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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第百話・王子の機嫌は取らない


 僕は、部屋に戻る途中で若い執事に頼み事をした。


「第三王子殿下にですか?」


「そうです。 お会いしたいので、ご都合を伺ってもらえますか」


王子の滞在をどうして知っているのかと、不思議そうな顔をしていたが取り次ぎはしてくれるようだ。


バタバタと駆けて行った。


たぶん、辺境伯に聞きに行ったんだろう。


別に急がないから、そんなに慌てなくてもいいのに。


 一旦部屋に戻り、いつでも出られるように王族対応用に着替える。


まだ午前中なので普段着の豪華版でいいよな。


ていうか、ガビー、いったい何着作ったんだよ。


『荷物の容量に制限は無いと伝えたら、アレもコレもと渡されまして』


モリヒトも何でも受け取らないでくれ。


今の荷物用結界の中身がどうなってるのか、見たいような見たくないような。


そう思っている間に執事が戻って来た。


「殿下がお会いになるそうです」


「ありがとうございます」


と答え、部屋を出るため、フード付きローブ豪華版を羽織る。


僕たちのベッドでガッツリ寝ているティモシーさん宛にメモを残して。




 王子の部屋に入ると、すぐにモリヒトが内側だけに結界を張る。


魔力の揺らぎに護衛の騎士たちが動こうとするが、王子は「心配ない」とそれを止めた。


『防音だけです』


モリヒトが簡潔に答える。


人の出入りは自由だが、部屋の内外で話し声を遮断させてもらった。


 王子の部屋に居た騎士たちは、辺境伯の領兵たちとは明らかに装備が違う。


垢抜けたというか、洗練された感じがした。


おそらく、王都から来た王子専属の近衞騎士たちだと思われる。


以前、辺境の町に来た時は警護役は辺境伯の兵士が多かった。


王子もあまり気を許していない感じだったが、ここに居るのは、よほど気の知れた騎士たちなのだろう。


王子の雰囲気が柔らかい。


「久しぶりだな、アタト」


「はい。 エンデリゲン殿下」


名前は先ほど執事に訊いた。


「エンディで良いと言っただろ。 我とお前の仲だからな」


いきなり砕けた口調になった。


「こいつらはエルフの顔をした魔物だ。 お前らなんて敵わねえよ」


王子が近衞騎士たちに向かってそう言うと、彼らは冗談だと思っているのか苦笑いを浮かべる。




 部屋にお茶とお菓子が用意された。


モリヒトは僕を無理矢理、椅子に座らせ、自分はその後ろに立つ。


このほうが落ち着くらしい。


まあ、王子には知られているから良いか。


 僕の向かいにだらしなく座っていた王子は姿勢を正してお茶に手を伸ばす。


「わざわざ祭りを見にいらしたのですか?」


と、訊ねる。


前回やって来てから、そんなに日数が空いていない。


つまり、片道20日掛かって王都に戻って再びこちらに向かうとなると、到着して間も無くこちらに向かったことになる。


僕の問いに、王子は草臥れた笑顔で応える。


「色々事情があってな。 今、その元凶を呼びに行かせた。 そっちこそ、ティモシーは来ていないのか?」


「いえ、一緒に来ていますよ。 今は部屋で寝ておりますが」


別に体調が悪いわけではなく、単なる睡眠不足だと言うと王子は笑った。


「あははは。 騎士のくせに辺境地で鈍ったんじゃないか」


すぐに「叩き起こして連れて来い」と傍にいた騎士に指示を出した。


かわいそうに。 もう少し寝かせてやりたかったな。




「失礼いたします!」


元気良く扉が開き、女性の声がした。


「来たか、クロレンシア」


若そうな女性騎士だ。


モリヒトを見て目が輝いている。


「アタト、我の従兄妹で公爵令嬢のクロレンシアだ。 どうしてもエルフを見たいと強請られてな」


なるほど。 王子でも勝てない相手がいるらしい。


僕はお菓子を口に入れ、喋らない体勢を取る。


モリヒトが嫌そうな顔で会釈した。


『アタトとモリヒトです。 お見知り置きを』


公爵家で従兄妹ということは国王の血筋か。


確か王子の母親は平民出の側室だからな。


公爵令嬢なのに騎士とは、かなりのお転婆なのだろう。


王子でも御せないくらいに。




「私、クロレンシアよ。 あなたならレンシアと呼んでも構わないわ!」


と、モリヒトに擦り寄っている。


益々、モリヒトの機嫌が悪くなるので止めてほしい。


「止めなさい、クロレンシア。 相手が困ってるのが分からないのか」


王子が注意しても、


「わ、私、本物のエルフを見るのが夢だったの!」


と、僕たちも無視して勝手に盛り上がっている。


『すみませんが、お嬢さん。 わたくしは本物のエルフではございません』


「え?」


王子がクックッと笑いを堪えている。


僕はボリボリと菓子を口に入れて、様子を伺う。




『辺境伯には内緒でお願いします』


モリヒトは一瞬で姿を変えた。


ブッ、と吹き出しそうになってしまった。


よりによってウゴウゴの人型である。


体表面をヌルヌルの皮膚にし、目鼻はなく、全体的に人の形というだけになる。


「ヒッ」


護衛たちは緊張を高めるが、王子は面白そうに笑って見ていた。


令嬢が離れたところでモリヒトが元のエルフの姿に戻る。


『決して、口外しないでくださいね』


ニコリと笑ったエルフに顔を引き攣らせる令嬢。


護衛たちも唖然としていた。




 クロレンシア嬢は、部屋にいた王子付きの従者に勧められてストンと椅子に座った。


ショックが大き過ぎたのか、言葉も出ない。


「我の言ったことは本当だったであろう?」


自慢気な王子に、僕は首を傾げる。


「これだけのためにいらしたのですか?」


我が儘な令嬢に付き合って、再びやって来るには辺境地は遠過ぎると思うが。


 一瞬、空気がピリッとしたのは王子が緊張したからだ。


飲んでいたお茶のカップをテーブルに置く。


「前に相談したヤツだ」


ティモシーさんの姉が『異世界の記憶を持つ者』ではないか、と疑われている件か。


僕はチラリと公爵令嬢を見る。


彼女にこんな話を聞かせてもいいのか?。


「ああ、こいつは大丈夫だ。 我の言うことには従うよう言い聞かせた」


ウンウンと頷く騎士服の令嬢。


「その約束で会わせてもらいましたから」


日頃から色々と王子に無理を言って振り回しているそうだ。


その面白そうな武勇伝は、後日、聞かせてもらうことにしよう。



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