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3分読み切り短編集

秋の足音

作者: 庵アルス

 ちょっぴり優雅な休日を過ごそう。

 そう決意して、ちょっとだけ早起きした。

 サンドイッチを作って、折りたたみ式のバスケットに詰める。スープジャーに余り物の野菜とハム、コンソメを入れ、熱湯を注いで蓋をする。

 タンブラーにはお気に入りの紅茶をストレートで注いだ。

 キャンパス地のトートバッグに、片寄らないように詰め込む。手拭きのウエットティッシュも忘れずに。

 読もうと思っていた本を一冊、上に入れて、覆うようにブランケットを被せた。

 ストールをゆるく巻いて、ショートブーツに足を突っ込み、玄関から出かける。

 外はひんやりとしていた。空は青く晴れ渡っていて、白い雲がまばらに浮かんでいる。

 人通りも少なく、いつもと同じ道でも広く感じられた。

 街路樹は目にも鮮やかな銀杏(いちょう)。黄色に染まった葉が、一枚、また一枚と枝を離れては、道を彩っていく。

 どこかの家が植えているらしい金木犀(きんもくせい)が、芳香を惜しげもなく振りまいている。

 そこかしこに感じられる秋に、心が弾む。

 足取りも軽く、あっという間に公園へ着いた。

 池のある大きな公園で、ちょっとした庭園のようになっている。

 真ん中に遊具が集まっているが、その周辺はベンチや四阿(あずまや)があり、四季で表情を変える植物が植わっている。

 通路から少し外れる、池を臨むベンチに腰を下ろした。

 池には鴨が浮かんでいた。親子だろうか、散り込んだ葉を掻き分けながら、数羽が連れ立って泳いでいた。

 トートバッグからブランケットを取り出して膝にかける。本を取り、ぺらぺらと読み始めた。



 半分ほど読み終わった頃。

 ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。かなり大きな音だったが、幸いにも辺りに人はいない。

 そろそろお昼ご飯にしよう。

 お弁当を一式取り出す。

 保温効果の高いスープジャーに入れたコンソメスープは、冷えた体によく沁みた。時間など気にせずにゆっくりと食べるサンドイッチは、質素なものの、素晴らしく美味しく感じられる。

 食後のお茶は少し冷めてはいたものの、秋晴れの空の下で味わうと、贅沢な気分になる。

 自分だけの、特別な時間。

 目標通りの優雅な休日だ。

 池をゆうるりと流れる水に、落ち葉が連なって滑っていく。鴨はいつの間にかいなくなっていた。

 ぴゅうと吹き付ける風は北から。ひどく冷たかった。ストールを首元まで寄せる。

 頭上ではさかさかと木の葉が擦れ、見上げると赤や黄色、茶色が揺らめいている。高く澄んだ空を透かすほどに、隙間の空いた梢。

 秋の足音がする。

 遠く、南へ駆け抜ける足音が。

2020/10/23

紅葉を見に行くタイミング、見失いがち。

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