皆大好きおっ〇い
私マリサ・アルクステッドは一応伯爵家の娘である。
アルクステッド家の女性は家系の恩恵なのだろうか、その昔魔法が使える貴族の血筋が入って来た事もあり、魔法の素養がある女児が生まれる事がある。
そしてその女児はアルクステッド家に幸福と発展をもたらすと言い伝えがあるのだが、私はそんな言い伝えをちゃんちゃら信じていない。
「――マリサ? 食が進んでいない様だが?」
食卓を囲む父は心配そうに私の顔を眺めている。
「少し寝不足みたいで……」
そう……。
昨日は少し飲み過ぎてしまった。
クレアールに連れ帰られた私は泥酔しており、朝からクレアールにお説教をされてしまった。
「あら? 今日の社交界が楽しみで眠れなかったの? 楽しみよね〜! ママも慣れない時は素敵な殿方にエスコートして貰ったわ」
「お父様は素敵ですもの」
私は微笑みながら母に言葉を返すと、母は嬉しそうに頷いたのだが……。
「はっはっは! ママはマリサの様に綺麗だったからな」
「……だった?」
父の余計な一言で、母の笑顔がピシリと固まる。
「貴方……? 女遊びも構いませんが……」
「ち、違う! そういう事を言ってるのではなくてだな!?」
「じゃあどういう事か説明をして頂きましょうか?」
これが私の父と母のいつもの光景だ。
父はアルクステッド家の当主として名を馳せており、母は王家の血筋を引いた由緒正しい血の持ち主である。
私は幸いな事に父と母の良い所が遺伝している様で、顔も身体付きもそれなりに整っている。
母も年齢以上に若さを保っており、私は母の胸を見て溜め息を吐いた。
「――まったく! あらマリサ? どうしたのよ溜め息なんか吐いて?」
「いえ、お母様はいつでもお綺麗だと眺めていました」
母は嬉しそうに私を慰めてくれる。
「心配しなくてもマリサは私以上に綺麗よ! ねぇ貴方?」
「そうだぞ? マリサはパパとママの子供だからな! 自信を持ちなさい!」
「そう言って頂けると私も胸が軽くなります」
言葉通りの意味だ。
胸が軽く……なって欲しい!
無駄に大きく育ったこの胸が憎らしい!
二人は娘が社交界の不安で悩んでいると思っているみたいだが、そうじゃないっ!
社交界と言えばドレスっ!
ドレスと言えば強調した胸っ!
胸と言えば視線なのだ!
母から遺伝した細胞は私の胸を母より大きく作り上げ、何かと視線を集める。
チラッと見てる男共っ!
気付いてるからなっ!?
見てませんよ〜? って視線を泳がしてるけど、バレてるからな!?
あぁ、社交界なんかラフな格好でエール片手にやろうよ。
何で、美味しそうな物を尻目に興味もない人と喋らんといかんのか。
焼き鳥屋のおっちゃんとオススメに関して喋ってる方が楽しいわっ!
