表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/667

第百二話・王都の教会の危機


 それって、わざわざヨシローを王都に連れて行く意味はなんだ?。


「何故、こちらにその魔道具を持って来ないのですか?」


動かせない理由があるのかな。


デカいとか、かなり高価だとか。


「教会の、誰が持っているのか分からないようになっているらしい」


過去に、この国に現れた『異世界の記憶を持つ者』の一人が作ったといわれる魔道具。


国に一つしかない、大変希少なものであることは確かだが。


「分からない?」


王子は頷く。




「教会内部でも悪用を恐れて、代々の管理者が亡くなる直前に継承者を決めるらしくて」


完全に非公開。


それはそうだろう。 誰でも使えたら冤罪を生む可能性が高い。


冤罪は違うか……自称『異世界の記憶を持つ者』を暴くだけだろう。


ああ、そのための抑止力なのか。


「立ち合う神職さんも限定されてるんでしょうね」


「もちろんだ。 神官だろうが、祭司だろうが、厳しい修行と民からの尊敬。 何より神の声を聞く才能が必要になる」


あー、最近、亡くなったとかいう神官さんが確かその才能を持っていたって聞いたな。


今は誰が引き継いだのか不明な状態なんだろう。


それを炙り出すためにヨシローを使うということだ。


なんて厄介な。




「我としてはヨシローが王都に行くことになれば、必ずティモシーもついてくる。


それなら、まあ良いかと」


王子としては反対しないそうだ。


そもそもこの問題は王都の教会本部の内部の話なので、王族でも口を挟めない。


「ヨシローさんさえ頷けば、でしょうけどね」


この世界では『異世界の記憶を持つ者』の意思が最優先される。


それが本当に本人の希望なのかどうかも、その魔道具で判明するそうだが。


「どちらにしても王都まで来いということだ」


僕は眉を寄せる。


あまりにも乱暴な気がするけど、ヨシローなら「行く」と言いかねない。


「教会本部からの要請なんでしょうか?」


それならティモシーさんが知っているはずだが、そんな話は聞いていない。


「王都からここまで20日だ。 手紙にしてもまだ辺境地の教会に届いていないんじゃないかな」


その前に、諜報から話を聞いてしまった王子が来たわけだ。


「ここまでなら馬で15日程度で済む」


若い騎士だけで飛ばして来たらしい。


「お蔭で祭りの数日前には到着したぞ」


王子は笑っているが、従者や護衛さんたちは大変だったろうな。




「じゃあ、クロレンシア嬢もですか?」


「ああ、あれはちょうどこっちに居たんだ。 彼女は辺境伯夫人の遠戚に当たる」


なるほど。 親戚のお嬢さんなら祭りの前にここに居ても不思議ではない。


本来、女性近衛騎士は女性の王族に付く。


たまたまこちらにいたというだけで護衛に加えたと言うが、絶対に公爵令嬢の我が儘だろう。


「あれはあれで剣も馬も、そこら辺の新兵より使えるぞ?」


だそうである。


「もし『異世界の記憶を持つ者』が承諾したら」


あ、王子の顔がまた嫌らしくなる。


「お前も来ないか?、アタト」


「お断りします」


ハッキリキッパリ、御免である。


「まあ良い。 祭りが終わるまでに考えておいてくれ」


王子一行が王都に戻る際に同行させる気らしい。


どちらにしても、明日は式典と晩餐会。


それが終わるまでは逃げられない。




 部屋に戻って考える。


「ティモシーさんはまだケイトリン嬢の警護かな?」


『そろそろ交代された頃では?』


夜番との引き継ぎ中のようだ。


「引き留めておけ」


『はい』と頷き、モリヒトが姿を消す。


僕は王族対応用の服から普段着に着替え、その上に普段着ているフード付きローブを羽織った。


『ティモシーさんに裏口で待ってもらっています』


「ありがとう、モリヒト」


そして僕たちも裏口へと向かった。




 兵士や使用人たちが出入りする裏口は、広場のある表通りから見えない位置にある。


「お待たせしました。 お疲れのところ申し訳ありません」


僕は軽くティモシーさんに礼を取る。


「いや、別にいいけど。 どうしたの?、アタトくん」


「歩きながら話します」


モリヒトはすぐに姿を消し、領都にある教会支部へ二人で歩く。


「エンディ殿下から聞きましたか?。 新しく来た教会本部からの要請」


「え、いや、まだだ」


王子はティモシーさんにまだ話していなかった。


まあ、昼間は周りにたくさん人がいるしな。


「教会では話にくいので、どこか飲食店に入りましょう」


祭りで賑わう広場は屋台が並んでいる。


皆、屋外に出ているテーブルや椅子を使って、あちこちから買って来た好きなものを摘まみながら酒を飲んでいた。


「では、こちらに」


ティモシーさんが裏通りにある店へと案内する。


「ここは警備隊でも内容が大っぴらに出来ないことを話し合うために使う店でね」


重い扉は客を選びそうなほど陰湿な感じになっている。


これは入るのに勇気がいるだろう。




 カウンターしかない飲み屋のような店内。


その奥へ向かうと小部屋になっていた。


部屋の中でモリヒトが姿を現す。


店員は軽い酒と摘まみを置いて行った。


僕には果汁のようだが。


『防御と防音、隠蔽の結界ですね』


何やら物々しいが、この世界では当たり前なのかも知れない。


「殿下が何か言ってきたのか?」


「僕にではありません」


モリヒトが荷物からコーヒーが入ったポットを出し、カップに注いでくれる。


「殿下の諜報員が教会本部での噂を聞き込んだようで」


教会本部と聞いてティモシーさんの顔が険しくなる。


何か心当たりがあるのか。


「王都へヨシローさんを呼ぶつもりらしいです」


観光だとか甘いことを言って招待という形にするつもりだろう。


だけど実際は魔道具を使っての実験台にする気である。




『異世界人を判別する魔道具』


「異世界の記憶があるかないかを確認するための魔道具か」


ティモシーさんは酒を呷る。


「神官の爺さんが亡くなってから、その魔道具が行方不明なのは知っていたが」


誰が継承しているのか、それを炙り出そうとする教会本部の、一部高位神職者の思惑だ。


「正当な継承者から取り上げようというつもりか」


おそらく前の継承者から自分が受け継がなかったことを恨んでいるのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