は彼女を妹のように可愛がっているけど」


いずれどこかに嫁がされる従兄妹を哀れに思い、今だけでもと我が儘を許している。


「あのお二人がくっつく未来はないのでしょうか?」


「ああ、それなあ」


学生時代は色々と噂になったが、結局はクロレンシア嬢の両親が許さなかったそうだ。


エンディ王子が王宮では『奇行王子』なんて呼ばれているせいだろう。




 王都の貴族といっても色々あって、教会派と対立しているのは文官の家が多いそうだ。


「宰相や大臣といった派閥だね」


おおう。 いくら王族は中立だといっても宰相や大臣なんかと対立したら国の政を邪魔されかねない。


だから高位貴族寄りになってしまうのか。


「私の父も元は国軍の兵士でね」


横暴な貴族のやり方に反発し平民を庇ったことで首になった。


その後、しばらく教会警備隊にいたが、結婚して子供が出来たことを機会に商人へと転身。


今では大きな食品卸の店を経営している。


「昔から、父より姉のほうが商才はあったけど」


音楽の才能があったティモシーさんのお姉さんは、市場で買い物客に笛を聞かせていたそうだ。


それで常連客が多く付いたという。


「私も故郷の町に帰った時は手伝うけど、未だに姉のご贔屓さんがいて、私にまで笛を吹いてくれと言ってきて困ってるよ」


ティモシーさんは姉が大好きなのだろう。


今まで見た中でも一番の笑顔が見られた。




 僕たちは辺境伯邸に戻る。


夜も遅かったせいで部屋担当の執事には迷惑を掛けたみたいだ。


「お出かけになるのでしたら私に一言お願いいたします」


「はい」


別にいいじゃねえか、ガキじゃあるまいし。


あ、ガキだったわ。


「すみません、ティモシーさんと一緒だったので大丈夫だと思って」


ていうか、僕はエルフの眷属精霊だから人族と同じ扱いしなくていいよ。


「申し訳ございません。 誰も精霊様のことをよく存じませんので」


そりゃあ失礼した。


「心配してくださってありがとうございます」


と、ニコリと微笑んだ。


部屋の中でもフードは滅多に取らないけど、この時は悪いのは僕なので顔を見せていた。


「なんと、お可愛らしい」


なんだがワナワナと震えているけど、大丈夫か、この人。




 翌日は、朝食会に呼ばれたので普段着の豪華版に着替える。


おそらくヨシローは来ていないだろうから、僕はケイトリン嬢を部屋まで迎えに行った。


「失礼します、ケイトリン様」


「あ、アタト様」


何だかケイトリン嬢も警護メイドも疲れた顔をしている。


「大丈夫ですか?」


僕はモリヒトを呼び、彼女たちに回復の魔法を掛けてもらった。


「ありがとうございます、あの」


「ん?」


多少すっきりとした顔でケイトリン嬢が何か言いたげに僕を見る。




「あの、いつまでアタト様とモリヒト様を入れ替えられるのでしょう?」


今までの認識と逆になっているので間違えそうだと。


「簡単ですよ。 知らないで通せばいいんです」


たまたま出会って、たまたま力を貸してくれたと言うだけで良い。


ケイトリン嬢とメイドが顔を見合わせる。


「ちょっと余計な話をしたかも知れませんわ」


そうなの?。


「ヨシロー様が」


メイドの話では子供たちに集られたヨシローが僕のことを何かしゃべっていたと。


「はあ、そうですか。 後で確認しておきます。 お二人はあまり気になさらず」


「ありがとうございます」


ケイトリン嬢の支度も終わり、僕たちは一緒に食堂に向かう。


上質なフード付きローブ姿のモリヒトと、その後ろにちょこんと立つ少年。


僕のことをエルフだなんて言っても誰も信じないと思う。


 食堂は静かだった。


使用人と、午後からの式典に出席する僕たちと辺境伯夫妻のみだったからである。



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