「それでは私は社交界の時間まで本を読んでいますね」
私はナプキンで口元を拭い、食卓を後にした。
部屋に戻るとクレアールが私が戻る時間を予測していたのか、既にお茶を入れており、椅子に座った私はそのお茶を啜る。
「むわぁぁぁ……疲れた肝臓が洗われる様じゃぁぁぁ……」
「おっさんですか貴方は」
凛としたクレアールは澄ました顔で言い放つ。
「昨日はごめんね? クレアールのおかげでお酒の匂いも浮腫も消えてるみたい!」
「良いですよ。マリサ様のお金で御馳走になりましたし」
「……ん?」
私はクレアールの言葉に違和感を覚え、ゴソゴソとお忍び用の財布を確認すると、銀貨が数枚しかなかった。
「ちょっとぉぉ! 何をお土産にしたのよ!?」
「ミノタウロスのフィレ肉を使ったカツサンドを。大変美味しゅう御座いました」
「私のお小遣いがぁ……もうおっちゃんの所ぐらいしか行けないじゃない……今日は絶対ストレス溜まるのにぃぃ!」
「あら、良いですね。この前はお土産を忘れられた事ですし、ももと皮をお願い致します」
「私の分が無くなるじゃない!?」
「大丈夫ですよ。エール二杯ぐらいと一品ぐらいは行けます」
「全然足りないわよぉ!」
午後からは社交界。
夜のお忍びグルメも侘しい物に決定した事で、私は足を丸め咽び泣いた。
クレアールは用意周到に熱い蒸しタオルを用意しており、私の目が腫れない様にケアする準備をしていた――。
◇◇◇
「おっぱい!」
1杯目のエールを飲み干した私は、本日の社交界の男性貴族の視線を思い出し、苛々とした原因をつい大声で叫んでしまう。
周りにいる冒険者達はその言葉を聞いて、ゲラゲラと笑いながら私をからかうが、私は魔法を使い掌に火を生み出すと、からかった冒険者は慌てて謝罪をしてきた。
私は生み出した火を握り潰し、一品しか頼めないこの状況を真剣に悩もうと品書きを手に取った。
「量を食べるなら軟骨……いや、エールは残り一杯しかないし……もも……は無難すぎて今じゃない」
ぶつぶつと悩んでいると、目の前に、ことり、と皿が置かれた。
「お前良く今日これがあるってわかったな? 恥ずかしげもなく大声で言いやがって」
私、なんかやっちゃいました?
ていうか、こんな串見た事もないんですけど?
「何ボケッとしてんだよ? お前が頼んだんだろ?」
「私が? 何を?」
「おっぱいだよ。ミノタウロスの。滅多に入らねぇけどな」
あぁ……今日は厄日だ……。
一品しか頼めない貴重な枠を訳の分からない料理と勘違いされてしまった。
おっちゃんの手前間違えましたと言うのは気がひけるし、私は最後のエールを注文してその串を手に取った。
見た目は程良い厚みで切られており、少し変わった肉の様だが、お味はどうか……串を口に入れ、前歯で肉を押さえ、串を引き抜き噛み締める。
おほっ! おほほほっ!
プリプリ、コリコリしている食感と共に染み出してくる脂っ!
そしておっぱいとは名ばかりではなく、乳のようなクリーミーさが脂と共に現れる!
何やねんこのおっぱい! めっちゃ美味しいやん! こんなん皆好きやんっ!
私はこのおっぱいを食べたせいで、悟ってしまった。
人類はおっぱいを愛していると……。
「ちょっと変わってるけど美味ぇだろ?」
おっちゃんはそう言いながらエールを私の元に置く。
「私は今猛烈に感動しています」
「ミノタウロスは高級食材だけどな、このおっぱいはまだ見向きもされてないからうちの店でも出せるんだ。これもあいつが持って来てくれたんだぜ」
おっちゃんが一人の冒険者を指差すと、その冒険者は先程私がビビらせた冒険者だ。
私はこんな素晴らしい物をこの店に持って来てくれた冒険者になんて事をしたのか。
先程の事を誠心誠意謝罪をすると、冒険者の男は私の胸を指差しこう言った。
――じゃあお詫びにお前のおっぱいを……。
その男はその言葉を最後に深い眠りについた。
私は席に戻りエールを片手におっぱいを食べながら、クレアールのお土産をおっちゃんに注文する。
おっちゃんは顔を引きつらせながらも、あいよ、と返事をしてくれた。
◇◇◇
お土産を片手に部屋に戻った私は、クレアールに髪を梳かされながら今日の報告をしていた。
「――でね! おっぱいは素晴らしいものなのよ!」
「そうですか。マリサ様の胸部もその内役に立つかもしれませんね……」
「クレアールも隠してるけどおっきいくせに~」
私はクレアールの胸を揉むと、その柔らかさに癒される。
そしてクレアールは凛としたまま私の胸を掴み引っ張る。
「痛い痛い痛いっ! 取れちゃうぅっ!」
「マリサ様の願いを叶えようと思いまして」
クレアールはニコニコと微笑みながらいつもの様に毒を吐いた――。
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